2.自分を探す場所
「質問ですか?……」
唐突に質問をと言われてウハナは戸惑っていた。
今まで自分の意見を聞いてくれる人がほとんどいない生活を送っていたウハナには、とても難しい行動だった。
「貴女は自分の考えを口にすることが苦手みたいね。凛生彩のように思った事や感じたことをとりあえず言ってみて・・・」
「凛生彩さんのように……ですか?」
ウハナが凜生彩と会ったのは灯魄に呼び寄せられた時だった。
事故死の後、十数年の間この世に留まり続けて不成仏霊になり、自我を失う寸前に神白狐様と共に灯魄の執務室に呼び寄せられウハナは自我を取り戻した。自我を取り戻したウハナの目の前に座っていたのが凜生彩だった。彼女は虹色の光を纏い、彼女に抱きしめられた時に神々しい存在と感じた。自分のような存在のために本気で憤ってくれる彼女に、自分が生きていた時の頑張りを肯定された感じがして嬉しかったのを覚えている。
「そう。灯魄の愛し子、凛生彩みたいによ」
ウハナは凜生彩に会った時に感じた疑問を口にした。
「……凛生彩さんは人ですよね? それなのに神白狐様や私のような魂と会話ができるのは何故なのでしょうか?」
「凛生彩は感受性や霊感がとても強くて、人ならざるモノや悪しきモノや悪意に敏感で、いろいろ視えてしまったり感じてしまうのよ。あれは【異能】の一種でしょうね。しかも灯魄と結びつきが強いから余計ね」
「異能?……灯魄様との結びつきですか?」
「異能と灯魄と凛生彩の結びつきについてはおいおい説明するわね。それと、灯魄は私の【ツインソウル】なの。ウハナはツインソウルって聞いたことはあるかしら?」
「はい。【魂の片割れ】と聞いたことはあります」
「その通りよ。ひとつの魂が分裂して私と灯魄になった。あの子はヒトの世を管轄して、私がここを主に管轄しているの・・・私と灯魄は魂の繋がりがあるからお互いの行動や思考は手に取るようにわかるけど、同じ世界に存在することはできない。だから実際に逢うことはないのよ・・・」
「もし、灯魄様と同じ世界で逢ってしまったらどうなるのですか?」
「どちらかが消滅するわね。そうならないように、もし灯魄が中間の世に来なければならない時は、私はもう一つの管轄している世界に行くのよ」
「魔女様が管轄しているもう一つの世界ですか?」
「ええ、ウハナの知識でわかるように説明すると【魔法が存在世界】—通称 《サンマイエ》ね。私はそこで仕事の依頼を請け負っているから『魔女様』と呼ばれるようになったの。ボダエーマで必要なものはその世界から私が調達しているわ。もしウハナが生まれ変わって魔法使いになりたいなら、その世界に送ることもできるわよ・・・ふふふっ」
「魔法の世界……おとぎ話のようですね」
ウハナは魔法と言われて未だ現実味のない感覚に戸惑いを感じながら、魔女様と話をしているうちに自分の気持ちに変化があることに気が付いた。
「あの、私のやりたいことを見つける方法ですが、先ほどセバスさんの所作がとても素敵だと思いました。私は一通りのことはとりあえずできるのですが、何かを極めたり、目立ったりすることを避けていたので、あえて平均を意識して生きていました。よく『器用貧乏』と言われていて、特質したものはありませんでしたが、セバスさんから何かを学べる気がしました。ご迷惑かもしれませんが、セバスさんのお手伝いをさせていただけないでしょうか?……お願いします」
ウハナは自分が感じたままに言葉を紡ぎ頭を下げた。
「頭を上げて。それがウハナのやりたいことならそれで大丈夫よ。ここで暮らしながらいろいろ学んで自分探しをしてみてね。あと、『迷惑になるかも』はここでは無し。私からウハナに宿題を出すわね。【わからないこと、疑問に思ったことは必ず聞くこと、遠慮しないこと】・・・いいわね」
「はい。わかりました」
ウハナは自分の思いを『それで大丈夫』と受け入れてもらえてホッとしたのと、考えを否定されない心地よさを初めて感じていた。
「セバス、ウハナのことをよろしくね!」
「承りました」
セバスは魔女様に会釈をし、ウハナに微笑みを向けた。
「セバスさん、よろしくお願いします」
ウハナはセバスに礼を執りながら笑顔を浮かべていた。
「そうと決まれば、私はサンマイエでひと稼ぎしてくるから、セバスはウハナを部屋に案内したり、この世界を案内しながら住民たちとの顔合わせもお願いね」
「畏まりました。いってらっしゃいませ」
セバスは立ち上がり恭しく礼を執り、ウハナもセバスに倣い立ち上がって礼を執った。
「魔女様、いってらっしゃいませ」
「いってきます!」
魔女様の姿がその場から シュン と消え、セバスは驚いているウハナに声をかけ、これから彼女が生活する屋敷の説明をしながらウハナの部屋へと案内した。
「こちらがウハナさんの部屋です……どうぞ」
部屋の扉を抑えたままのセバスに部屋に入るように手で促されたウハナは、失礼しますとセバスに会釈しながら部屋の中に歩を進めた。部屋の中央には一人掛けのソファとローテーブル、左の壁際にはデスクとデスクチェアー、本棚が設置されていた。右側には寝具が整えられたベットと枕元にはナイトテーブルとテーブルライトがあり、正面の窓は解放されていて、そこから入る優し気な風にツタの葉の刺繍が施されたレースのカーテンがゆらゆらと揺れていた。家具はすべて明るい木目調で整えられ、落ち着いた雰囲気の部屋はウハナが好みそうな部屋だった。
「……素敵」と呟きながら部屋を見て回るウハナに、
「ウハナさんがこれから過ごす部屋ですので、ウハナさんのお好みに合わせました。喜んでいただけたようで何よりです」
ウハナは驚いて扉の所にいるセバスを振り返ったが、セバスは当然の仕事をしたまでですと言わんばかりの満足げな笑顔をウハナに向けた。
「ここではこれが日常なのでしょうね……私も早く自分を見つけないと……」
窓の外の牧歌的な風景を眺めながらウハナは未来に思いをはせた。
今までの生き方とは違い、誰からも強要されない自分と向き合う時間ができたことに少しだけ心が弾んでいるのをウハナは感じていた。
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