事件はいつも突然に!
はぁ〜い! 社交界きっての毒婦こと悪女と名高いロアンジェ子爵家の令嬢、ドロテアちゃんよ〜。初めましての方もお久しぶりの方もご機嫌よう。最近は不景気で本当に嫌になっちゃうわよねー! 増税、増税! 賄賂だらけ! 我が国ノブレトワレ王国は本当、笑っちゃうほど腐りかけの林檎状態なのよ〜。
まぁ、私のようなか弱い令嬢は、ちょこっとだけ悪いことでへそくりを作らないとままならないのよ〜。そのせいで悪女とか言われちゃって心外よね〜ふふふ。
本当、最近は良い事がなくって困っちゃうわ〜。我が国のふざけた第二王子が、男爵令嬢を連れ回して****、失礼、汚い言葉を使いそうになったわ。そうそう、今年はちょっと農作物の不作もあって大変らしいけど、貴族たるもの贅沢なんてやめられないわけ、で〜今日も侯爵家の盛大なパーティーで荒稼ぎ☆ じゃなかった、楽しんでいたのよ〜ってどうして長々と心の中で呟いているかというと、まぁそのパーティーの最中に、私のお客さんの浮気の偽装工作の手伝いが終わってのんびりと通りかかった通路部屋のど真ん中に死体が転がっているのよねー。
つまり私の目の前にね!
「明らかに、これは殺人?」
まず目につくのは、胸元に突き刺さっている鈍い光を放つ銀食器のナイフ。刺されている本人は白目をむき、凄い形相の丸っこい中年の男性。服装からして貴族だろう。面識がないから金で爵位を買ったか、財力が乏しい貴族か、そう思っていたら。
「きゃ―――!!」
部屋の左側の扉から悲鳴が上がり、ちらりと横目で見ればこの屋敷に仕えている侍女らしき女が悲鳴を上げて走り去っていった。
「誰か!! 人が! 死んでる! あの女が殺したのよ!」
「はぁ? どう見ても違うでしょうが。か弱い令嬢でしょ」
思わず呟いてしまったが、さて私と死体との距離は数メートルほど、顔は見られているから、ここで逃げれば殺人の犯人に仕立て上げられてしまいそうだ。ということで、ここは貴族令嬢たるもの、秘技! 気を失う!
「はぁ〜」
魔法で少し血圧を下げて、そのまま後ろに崩れ落ちれば、ばっちし! と思ったら、騒ぎを聞きつけた人々がちょうど駆けつけ、見知らぬ男性に後ろからキャッチされた。ついでに私の顧客に緊急信号を送るべく、手に持っていた扇子をへし折る。これ、折る事で顧客に持たせているカードに緊急信号を送れるように作ってあるのだけど、まさか実際に使う日が来るなんて思いもしなかったわ。
「大丈夫ですか? 悲鳴が聞こえ……なんと!」
「どうしました!」
「きゃー! 死体よ!」
気を失っているから誰が何を話しているかわからないけど、結構人数が集まってきたみたい。
「あの令嬢が男性を!」
「いやいや、気を失っているじゃないか」
「彼女も目撃者じゃないか、それよりも、どうして使用人たる君が令嬢を疑うんだね」
「そ、それは」
本当よね。この侍女とっても怪しいじゃない。それにしても、大勢の人が集まりすぎて、ギャーギャー騒ぐだけ騒いでいるだけで進展がないわね。早く騎士を呼んで現場検証でもして頂戴! て叫びそうになったわ。
でも私は今気を失っている事になっているからできないのよね。助けてくれた男性に抱き起こされ、そのまま別室に移動して休ませて貰えたけど。起きるタイミングを逃したわ、侍女を呼んできてくれればいいのに! 呼び鈴鳴らした後、棚をいじる音がして、まさかの気付け薬を嗅がされて飛び起きたわ。あれ臭いのよね。男性にはお礼を言いつつ、貴族ではなさそうなので、ちょっと探りを入れると、この屋敷の騎士団長、アルノーだとか。一代限りの騎士の称号ってなかなかのやり手だわ。
日に焼けたたくましい体格で溌剌とした男性、その手の女性にはモテそうね。
「ここまで運んでくださりありがとうございます」
「いえいえ、騎士たるもの当たり前のことをしたまで」
にこやかに微笑む姿は騎士らしく、また男らしく爽やか、だけどぉー私は苦手なタイプ。ちゃっかり手を包むように握って見つめてくるけど。いまだに私はベッドの上でとても危険。さてどうしたものかしら、て思ったら騒がしいのが近づいてきたわね。
「ふん、あの毒婦が愛人を殺したんじゃないのか」
ノックもせずに入ってきたわ! いつもだったら、来んじゃねぇボケナスがって罵倒を心の中でするけど今日はナイスタイミングと褒めちゃうわ〜。
「おい、ドロテア嬢。はっおい見ろ! もう男をたぶらかしているぞ」
「どなたかは存じ上げませんが、気を失ったレディーに対して失礼では?」
「おい、お前! 俺を誰だと!」
「アルノー様よいのです、あの方は我が国の第二王子ルーク殿下ですよ」
「あいっ……、大変失礼いたしました」
あいつがって今言いそうになりましたわね。でも素早く、膝をつき詫びるアルノーに対しルークはフンと鼻を鳴らして私の目の前まできた。本当に失礼な男よね。
「痴情のもつれか? あんな男を相手したあとは若い男か?」
「何の話かさっぱりわかりませんが、騎士に対して無礼ではありませんか? 彼は気を失った私をここまで運んでくださったのですよ?」
「逢引部屋にか」
「まぁ、ここは休憩室ですわ」
休憩室という名の貴族の逢引部屋だけど、それを堂々と言ってしまうのは完全にルール違反よ。雰囲気をぶち壊してくれたのはありがたいけど、このままだと私が捕まりそうね。
「まぁいい。おいお前、こいつを連れてけ」
「はっ! ですが、レディーですよ?」
「こいつが犯人に決まっている」
ほらやっぱり、最悪ー知らないわよ、あんなおっさん。私の顧客じゃないのよねー。ちゃんと捜査しろ! てことで涙ぐみながら叫んでみるか。
「酷いですわ! ルーク王子!」
「やめろ、気色悪い。毒婦のお前以外誰が犯人だというんだ!」
こいつ本当に王子じゃなかったら抹殺してやるのに、と思っているとある意味天の助け、でも、もっとややこしい人が近侍と一緒にずらずらと登場してしまった。
「ルークやめなさい」
「兄上!」
「レディーに失礼すぎるぞ。ドロテア嬢に謝罪しなさい。彼女は目撃者だ」
「ですが!」
「ルーク!」
「……ちっ。ドロテア嬢。先ほどは失礼な態度をとってしまい申し訳ない」
「いいえ、お気になさらず」
全然謝罪する態度じゃないけど、まぁここは王太子殿下の顔を立てて受け入れるしかないのよね。
「はぁ、ルーク。レディーの寛大さに感謝しなさい。それと君のパートナーが一人会場に取り残されているけど良いのかな?」
「リリーはデイジー嬢に預けていますから」
「そうか、なら問題ないか。デイジー嬢の婚約者とダンスをしていたが」
「え? 兄上、リリーの様子を見てきます!」
「あぁ、行ってらっしゃい」
流石ご兄弟、弟の誘導方法をよくご存じで。ルーク王子のお気に入りの男爵令嬢リリーはいつも男性を侍らせているのよねー私とは違った意味で。デイジー伯爵令嬢の婚約者も彼女に夢中になっている一人。そして第二王子の派閥でもある。
「さて、弟もいなくなった事だし、事情聴取をしてもいいかな?」
「えぇ、もちろんですわ。この国の太陽、フランチェスコ王太子殿下」
さりげなくご自身の弟を邪魔者だって言っているわよね。とりあえず、起きたことそのままを伝えて無実だと誓えば私の事情聴取は終了。
次にアルノーだけれど、彼は警備を行う関係で休憩室の廊下を巡回していたそう。
「それで不審人物は見かけなかったと」
「はい、休憩室側では見かけませんでした。なにぶん、個室に入られてしまっては……」
「まぁ、そうだね。邪魔をしたら君の首が飛びかねない」
殿下は納得したご様子だけど、休憩室の廊下には誰もいなかったはず、もちろん外には警備兵がちゃんといるし、この休憩室の棟にくる前の渡り廊下にも兵がいた。
殿下はアルノーに別室で待機するように言いつけ、近侍の一人が案内のために一緒に出ていった。そして、この場には近侍二人と殿下、そして私だけ。
「えっと、私は……」
「大丈夫。レディーを疑っているわけじゃないから」
「でしたら、私もう帰りたいのですけど」
「んーそれはダメかな」
「ど、どうしてですか? 私があの見知らぬ男を刺したとやっぱりお疑いですか!?」
「まさか、君は可愛い小悪魔だと知っているから安心してくれ。そして、誰に歯向かってはいけないか、よく理解していると思っているんだけど、どうかな?」
「まぁ、小悪魔だなんて、ただの貴族の娘ですよ? まぁ、女性は少なからず小悪魔的な方が男性にモテますけど」
「ははは、確かにそうだね。では、そんな小悪魔に協力をお願いできるかな?」
「協力ですか?」
えー超嫌だー。断りたいんですけどぉーそれに早く私の顧客のサポートに回りたいしー。
「あぁ、もちろん。報酬はあるよ」
そう言って殿下は金のコインを取り出し、私に投げた。もちろんキャッチするわよね!
「……別に私なにも協力できないと思いますよ。しがない子爵の娘に何を御所望で?」
「ふっ。君と言葉遊びをするというのも良いけれど、殺人事件だからね。単刀直入で行こうか。君と取引をしたい。あの通路を使っていたという事は、君も休憩室を使ったのだろう? 君が何をしていたかは追及しない、その代わり君が他に知りうる情報を教えてくれないかな? 例えばお友達とかね?」
「……休憩室を利用している貴族は、この事件に関係ないと思いますわよ」
いやーん。下手なこと突っついたら、私の商売が明るみに出ちゃう〜。気をつけないと、私の顧客がばれるのも困るわ! 信用問題が! 慎重に答えないといけないじゃなーい! こういうの嫌いなのよね!
「そう思うのはどうして? 君を利用してアリバイ工作をしているかもしれないよ?」
そうくる!? えー、逢引部屋としてしか使ってないわよ! 確かに、怪しい人もいるけど〜、あの通路部屋を通って休憩室があるのだけど、本館に戻るためにはまた通路部屋を通らないといけない、つまり、私が通って戻ってくる間に犯行が起きたってこと、その間に扉を開けた人はいないという事は私が知っているわ。
「殿下、発言をしてもよろしいでしょうか」
突如後ろに控えていた近侍の一人が片手をあげて声を上げた。
「許す、ケイエス」
「はっ! 先ほどからドロテア嬢から魔力の波動を感じます。何か魔道具をお持ちではないでしょうか?」
「え」
しまった。思わず声が出てしまったわ。うそ、この近侍もしや魔法使い?! 我が国では、機械が発達して、魔法って古臭いって言われてめちゃくちゃ少なくなったのよ、一応魔法師団がいるけど、今や中隊くらいしか人数がいないのに! しかも魔力の波動を感じるって相当お強いのでは? いやーん。私無許可なのよ、魔法使えない事になっているのよ! 一応魔法使える人は国に登録しなきゃいけないのよ☆
「へぇー、それでドロテア嬢。出してくれるかな?」
「……魔道具だなんて、その、ちょっとしたあれですわ。女の秘密を暴きたいのですか?」
恥じらいながら、どうにかして、この場を切り抜けるために使えそうなものを考える。
「彼に魔法を使わせる方法もあるよ?」
「まぁ!」
嘘でしょ? ドレスの中には、顧客から貰ったお金と先ほど壊した扇子、それに姿隠しに認識阻害とどれも国が禁止している魔道具ばかり。無理無理! ここで出せるものは何もないわ! なんたる失態。いや考えるのよ、ドロテア! まだ被害を最小限に抑えられる物を出すのよ! そうだアレがあるけど、でも、禁止されている魔法じゃないけど使い方的にまずいかも。
「ふーん。何かあるみたいだね。二人とも後ろを向いていて」
「「はっ」」
「え? 殿下?」
「ねぇ、ドロテア嬢、今私にだけ見せてくれるのなら、見逃してあげるよ?」
そう言いながら、ベッドに腰掛け、私の体を挟むように手が置かれた。息がかかるほどの距離に美しい殿下の顔が迫ってきた。シラを切るのはもう無理か。
「ん〜少し目を瞑っていただけます?」
「しかたない」
そう言ってその体勢のまま目を瞑られた。まぁ信用していただけて嬉しい! じゃなくて、えーん。距離とって欲しいのだけどー。でもこれ以上は譲歩してくれなさそうなので、仕方なく隠しポケットから扉の開閉記録がわかる魔道具を取り出す。実はここに顧客のイニシャル書いちゃっているから、これをハンカチで隠して。
「殿下にだけ見せますけど、絶対他言無用ですからね!」
「あぁ、わかったよ」
そう言うので、しっかり魔道具を握り締めたまま見せた。青い字で三つの時刻が二十分置きに刻まれている。そのうちの二つだけ横に赤い字で十分前の時刻がついている。
「この青い時刻は?」
「最初に扉が開いた時間です」
「扉が開いた時間……へぇーなるほど、ではこの赤い時間が次に開いた時間か」
「はい」
「確かに、これはアリバイがしっかりしているね。でも、窓から出入りされたら?」
「その場合もここに打刻されます」
「ふーん……部屋を教えてもらう事はできるかな?」
「それは、できかねますわ。理由はご存知でしょ?」
「ふふふ、そうだよね〜ありがとう」
殿下は楽しげに納得され、ちょうど最後の利用客が扉を開けたようで、現在の時刻が赤い字で打刻されたのをしっかりと見つめていた。
「面白い魔道具だね」
「流れの魔法使いから買いましたの」
「そう……」
「あの、もう帰ってもよろしいかしら?」
「あぁ、いいよ」
やっと帰れるわ! と喜んだのも束の間、殿下に手首を掴まれてしまった。
「これは取引だからね。君は客から半額前金を受け取って、終わった後に半額を受け取っているんだよね? お礼も兼ねて、残りの金額だ」
そう言ってまた金貨が一枚胸元に差し込まれた。
「まぁ、殿下ったら、取引だなんて。殿下相手に滅相もございませんわ」
「私は、小悪魔も大事にしないと痛い目をみると思う質でね」
「あら、それはありがたいですわ」
満足げに笑みを浮かべた殿下は出ていったけど、はぁ―――本当怖いったらないわー! 柔和な笑顔を振りまいていらっしゃるけど、中身は魔王なのよねー! あー嫌だ何も知らない、私は知らないのよ。
「はぁ、帰ろう」
ねじ込まれた金貨をポケットに入れ直し、魔道具もしまう。ベッドから降りてからふと、どうして私にここまで聞いてきたんだろうと気になった。
「ただの目撃者よ? しかもどう見ても事件に関わりがないのに」
気になる……。そもそも、今日のパーティーは第二王子だけが参加予定のグルーデンバルト侯爵のパーティーだったのに、当日になって王太子殿下まで参加されたのよね。
「んー……気になる」
それにしても、この部屋。休憩室だという割にあの現場から近かった。扉を開けて廊下を見れば、休憩室が並ぶ小部屋の一番手前の部屋。というか、この部屋貸し出し一覧には記載されていなかったはず。ちなみにこの棟にくる前に、あの部屋への通路があり、本館へと繋がっている。
「……こういう時って、のぞき部屋だったりするのよねー! ふふふ、どこにあるのかしら隠し通路♡」
部屋はそんなに広くない、ベッド一つにソファ一つ、鏡台が一つおかれただけのシンプルな部屋だ。窓は一つだけ、バルコニーに出るための窓が一つ、そしてここは二階。
バルコニーに出れば、下は見晴らしのよい庭園、そして騎士たちが立っている。
「ここじゃないわね」
中に入って鏡台を動かしてみたり、壁を叩いてみたりしたけど、扉は見つからず。壁にかけられていた絵画の額縁を動かすと何かが落ちた。
「あらーん? なになに? 秘密のお手紙かしら!」
ウキウキで紙を広げると知らない単語と数字の羅列。謎解きかしら? こういうの苦手なのよねー。あとでちゃんと見よっと。ポケットにしまって、額縁の裏の壁を見れば、一見何もないように見えるけど、うっすらと魔法の揺らめきが見えた。
「ははーん」
軽く触れてみると認識阻害の魔法、解除してみればそこには後から作ったであろう隠し箱が埋め込まれていた。中を見ればお金と最近開発されたという小さいクロスボウが一つ入っていた。
「……お金だけ少しいただこうっと」
全額取ると盗んだのがばれちゃうからね。隠し箱を元に戻し、魔法も戻しておく。額縁も戻して、と……周りをよく見渡して他には魔法が仕掛けられていなかった。
「ふぅ……なるほど」
あとは家に帰るだけ。
「今日は疲れたわ〜、早く家に帰ってお茶が飲みたいわ〜」
通路部屋を進めば、先ほどの遺体現場の部屋に到着〜。ここを通り抜けないと玄関に出られないのだ。既に遺体はどこかに運ばれ、現場検証中の兵士ばかり。そしてその場には何故か第二王子までいた。
「貴様どこにいく!」
「見ての通り、体調が戻りましたから帰る途中ですわ」
「何!? 貴様は容疑者だろう!」
「王太子殿下から事情聴取をうけ、帰ってよろしいと許可をいただきましたの」
「兄上が? ふん、兄上が許可しても俺は許可していない。貴様は容疑者の一人としてここに残れ!」
え、横暴すぎない? 思わず周りを見渡せば、皆巻き込まれたくないと言わんばかりに顔を逸らしていくし。ちょっと根性見せなさいよ! レディーが困っているのよ?! アルノーを見習いなさいよ!
「まぁ、いくら王子であろうと失礼じゃありませんこと?」
「ふん、失礼も何も、もうアリバイがある者たちは帰らせ、御者も帰らせた」
「はい? 未婚の私に侯爵家で寝泊りしろとおっしゃるの?!」
信じられずに大きな声を上げたところで、他の貴族の方々が反対方向の部屋からやって来た。その中で、アーキオ伯爵が開口一番に怒鳴った。
「ルーク王子! どういうことですか!」
「私の馬車がなく聞けば王子が帰らせたというではないですか?!」
ディマンシェ子爵の発言で、本当に帰らせた事がわかり頭痛がした。王子が命令したら御者も従わざるをえないだろうけど。嘘でしょ? あぁ、目眩がするわ。思わず額に手の甲を当てて、もう一回気絶しようとしたら、王太子殿下の近侍に後ろから抱き留められた。
「あら」
「失礼、レディー。顔色が悪そうでしたので」
「いえ、助かりましたわ」
「問題が発生し駆けつけましたが、遅かったようですね」
「と言いますと、第二王子のあの暴走は独断と偏見で行われたと?」
「はい」
貴族たちに責められているというのに、第二王子はどこ吹く風と言わんばかり、怪しいやつを逃すわけにはいかない! の一点張り。
「侯爵様はご存知で?」
「後から知らされたようで、殿下にご相談に来られました」
「まぁ、確か侯爵様は中立派でしたわよね」
「はい、ですが、どちらかというと……」
第二王子派に近いと、まぁ今回のパーティーの主催者であるグルーデンバルト侯爵はルークの剣術の指南をしたことがあるため、比較的仲が良い間柄だと噂では知っていたが。
「はぁ、それにしても勝手に決められるなんて」
「とりあえず、レディーはこちらに。お部屋の準備は整っておりますので移動しましょう」
流石に殿下の近侍にまでは絡んでこず、彼、ジークに部屋までエスコートしてもらえたが、途中見たホールにはもう他の客はいなかった。
道すがら聞けば、残らされたのは、被害者の妻であるマンス男爵夫人。容疑者候補のアーキオ伯爵、バフジーク男爵夫妻、キャンシーク伯爵夫妻。ディマンシェ子爵。そして私。
アーキオ伯爵は休憩室を利用していたのを目撃されていたらしい、まぁご年配の独りだ、誰かを連れ込んでいたのだろう。バフジーク男爵夫妻は通路部屋の違う部屋にいたとか。キャンシーク伯爵夫妻は、マンス男爵に借金をしていて催促されているのを目撃されていた。ディマンシェ子爵は不明。ちなみに私のお友達は捕まっておらずちゃんと家に帰れていた。
「現場を見た限り、犯人は男性です。心臓をひと突き。女性の力では無理です」
ジークの言葉に、一安心するも用意された部屋に入ると……。
「やぁ、先ほどぶりだね」
「殿下」
「いやーまいったよ。弟がまさか勝手に行動するなんてね。連れをエスコートして帰ったと思ったんだが」
「まぁ、それはご愁傷様ですわ」
愚痴を零すために私が今日泊まる部屋に来たのかしら? やめてほしいわ〜。一応、付き人として連れてきていた侍女は残されているとは聞いたけど、まだ合流できていないのよね、イチャモンつけられているのかしら。普通先に通されているはずなのに。
「君のお友達は全員帰れたかな?」
「……えぇ、無事に。でもこんな事件があった場所で残されてしまい、不安ですわ。私の侍女もまだ来ませんし」
「おや、それはおかしいな、ジーク、探してきてくれ」
「はっ」
ありがたいわー。殿下の近侍が迎えに行けば直ぐに来てくれるでしょう。
「まぁ、助かりますわ」
「それほどでも、弟の失態だからね。それで、少々聞きたい事があるんだが」
「まぁ、なんでしょう?」
「君を犯人呼ばわりした侍女と面識はあるかい?」
「いいえ、ありませんわ。侯爵家のパーティーには何度も参加していますが、侍女の顔をいちいち覚えていませんもの」
「そうか」
「そういえば、彼女はどうして私を犯人呼ばわりしたのですか? 彼女が犯人というわけではないのですよね?」
「残念ながら捜査中のことは教えられなくてね。それでひとつ相談なんだが、弟の意識を引きつけておいてくれないかな?」
「嫌です」
しまった。思わず素で返しちゃったわ! あまりにも嫌すぎて取り繕うのを忘れてた!
「本当に心苦しいのですが、我が家は中立派ではございますが、個人的にどうしても不協和音にしかならず、周りの方にご迷惑がかかるかと存じ上げますわ。ルーク王子に至っては私を不倶戴天の仇のように見ていらして」
「あははは。いやー、わかっていたが。本気で返されてしまうとは。君と弟の関係はとても気になるけど、藪蛇のようだからやめておくよ」
「まぁ、ありがとうございます」
「と、ちょうどジークがきたね。君の侍女も」
扉の外から声がかかり中に通せば、ジークと無表情の私の侍女が入ってきた。彼女、ルーシーは片目だけ眼帯をつけ、顔はそばかすだらけの化粧を施しているので素顔は私しか知らない訳ありの侍女だ。大抵の者はその眼帯に目がいき顔を覚えていない。
「お帰りなさい、ルーシー」
「お待たせいたしました。ドロテア様」
「ジーク様、私の侍女を連れてきてくださり、ありがとうございます」
「いえ、お気遣いなく」
「眼帯の侍女か。君の侍女は、洗練されているね……」
「何か?」
「いや、誰かに似ている気がしただけだよ」
「まぁ、うちの侍女を誘惑するおつもりで? 確かに殿下はお美しいですが、私の侍女を不幸にするような男の元にはお貸しできませんわ」
「おや、そんなにひどい男に見えるかな?」
「いいえ、ですが人は見かけだけで判断するのは危険でしょう?」
「そうだね。さて、今日は遅いしお暇するよ。明日も弟が迷惑をかけると思うけど」
「まぁ、ではかち合わぬように気を付けますわ」
「相手をするときは私の近侍を連れてくといいよ。危なくなったらガードさせるから」
「まぁ」
もしかして、さっきの話本気でやらせるつもり?!




