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アレ・テタルの薬魔術師見習い  作者: HAL
3章 魔術学校1年目前期

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14 実技試験


 四日目からは専科の筆記と実技の試験だ。

 薬魔術科の筆記試験は二限行われる。一限目は薬魔術師の歴史と総合知識を問う試験、二限目は錬金薬調合に関わる知識の試験だ。

 マユはどちらもすべての設問に回答し、三度見直して提出した。

 そして五日目が専科の実技試験である。


「実技試験では体力回復薬と魔力回復薬を作ってもらう。試験の場には教科書の持ち込みは不可。用意された材料と設備と己の魔力を使用し、二種類の錬金薬をそれぞれ二つ作成してもらう。一つ目は教科書のレシピを守ったものを、二つ目は自分で作れる最高品質の錬金薬を作れ。二つ目に関してのレシピは自由だ。師匠に教わったものでも良いし、自分で作ったものでもいい」


 そのすべてを複数の試験官の前で作るのだ。

 薬魔術科の生徒は六名。まずは入学時の成績順にクジを引いた。


「六番です」

「マユは最後だな」


 実技は個別試験だ、順番はクジで決まる。マユは札を持ち、試験場外の椅子列最後に座った。一回の調合にそれほど時間はかからないが、二種四回、それが五人分となると待ち時間は長くなる。


「独自レシピなんて、誰も持ってないんじゃないかなぁ」


 師匠のレシピを真似する者はいるだろう。だがそれは独自レシピとは言えない。そもそも見習いが錬金薬の独自レシピを持っているほうが稀だ。おそらくは基本レシピをアレンジし、より高品質の錬金薬を作れ、という意味だろう。マユはそう解釈した。


「より高品質、か……」


 待ち時間が長いぶん、高品質レシピを考える時間もある。薬草の下処理、注ぎ込む魔力の量やタイミング、錬成時間を頭の中で試しているうちに、いつの間にか順番になっていた。


「六番、試験場に入りなさい」


 試験が行われるのはいつもの実習室だ。並べられていた調合台はたった一つを残して片付けられている。受付で止められ、不正防止の身体検査を受けた。ペンダントのようにぶら下げていた古い錬金薬の瓶が、職員の目に留まった。


「……これは、効力は切れているようだが、外しなさい」


 マユは革紐ごと首から外して受付に預けた。筆記用具や小銭を入れている腰鞄も外して渡す。

 調合台の側には見慣れない人が立っていた。教師ができる魔術師にしては、二人ともずいぶんと若い。灰色のローブを着た女性は、後頭部で黒髪をひっつめている。眉のうえで切りそろえられた前髪が、気の強そうな顔つきをさらに強調していた。白いローブを着たもう一人は、せせらぎのような銀髪の、たぶん男性だ。やさしげな表情と美しい立ち姿に思わず見とれると、彼の銀色の目がほほ笑むように細められた。


「私たちは外部の薬魔術師です。ヘイルスさんは治療魔術科の試験に立ち会うため、薬魔術科の試験は私たちが担当しています」


 ヘイルス教師は治療魔術科・薬魔術科の両方を担当している。魔術学校には治療魔術の実技試験を判定できる教師がヘイルスしかいないため、二人は薬魔術科の実技試験のために魔法使いギルドから臨時に派遣されてきたのだそうだ。

 銀髪の白ローブが調合台に袋を置いた。


「制限時間はありません。まずは体力回復薬、続いて魔力回復薬です。はじめてください」


 合図で袋を開ける。体力回復、魔力回復、その両方の薬草素材がごっちゃまぜに入っていた。マユはそれを手早く仕分けながら状態を確認する。どれもこれも保全状態は良い。品質も均一だ。ただ量が少ない。用意されている糸瓜の水もだ。四回の調合で使い切る量なのは、やり直しを認めないということだろう。

 まずは体力回復の素材を二回分に分けた。最初の調合は教科書の手順を忠実になぞってゆく。できあがった錬金薬を指定の瓶に移し替え、二回目の調合に取りかかる。

 用意されていたのは乾燥薬草だ。ユーク草は手で揉むと砕けて粉になった。サフサフの根をすりこぎで粉末にする。

 学校が用意した糸瓜の水ではなく、自分の魔力で作り出した水で錬金鍋を満たした。


「……」


 立ち会いの二人が身じろぎしたように感じて顔を上げた。禁止事項に触れただろうかと銀髪を見ると、呆れ顔で「そのまま続けて」と促される。黒髪の試験官は唇をぎゅっと引き結んでいた。銀髪の試験官は興味深げな、楽しそうな目をしている。

 気を取り直し、魔力水に薬草を入れた。まぜながら魔力を注ぐのだが、マユは教科書よりも控えめに、その分ゆっくりとかき混ぜて薬草が溶け馴染むのを待った。魔道具のスプーンにかかる抵抗が軽くなってすぐに魔力の注入を止め、魔道コンロの火を付ける。火力は最大だ。渦を巻いていた薬草水が、鍋底からの熱によってふつふつとした流れに変わる。細かな泡が鍋全体を覆うのを確かめて火を止め、一気に魔力を注いで仕上げた。

 提出用の瓶に注ぎ入れ、最初の錬金薬の横に並べる。


「色は同じね。でも透明度は後のほうが高い」

「評価は後だ。次は魔力回復薬です、はじめてください」


 銀髪が二つの錬金薬に顔を寄せる黒髪を制し、マユに試験の続行を促す。

 魔力回復薬も同じように、二回目の調合は魔力水を使った。ただし水の量は少なめだ。手順は体力回復薬とほぼ同じ。ただし最後に注ぐ魔力に、意識して集めた水以外の属性魔力を多めにしている。

 体力回復薬の隣に、魔力回復薬の瓶も二つ並んだ。


「自由レシピの作成について、いくつか質問があります。まず糸瓜の水を使わずに魔力水を使ったのは何故ですか?」


 銀髪の試験官に問われ、マユはよどまずに答える。


「薬草のなじみが良いからです。乾燥薬草は水に溶けづらくどうしても歪みが生じてしまって、錬成が難しくなるので、魔力で中和しつつ水になじませました」


 マユの回答を書き取っていた黒髪の試験官も問う。


「その割に魔力の注入量はずいぶんと少なかったようだけど?」

「魔力水の分を差し引きました。過剰な魔力が加わると、私では扱えなくなるので。あと味が……仕上がりの味が悪くなって飲みにくくなるので」

「じゃあ魔力回復薬で魔力水を少なくした理由は?」

「魔力回復薬はもとから他の錬金薬よりも飲みづらいので、少ない量で同一の効果があるほうがいいと」

「……飲みやすさなんて、品質には関係ないわよ」


 短く呟く黒髪の眉間に濃い縦じわが寄った。試験で求められているのは品質だ。それはもっともだが、マユとしては飲みやすくなければ薬草を食べるのと同じだという思いがある。


「試験の評価対象とはならないが、実用的な工夫なのは間違いありませんね」


 顎に指を当てて考えこんでいるようだった銀髪が、錬金薬の瓶を回収しつつほほ笑んだ。


「これで実技試験は終了です、お疲れ様でした」


   +


 前期の定期考査がすべて終わった。


「あたし、ダメだ……」


 夕食に追加料金を払って得たデザートを前に、そう呟いたエリカがテーブルに突っ伏した。


「大丈夫だよ、筆記の挽回は実技できてるよきっと」

「……ダメ、絶対ダメだ、落ちたぁ」

「え?」


 五日前に筆記試験の減点は実技で補ってみせると言いきっていたエリカだ。彼女の実技はずば抜けており、今日の実技試験に自信満々で挑んでいたはず。マユが激しく落ち込んでいる理由を求めてセオドアとオッジを見ると、二人は遠い目をした。


「的には命中させたんだよ?」

「ただ両隣の的も一緒にぶち壊したんだよなぁ」

「あぁぁぁぁぁぁ――ダメだぁ、落ちた……」


 攻撃魔術科の実技試験は、さまざまな環境下で攻撃魔術を試される。貸与された杖を使用し、火・水・土・風のそれぞれの攻撃魔術を使って用意された的を撃つのだが、エリカはそれらの試験のすべてで、自分の的だけでなく両隣の的も破壊してしまったらしい。


「え? 一度に複数の攻撃魔術を撃ったの?」

「まさか。一つだよ。ただ、威力がね……無茶苦茶大きくて、余波で壊れたんだ」

「ダーグル先生が魔術の盾を作らなかったら、壁も天井も壊れてたかもしれないって」

「エリカ、そんな凄い攻撃魔術を使ったの?」


 魔術学校の施設は強力な防護魔術が施されている。どれだけ攻撃されようとも、魔術が誤爆しようとも破壊されないように、攻撃魔術科の訓練場は念入りに作られていると聞いている。それを破壊するほどの攻撃魔術なんて、それこそダーグル先生のような赤級魔術師でもなければ不可能なはず。


「あたしにそんな凄い魔術が使えるわけないでしょ! 選択を間違えたのよ……」


 何を選び間違えたのか薬魔術科のマユにはさっぱり見当がつかない。視線を向けると、セオドアとオッジが苦笑いで説明をはじめた。


「攻撃魔術の実技試験は、まず最初に杖を選ぶんだ。三十本くらい用意されてる杖の中から、自分にあう杖を選んで、それをつかって実技試験を受けるんだけど」

「杖にはそれぞれ一つだけ魔術が刻まれてて、それを読み取って自分と相性の良いのを選ぶんだけどさ、エリカが選んだのは『増大(カリエ)』だったんだ」

「古代魔術語じゃなかったら、間違えなかったのにぃ……」


 命中率を高めたかったエリカは『制御(カリル)』の付与された杖を選んだつもりだった。自分が『増大』の杖を握っているのに気づかず、最初の試験に全力で挑んだ。


「そしたら、このテーブルくらいの火弾が出ちゃったのよ――」

「そ、それは」


 四人が囲むテーブルは半径がマユの片腕ほどもある。これほど大きな火弾がぶつかれば、確かに自分の的だけでなく両隣も壊れるだろう。


「一度選んだ杖は交換不可だったから、エリカはずっと『増大』が付与された杖を使うしかなくて、ダーグル先生は水弾で水浸しになって、風刃でローブが切り刻まれて、石礫は火弾くらいの巨大な岩が飛んでさ」

「壁に穴が空きそうになったのを、魔術盾で防いだんだ」

「――終わったわ、あたしはもう終わりだわ……」


 なんとか励まさねばと思ったマユだが言葉が思い付かない。セオドアもオッジも首を横に振るだけだ。

 マユはエリカの肩を叩いて、まだ手をつけていなかったデザートを差し出した。


   +


 そんなふうにして魔術学校前期の査定考査は全日程を終えた。


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