1.中間の世へようこそ!
中間の世を《ボダエーマ》に加筆しました
「魔女様、灯魄様から『ウハナをよろしく』と伝言です」
此岸で灯魄の命を受けて、ウハナの魂を連れて中間の世にたどり着いた秋葉は、ボダエーマを管轄している魔女様に挨拶をした。
「相変わらず人使いが荒いわよね。自分達の此岸で解決できないのを、何でもかんでもこちらに押し付けてくるのは悪い癖だわ。ここを経由しなくてもあの娘の力で彼岸に送れば良いのにね。アキバもそう思うでしょ」
「えっ、魔女様と灯魄様はツインソウルだからどっちもどっちでは? ・・・では、あとはよろしくお願いします・・・藪蛇になる前に失礼します」
秋葉は自分の配下の失態を魔女様にいじられる前に即刻の退散を決め込んだ。
「ちょっと待って・・・って、もういない・・・逃げ足が速いんだから!」
魔女様がアキバを呼び止めたがすでに姿を消していた。魔女様はハァと溜息をつきながら、アキバに連れてこられて不安そうにしているウハナに声をかけた。
「初めまして。貴女がウハナね。中間の世—通称 《ボダエーマ》にようこそ!私は皆んなから魔女様と呼ばれているから貴女もそう呼んでね。私の真名は・・・ふふっ、内緒!」
ぱちりとウインクした彼女のしぐさや艶やかな漆黒の髪、深底に吸い込まれそうになる紫黒の瞳に見入ってしまったウハナは、一瞬の間、返事が遅れてしまった。
「…………あっ、はい。……ここが中間の世でしょうか?」
「ええ、そうよ。先ずはここへ座って・・・今から中間の世について詳しく説明するわね」
魔女様に勧められてウハナが腰掛けたのは大きな切り株だった。
ウハナの横に魔女様も腰を下ろした。
ここには木や山や建造物がない、遥か向こうの方まで見渡す限りの草原にポツンと一つだけ大きな切り株があった。灯魄と凛生彩に見送られ、アキバに連れてこられたのがここだった。
生前の記憶では死んだら三途の川を渡り審判を受けて天国か地獄に行くと聞いていた。しかしウハナは川を渡っていないし閻魔様にも会っていない。目の前の景色が一瞬で変わったと思ったら魔女様の前に立っていた。
魔女様は澄んだ声で歌うように話し始めた。
「ここはね、此岸と彼岸の間の空間・・・前世と来世の中間の世・・・身体の拘束から解き放たれた魂が帰ってくる場所・・・魂が癒され、導かれ、成長する場所・・・なのよ。ふふっ」
心が救われるような美声にゆるんだ心を引き締め、意を決してウハナは質問をしてみた。
「私はここで過ごした後に地獄へ行くのでしょうか?......」
「いいえ、地獄行きの穢れた魂はここへは来ないわ。死んだら即地獄に直行よ。ふふっ」
「私は不成仏霊になってしばらく留まっていたので……償いのために地獄へ行くと思っていたのですが、何故かここで自分探しをするように言われてしまって……」
「そうね。今回はチャンスをもらったと思ってみて・・・本来であれば魂迎行者の狩りの標的になった瞬間に死を迎え、地獄か天国か煉獄に送られるのが定石。ウハナさんの場合は魂迎行者の失態から十数年の時を経て、灯魄に依頼がいき、そこに凛生彩がいた。この度重なる偶然のような必然で貴女はここに辿り着いたのよ」
「では、私はここで何をしたら良いのでしょうか?」
「説明するより、先ずは軽く体験してもらおうかな・・・この見渡す限りの草原はウハナさんの心理状態を現しているのよ。ちょっと荒んだ感情を思い出してみて」
「ええっと、こんな感じかな?」
ウハナは親を思い出してみた……瞬刻、真っ黒な雨雲が空一面を覆い、ゴロゴロと雷の音がし始めた。
パチン!魔女様が指を鳴らした・・・刹那、穏やかな草原の風景に戻った。
「……すごい」
「ここは貴女の魂の居場所でもあるの。貴女だけの空間。ここで貴女の魂の疲れを癒やしたり、死ぬ前の人生で学んだことや、やり残した事を振り返ったり反省したりして、次に貴女が生まれ変わるための準備をする場所でもあるのよ。そして私はこの【中間の世】の管理者でもあるの・・・」
「私はここで独りで魂を癒やしたり学んだり反省をするのですか?」
「独りではないわ。貴女には正しく魂を導く存在もいるし、私の管理下にいる限り、他の魂と交流もできるわよ。貴女次第・・・選ぶにしても経験してみないと選べないわね」
魔女様はウインクをしながら、パチン!と指を鳴らした。
大きな切り株がポツンとある草原から一変して、牧歌的な長閑な風景が広がった。
「ここが主に交流を持つ場所、例えるなら私がここの領主で、ここにいる魂たちは民になるわね。私の邸宅もここにあるのよ。さぁ、行きましょう。そこでまた説明をするわ」
遠くには、緩やかなカーブを描く丘が幾重にも重なり合いあり、ログハウスが隣を干渉しない位置にポツリポツリと点在していた。ウハナは長閑な風景を眺めながら、魔女様の後ろをついて歩いていった。
しばらく歩いた道の突き当たりの小高い丘に大きな御屋敷が見えてきた。
魔女様とウハナが屋敷の入り口に近づくと内側から扉が開いた。
「おかえりなさいませ」
恭しく礼をとるのは黒のモーニングと糊のきいた純白のシャツを着た、銀の髪を丁寧に後ろに流し、瑠璃色の瞳をした知的な印象を与える男性だった。
「ただいま。この娘はウハナ・・・今日からしばらく預かることになったから色々教えてあげてね」
「かしこまりました。ウハナ様、セバスと申します。これからよろしくお願いいたします」
セバスは綺麗な礼を執った。
「……ウ、ウハナですウハナです。よろしくお願いいたします」
ウハナも彼に倣って丁寧な礼を執った。
「ふふっ・・・さぁ、顔合わせが済んだところで応接室にいきましょう。そこでこれからのことを決めましょう」
ウハナは玄関をくぐりエントランスを抜け応接室に着くまでの間、『小説や物語に出てくる西洋の貴族のお屋敷みたいだなぁ』と思いながら魔女様について行った。
応接室は質素ながら上質な応接セットがあり、ウハナは魔女様に勧められたソファに腰をかけた。
ティーワゴンを引きセバスがティーセットを運んできた。
「お茶をサーブしたらセバスも座って一緒に話をしましょう」
「畏まりました」
流れるような所作で紅茶をサーブするセバスの姿にウハナは目を奪われた。
「セバスさんのサーブはとても優雅ですね」
「お褒めに預かり恐縮です」
ティーワゴンを片付けたセバスは扉の横のチェアに腰を下ろした。
セバスがチェアに座ったのを確認した魔女様は、
「では、ここ中間の世での過ごし方と今後について話を始めしょう。最初はウハナの疑問に対して答えるようにしましょう。その後補足をしていくわね・・・何でも聞いてね。質問をどうぞ」
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