◆だって悪女ですから!
「ジーク様、ここまで送ってくださりありがとうございます」
「いえいえ、姫君をお守りする栄誉を与かり、恐悦至極です」
「まぁ、お上手」
「本当ですよ。殿下が気にいる理由がわかりました」
「まぁ……おほほほ」
「お別れの前に、一つお聞きしてもよろしいですか?」
「まぁ、なんですの?」
「アルノー氏は姫君にとっては優良物件だったのでは?」
「まぁ、物件だなんて、おかしなことを……。そうですわね、私の侍女が心配して、情報を聞き出したところ、あの方、女癖が悪く借金までしているとか」
「おや、そうでしたか。それは失礼」
「いいえ」
手を振って見送れば、後ろで侍女が大きなため息をついた。
「心臓に悪すぎます! ドロテア、王太子殿下と親しいのなら先におっしゃってください。もしも私の正体がバレたら!」
「大丈夫よ〜。貴方はちゃんと死亡届が出されている令嬢よ。バレたとしても工作員に勧誘されるだけよ」
「それはそれで嫌ですよ! 私はこの職場気に入っているんですから!」
「あら、嬉しい♡」
「それにしても、紙の束を渡してもよかったの?」
「えぇ、複製してあるし。本当は武器をくすねてやろうかと思ったけど、どうやら殿下が捜査しているヤバそうな事件みたいだから、今回は諦めるわ」
「え、そうなの?」
「そうよ、彼が関わっているってことは、あの武器はきっと不正に他国にでも売っていたんじゃない? そうね、マンス男爵と共謀してとか。借金を返すために手を出したとかありそうじゃない? まぁ私の勝手な想像だけどね。殺人犯はアルノーでしょう」
庭園ではちょっと危なかったわ。彼の袖にナイフが隠されていたのよね。
「けど、あの量の武器の売買は一介の騎士ができるものじゃないわ、犯人はもっと大物でしょうし……これ以上の詮索は危険よ。きっと事件もアルノーだけで終わるでしょう。バックを捕まえるには……証拠が足りないんじゃないかしら?」
「確かに……」
お友達からの手紙がなければ、武器をくすねに行くところだったわ。危ない、危ない、賭博の裏の経営者が侯爵だなんて噂があるなんてね。借金が膨らんだ者達を操るのは、さぞ楽でしょう。そう考えると、屋敷内で起きた殺人事件に対して、あまりにも傍観者すぎるのも肯ける。普通、貴族の誇りにかけて犯人を探し回るはずだ。
まぁ、流石に侯爵家を敵に回したら、命がいくつあっても足りないわ。武器の流出も噛んでいそうだしね。私は小悪魔だから、大物には手を出さない主義なのよ。
「今回はこのコインと扇子だけで満足しておくわ」
ポケットから取り出したくすねたコインにキスをして。
「ふふふ、とっても楽しいパーティーだったわ。茶会の話のネタにもなるしね」
そして顧客にこの情報は売れるだろう。また懐が潤うわ〜。
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次の日、ルーシーは新聞を広げながらアイロンをかけていると、とある見出しに気づいた。そこには〝侯爵への裏切り! 平民出の騎士団長、武器を不正売買!〟とあった。
「わぁー……」
まさかドロテアの予想通りの内容でルーシーは思わず内容を熟読してしまった。平民出の騎士団長は騎士団の武器を盗んだだけでなく、マンス男爵と共謀し売買していたが、取り分で揉めて殺害したと自供、物的証拠もあり……と書かれていた。
「ドロテアの言っていた通りの展開だわ。怖い、怖い」




