暴露 (3)
戦場の空気は、次第に張り詰めたものへと変わっていった。タロスは構えをさらに引き締め、一方のカイルは場外から興味深そうに目を光らせていた。まだ対戦は始まったばかりだ。
アリアンは銃を構えながら、ノックスを見て小さく眉をひそめた。
「でも……もしあなたに当たったら……」
ノックスは動きながら、冷静に返した。
「心配ない。衝撃波の範囲は把握している。俺が避ける。お前は、自分の意思で撃てばいい。」
その落ち着いた声と、確かな信頼のこもった眼差しに、アリアンの中の不安が少しだけ和らいだ。
「……本当に、大丈夫なの?」
「大丈夫だ。」
ノックスはそう断言すると、タロスの鋭い突進を身軽にかわし、振り返りざまに再度言う。
「集中しろ。俺のことは気にするな。」
アリアンは深く息を吸い、緊張を抑えるように目を細めた。そして改めて銃を構え、今度は手の震えも少なく、しっかりと照準を合わせて……引き金を引いた。
パンッ!
銃声が再び響く。今回の弾道は格段に正確で、タロスの防御姿勢を貫くように迫る。爆ぜた衝撃波が彼の身体を押し戻し、幾歩か後退させた。
「おお、いい感じじゃん!」
カイルが手を叩きながら叫んだ。「これぞ成長ってやつだな。止まるな、撃ち続けろ!」
アリアンは自分の攻撃が実を結んだのを目の当たりにし、ほんのりと笑みを浮かべた。握る銃の手も、自然と安定してきた。彼女はノックスを見た。彼は依然として素早く動き回り、戦場の中で的確に立ち回っていた。
「よし……それなら遠慮しないから!」
彼女は声を張り上げると、再び銃を構え、完全にこの戦いに身を投じた。
一方、タロスが徐々に押され始めたのを見て、カイルが口元に笑みを浮かべる。
「うーん、見てるだけじゃつまらなくなってきたな。タロス、お前いつまで持ちこたえるつもりだよ?」
タロスはちらりと横目でカイルを睨み、ぼそりと呟いた。
「文句があるなら、自分で来い。」
「じゃあ、遠慮なく♪」
カイルの背から金属のような光沢を帯びた鱗の翼が広がり、風を巻き起こして軽やかに戦場へと舞い降りた。
彼は指でノックスとアリアンを指し、ニヤリと笑って挑発する。
「さあ、二対二の本番スタートってわけだ!」
ノックスはわずかに眉を寄せたが、特に否定はしなかった。ただアリアンにだけ、低く囁いた。
「集中を切らすな。惑わされるな。」
「わかってる!」
アリアンはカイルの挑発的な笑みに負けじと、銃を握り直し、気を引き締めた。
カイルはタロスの肩を軽く叩きながら、冗談交じりに言った。
「もう休憩は十分だろ? 今度は俺が前に出る。お前は後方支援、特異科の実力を見せてやろうぜ?」
「失敗して恥をかくなよ……」
タロスは低く笑いながら応じた。
空気が一変する。カイルは圧倒的なスピードでノックスに迫り、その翼が生み出す風が場に強い緊張を走らせる。ノックスはすかさず火を纏い、正面から迎撃に出る。
同時に、タロスが横を回り込んでアリアンを狙う。
「彼女には触れさせない。」
ノックスの声が鋭く響くと、その火焰がタロスの進路を阻むように弾けた。タロスは仕方なく一歩退く。
「アリアン!」
ノックスは振り返り、短く指示を飛ばす。
「今がチャンスだ。タロスを狙え!」
「了解ッ!」
アリアンは一瞬の迷いもなく銃を構え、引き金を引いた。
弾丸が唸りを上げてタロスに向かい、今度は完全に避けきれなかった。爆発した衝撃波により、彼は体勢を崩し、後退を余儀なくされる。
「いいぞ!」
カイルは笑いながらも、手を緩めずに再度ノックスに飛びかかる。
「だがな、ここからが本番だ!」
戦いがさらに激しさを増す中、カイルの戦い方も徐々に変化していった。力任せの攻撃から一転、今度は圧倒的なスピードでノックスに迫る。
金属の翼を大きく羽ばたかせ、空気を切り裂く風が場内に響いた。鋭い気流が周囲の空間を一瞬静止させるかのように張り詰める。
「どうした、ノックス。俺とスピード勝負してみるか?」
カイルは挑発的な笑みを浮かべながら、再び勢いよく襲いかかった。
ノックスは眉をわずかにひそめ、その動きから目を離さず、即座に身を翻して回避。反撃の炎を放つも、カイルはそれを余裕でかわしていた。
「やっぱり無理か?」
カイルの声には、からかうような自信が満ちていた。翼を震わせるたびに風がうなり、その速度はノックスの反応をも上回り始める。
「……仕方ないな」
ノックスは深く息を吸い込み、一瞬だけ背後にいるアリアンの様子を確認すると、静かに呟いた。
「こっちも本気でいく。」
言葉と同時に、ノックスの腰背から暗紅色に輝く悪魔の翼が展開される。その姿はまるで別人のように鋭く、そして速く──
「おぉ? そんな隠し玉があったとはな!」
カイルの目が一瞬だけ見開かれる。
ノックスは無言のまま空中へと舞い上がり、悪魔の翼を使って驚異的な加速を見せた。カイルの金属翼は強力ではあるが、その分重さもある。スピードの面では、明らかに不利だ。
「チッ……この速さは……」
カイルは食い下がるように追いかけるも、ノックスの機動にはついていけない。
背後を取られた瞬間、ノックスの炎がカイルの側面をかすめるように走り抜ける。その熱気と衝撃に、カイルは思わず大きく後退せざるを得なかった。
「……お前の負けだ、カイル。」
ノックスの冷ややかな声が、空中から響いた。
息を切らしたカイルは、それでも口元に笑みを浮かべていた。
「ははっ……すげぇな、お前。完全に見くびってたよ。」
その一方で、アリアンはタロスへ向けて正確に銃弾を撃ち込んでいた。衝撃波は彼にまともなダメージこそ与えていなかったが、回避を強いられるたびに疲弊は確実に蓄積されていた。
「やるな、小娘……」
息を荒げながらタロスは言うと、ついに手を挙げて降参の意思を示した。
「悪い、もう限界だ。」
戦場に走っていた緊張感が、一気にほどけていく。ノックスは空中からアリアンのもとへと着地し、翼を静かに折りたたんだ。
その顔は相変わらず冷静だったが、額に滲む汗が激闘の証を物語っていた。
「……勝ったの?」
アリアンがぽつりと尋ねる。
「まぁ、今回はな。」
ノックスは場を見渡しながらそう返す。カイルとタロスに再戦の意思がないのを確認すると、短く言い添えた。
「少なくとも、これで一段落だ。」
安堵の息をついたアリアンは、少し得意げに笑った。
「足を引っ張るかと思ったけど……案外、役に立ったかもね。」
ノックスは彼女の手に握られた銃に目をやり、淡々と評価を口にする。
「悪くなかった。期待は裏切らなかったな。」
その一言に、アリアンの胸がじんわりと温かくなった。
「次もやろうぜ!」
カイルが戦場の中央から歩み寄ってきた。服は乱れていたが、顔には満足気な笑みが浮かんでいる。
「今回は見事だったけど、次はこんなに簡単にやられないからな!」
タロスも続いて歩み寄ると、頷きながら言った。
「お嬢ちゃん、なかなかやるじゃねえか。次も期待してるぜ。」
アリアンは顔を赤らめつつ、銃を握りしめて照れ笑いを浮かべた。
一方、ノックスは無表情のまま一言だけ返した。
「……考えておく。」




