6.ヴェルカー前世の話
―― ヴェルカーの前世の名はビボ。種族はドワーフ。サンマイエで鍛冶職人を生業としていました。
鍛冶職人としての腕は超一流、ビボの右に出るものはいませんでした。
ある日、ビボの鍛冶工房に王城からの使者が来て彼に告げました。
「王子が竜討伐に出るので、王子の剣を献上するように……」
ビボは即座に断りました。
断りの理由は、
―― 竜と戦うための剣を打つにはそれ相応の材料が必要であること
―― その材料は希少であり揃えることが困難であること
使者はビボの返事を持ち帰りましたが、王子は納得せずに何度も使者を送ってきました。
ビボが住むドワーフ族の里とヒト属が治める国には【不可侵条約】が締結されていましたので、王族であってもドワーフの里に工房を持つビボに無理を強いることはできませんでした。
使者が来るたびに『材料が揃わないと竜討伐用の剣を打つことはできない』と断り続け、いつしか使者が鍛冶工房を訪れることがなくなりました。
ビボは『ようやく諦めたのだろう』とホッと胸をなでおろして、仕事に邁進する日々を過ごしていました。
王城の使者がビボの工房を訪れなくなったその半年後、『王子が竜討伐に出発したらしい』とビボの耳に噂が入ってきました。
ビボがその噂の詳細を聞いていくと、ビボのもとでかつて修業をしていた弟子の一人が王子の依頼を請け負い剣を打ったことがわかりました。
その弟子はビボのもとを去った後、閉鎖され古い考えが残るドワーフの里を嫌い、単身でヒト属が治める国に出向き鍛冶工房を持ちました。
ビボは急ぎ馬車に乗り、数日掛けて弟子の鍛冶工房を訪ねましたが、弟子は王子の側仕えとして竜討伐に出立した後でした。
ビボはできるだけ数多くの情報を集めようとしましたが、弟子の鍛冶工房の関係者たちは、
—— ビボが弟子の手柄を横取りにきた
—— 自分が断った仕事を請け負った弟子に嫉妬して邪魔をしにきた
—— 竜討伐の剣の秘法を盗みにきた
弟子の関係者たちから、けんもほろろに門前払いをくらったビボは仕方なくドワーフの里に戻りました。
弟子の鍛冶工房を訪れてから一ヵ月程して、ビボの鍛冶工房に王城からの使者がきました。
『直ちに王城に来るように』と召喚状を携えて馬車を引き連れビボを迎えに来たのです。
ビボは使者に召喚の理由を聞きましたが、使者は『自分は召喚状を届けて貴方を城にお連れするのが役目』と言い、問答無用でビボを馬車に乗せようとしました。
ビボは不可侵条約を盾に断ることもできましたが、何かよからぬ胸騒ぎがしたので、あえて抵抗はせずに素直に召喚に応じて馬車に乗り込みました。
数日をかけ王城付近に辿り着いた馬車は夜を待ち、人目に付かないように静かに裏門から入り離宮に横付けされました。
ビボは離宮の扉の前で待っていた案内人に付き従って建物の中に入って行きました。
長い廊下を抜け地下深くに降りていき、辿り着いた一室の中央に置かれた台の上に、無残にも折れた剣が一振り置かれていました。
――――――ダンッ!
セバスの話し声を遮るように、ヴェルカーが作業台を拳で殴った。
「話の途中ですまない……ここからは自分で話しをさせてくれ」
「わかりました」
「嬢ちゃんも驚かせてすまない」
「いえ、大丈夫ですよ」
ウハナは大きな音に一瞬驚いたが、それよりもヴェルカーが拳を強く握ったまま、うつむき加減で辛そうな表情をしている方が気になった。
顔を上げたヴェルカーは、「……はぁ」と大きなため息を一つ吐き出し、意を決したようにセバスの続きを話しだした。
台の上に置かれていた剣は、弟子が竜討伐のために用意した剣だった。
弟子の銘が刻んであったから間違いない。
見事に真っ二つに折れていたよ。
剣の状態から何となく分かっていたが俺は聞いたんだ。いや、弟子のやらかしを師匠である自分が聞かないと駄目だと思った。
「討伐軍はどうなった? 弟子はどうした?」と……。
俺をその部屋に案内した奴は言った。
『王子率いる討伐軍は一人を残し壊滅した』
その案内した奴こそが、たった一人の生き残りで討伐軍の副団長だったんだ。
奴が言うには、弟子は『剣の素材は最上級のものを用いて打った。更に剣に【呪の魔法陣】を刻んだから黒竜に一太刀当てられれば勝機はある』と王子に言ったそうだ。
王子は黒竜との死闘の中で散った騎士団員たちの屍を踏み台にして、黒竜に真っ向勝負を挑み刃が僅かに届いたが【呪の魔法陣】は完全に発動しなかった。中途半端な呪いがかえって黒竜の逆鱗に触れ、見るも無残な結果になった……と言う話だった。
副団長は俺に剣を確認するように命令した。
『なぜ剣は折れたのか?』
『なぜ魔法陣は発動しなかったのか?』
『なぜ黒竜は未だ生きているのか?』
『なぜ王子が命を落としたのか?』
流石に『黒竜が何で生きているんだ?』って聞かれ時は反応に困ったが、一人だけ生き残った無念さを考えれば八つ当たりされても仕方ないな……なんて呑気なことをこの時はまでは思っていたんだ。
そして俺は命令されるまま、折れた剣を注意深く観察することにした。
使われた剣の素材はすぐに見当がついた。
確かにヒト属の国で用意できる最上級の素材かもしれないが、竜の鱗を貫通するほどの威力はなく、竜討伐の死闘に耐えうる剣ではなかった。
それよりも、剣に刻まれた魔法陣を見たとき息を呑んだ。
「何でこんなものが……」と動揺して思わず言葉に出てしまったのを副団長は聞き逃がさなかった。
副団長は語気を強めて、
「それはどういう意味だ。お前の弟子は『この魔法陣は、かの魔女様から頂いた魔法陣だから絶対に成功する』と言っていたぞ!!!」
俺はそれを聞いた時に元凶は己にあると悟った。
すべて俺の至らなさがこの最悪な結末を招いたことに気付いたんだよ。
王の怒りを鎮めるためにも、副団長の無念を晴らすためにも、全ての責任を負って師匠である自分の命で償うと決めたんだ。
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