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噂好きなドロテアはゴシップで推理をする  作者: 地下


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◆情報収集は談話から

「今日は散々な日だったわ、ルーシー」

「はい、こちらも大変な大騒ぎになりました」


 ルーシーに世話をされながら、思わず大きなため息が出てしまった。本当だったらこのやりとりは屋敷でするのだが、今は侯爵家のゲストルームにいるため、防音魔法を部屋にかけている。


「はぁ、でしょうね。それで、貴方の方は何か面白い噂話は聞けたかしら?」

「いろいろと聞けました」


 ルーシーはいつも侍女たちが待機させられる部屋で噂話を集めてきてくれるので助かるわ〜、どこの領地が不作か豊作か、どこのご婦人が誰と浮気しているか、どこの旦那さんが侍女に手を出したか等様々だ。


「そうそう、ドロテア様を犯人呼ばわりした侍女ですが、彼女、賭博の借金があるそうですよ。かなりの額で相当困っていたとか」

「まぁ、賭博? 一介の侍女が通える賭博場があるの?」

「はい、なんでも、王都の闇賭博で平民向けがあるそうです」

「へー……そんなのが。なるほど」


 つまり借金があるってことは、自由にいうことを聞かせられるってことよね。


「今回亡くなられたマンス男爵ですが、あまり良い領主ではなかったそうです。そもそも爵位はお金で買ったそうです」

「へー美味しいものを食べてそうな体ではあったけど、金持ちだったのね」

「奥様には愛人がいるらしく、本日もお会いする予定だったとか」

「まぁ……なるほど」

「何かお役に立てましたか?」

「えぇ、とてもね」


 なるほどねー。ドレスを脱ぎ捨てネグリジェになった。そうそうドレスの隠しポケットに入れた紙の束を見ないと。


「それはなんですか?」

「運ばれた部屋にあったものよ。ルーシーわかる?」

「これは……商品番号ですね」

「商品番号?」

「はい、これは武器です。〝C―D・M 453〟はクロスボウ・ディーター・モルト製453番。昔、伯爵領の騎士団に搬入しているときに見ました」

「へーということは横にあるのは……なるほど、個数と単価、そして合計金額、見にくいけどこれ、帳簿ね」

「そのようですね」

「ふーん。最後の一枚は、あら今までのと違うわね。これは暗号文? 季節の挨拶に、たわいもないことしか書いてないわねぇ〜。あ、蝋燭ある?」

「どうぞ」


 透かしてみると、行間の合間に0350 A経由のD地点と、それ以外に文字に丸がつけられていた。これは暗号ね。あら、イニシャルがある。

 イニシャルはK・Mってクヌート・マンス男爵じゃないかしら? この紙、事件に関わりがありそうだわ。ということはあの部屋にあったクロスボウはこの帳簿らしきものの実際の商品、てところかしら? でもこれを見る限り、一つじゃなくて二十個や三十個と大量発注のはず。


「武器の売り買いって何か法律あったわよね」


 ルーシーは屋敷の会計にも携わっているから、こういうのにも詳しいはず、そう思い尋ねてみると、案の定うなずいた。


「はい、我が国では、武器の購入には国への報告義務がありますね。武器の保持数は面積と騎士の数と戦の状況で決まります。規定数より多く持っている場合や、国に届出をせずに売ってしまった場合も罰があったかと」

「ふーん。我が領内では最低限の武器しか保管していなかったわね……そろそろ棚卸しをしないとまずいわね」

「はい、武器が減っていた場合、大問題ですよ」

「あー……ありえそう〜」


 我が領内は特産品が何もないのよね、不作になると一気に貧しくなるの、そうなると色々と手癖の悪い領民がいるのよねー。


「王太子殿下にお渡しするのですか?」

「んーどうしよっかなぁ〜。複製できる?」

「もちろん」

 にっこりと微笑むルーシーに紙を預け、私は寝ることにした。


 翌日ルーシーの素晴らしい複製品を確認し、朝の支度を済ませ、さぁどうしようかと思っていると従者が訪れ、朝食会場へと案内された。食事はビュッフェ形式で自由にとれたので、適当に皿に盛り付け、空いてるテーブルへと席につくと、なぜか横にケイエスが座ってきた。


「レディーおはようございます。お隣失礼いたします」

「まぁ、ケイエス様。おはようございます」

「昨夜は眠れましたか?」

「えぇ、ぐっすり眠れましたわ」

「それはよかった」

「そういえば、ケイエス様。私の馬車はいつ戻ってきます?」

「早朝に使いのものを出したので、午後にはくるかと」

「まぁ、よかったですわ」


 面倒そうな現場から早くお暇したいもの。


「実は、私個人的にドロテア嬢とお話がしたいと思っていたのですが、この後よろしいですか?」

「まぁ、なんでしょう? 婚約のお話であれば喜んで」

「それは申し訳ない、すでに婚約者がいる身なので」

「残念ですわ」


 魔法使いと話すなんて、そんな危ない真似はできない、さっさと食事を終わらせてこの場所から逃げなきゃと思い、少し食べるスピードを上げようとしたところで、まさか斬り込まれてしまった。


「実は、ドロテア嬢が買われた魔道具に興味がありまして」

「まぁ、それはどうしてかしら?」

「魔道具を作れる魔法使いは意外にも少ないのです。私も挑戦はしているのですが、触れる機会がないためか、いつも暴発してしまって、是非見せていただきたい」

「そう言われると……見せたくありませんわ」

「おっと、それはどうして?」

「優秀な魔法使いである方が見たことがないということは、それだけ貴重ということでしょう? 私宝物は見せびらかさずに隠しておくタイプですの。それじゃ、お先に失礼」


 にっこりと微笑みながら早々に朝食を切り上げて、席を立った。まだ腹は満たされていないので、こっそりリンゴとパンをポケットに忍ばせつつ部屋に戻る。


「危なかったわ、国お抱えの魔法使いが魔道具を見たことないなんて嘘ばっかり。王宮の至る所に設置しているじゃない」


 魔術を独学で学んだ自分でさえ気付いたのだ、魔法使いであるケイエスが気づかないはずがない。貴族の屋敷にも、古い魔道具だと知らずに使っている所があったりする。


「私が仕掛けた魔法に気づかれたらやばいじゃない」


 しっかりと、ポケットの中身や体を調べ、何も魔術が仕込まれていないか確認していると、使用人用の食堂で食べてきたルーシーが戻ってきた。


「遅くなり申し訳ありません」

「いいのよ、それだけ話がはずんだってことでしょ?」

「はい」


 ルーシーはニンマリと笑みを浮かべて、朝食の場で聞いた話を披露してくれた。


「件の侍女ですが、現在屋敷の地下牢に投獄されているそうです。本人曰く、あの部屋を通る貴族の女性が犯人だと言われたそうです。手紙で」

「あら、じゃーその手紙は残っているのかしら?」

「それが燃やしたらしく、破片しか残っていなかったそうです」

「それじゃー証拠にならないわねー」

「はい、それと、昨夜休憩室の棟で不審者が現れたそうですが捕らえられず」

「それは大失態ね〜。箝口令は敷けなかったのかしら?」

「どうやら第二王子の指揮で一部兵が駆り出され、兵士たちに不満が上がっていたそうです。それとドロテア様を助けた騎士団長ですが、平民からの成り上がりだそうです。侯爵様が採用されたとか」

「あら、珍しい。侯爵ってかなり家柄に拘る方よね」

「はい。平民を起用するなんて珍しい、と使用人たちが噂するほど。まぁ、他の騎士を黙らせるほどの強さだそうです。上昇志向も強いようで」

「へぇー、意外に()()も面白いものがあるわね」


 噂をすればなんとやら、花束を持ってアルノーが訪ねてきた。


「ご機嫌よう。レディー。体調はいかがですか?」

「まぁ、アルノー様。わざわざ、ありがとうございます」


 お決まりの挨拶をして、少し話せば、庭を案内してくれるとか。いつもなら断るけど、面白そうな匂いがするから、今回はその話に乗り一緒に庭園へと出た。

 侯爵邸の庭園は機能的な作りのようで、美しい花々と木々が均等に並んでいる。そして、ガーデニングパーティーができるように低い生垣に囲まれた芝生の中心には蔓薔薇が綺麗に咲き誇る大きなガゼボがあった。そして使用人たちが慌ただしく、机とテーブルクロスを運んでいた。


「あら? お茶会でもするのかしら?」

「はい。侯爵様が、少しでもお客様の気が晴れればと」

「そうでしたのね。それは楽しみだわ」

「あの、ただドロテア嬢は王太子殿下と二階バルコニーでのお茶だそうです」

「え?」

「レディーは凄いですね。王太子殿下とも親しいなんて!」

「王太子殿下はお優しいですから、きっと今回巻き込まれたので、気遣ってくださったのでしょう」


 腕に通していた手をギュッと握られてしまったわ。上昇志向の強い騎士が次に狙うのは、未婚の婿養子が必要な令嬢。つまり私だ。


「そうなのですね、ですが毅然とした態度で王族方とお話しする姿に感銘いたしました」

「ふふふ、社交界では毅然とした態度をとりませんと、軽んじられてしまいますから」

「そうなのですね! レディーは美しいだけでなく知性的だ」


 顔を近づけてきたアルノーに思わず一歩距離をとろうとするも、腕を引かれてしまった。


「やはり、新しい愛人かドロテア! 人様の庭でよく堂々といちゃつけるな!」

「……ルーク王子。ご機嫌よう。アルノー様には庭園を案内して頂いているだけですわ」


 タイミングよく第二王子が来て助かったけど、これはこれで面倒なのよね。


「はっ。どうだか。朝食会場で兄上の近侍にまで色目を使っていた癖に」

「色目だなんて酷い言いがかりですわ。ケイエス様とは共通の話題があっただけですわ。それよりも、事件に進展はありまして? 早く殺人犯を捕まえて頂かないと、怖くて夜も眠れませんわ」

「レディー、よければ私がお守りいたします」


 まさかアルノーまで話に加わってきたわ。


「ふん、平民上がりの騎士とある意味お似合いかもな」


 馬鹿にしたように言った瞬間、ピクリとアルノーの腕が動いた。彼は結構プライドが高い様子。態度に出ないだけマシだけど、ちょっと危険ね。


「アルノー様、私疲れたのでもう部屋に戻りたいのですけど、エスコートしてくださる?」

「もちろん」

「では、ルーク王子。ご機嫌よう」

「おい、話は終わってないぞ! お前はまだ容疑者なのだからな!」


 無視してさっさとその場から離れれば、アルノーが何故か謝ってきた。


「すいません。私のような平民といるばっかりに」

「何をおっしゃいますの、実力がなければ騎士団長になんてなれませんわ。それほど血のにじむ努力をされたのでしょう。もっとご自身を誇ってくださいな」

「レディー。ありがとうございます」


 にっこりと外向きの笑顔を向けながら、部屋の前で別れた。

 少しは休めるかと思ったが、ルーシーが新たに聞いてきた話と私宛の手紙に思わず笑ってしまった。


「賭博をやる使用人を見逃しているのか、はたまた、何か意図があるのか……。これはただの殺人じゃないかもね」

「と、言いますと?」

「下手に関わると、私たちの命が危ないわ。お友達がとても良い情報をくれたの、持つべきものは情報通の貴族よね」


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