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デビルアカデミア~ 悪魔学園の禁断の封印を解くのは俺だけでいい ~  作者: 雪沢 凛
第七章

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暴露 (4)

 カイルとタロスが簡単に場を片付けて去った後、訓練場にはノックスとアリアンの二人だけが残された。


 ノックスは場外に置いていた上着を取りに向かい、汗で少し湿った袖を払うと、それを羽織ろうとした。しかし、その時──背後から気配を感じた。


「ねぇねぇ、ちょっと失礼!」

  気づけばアリアンがすぐ後ろに立っており、好奇心に満ちた表情でノックスのシャツの裾をめくり上げていた。


「……おい。」

  ノックスが反応するよりも早く、冷たい空気が背中に触れる。アリアンは目を丸くして観察していた。


「やっぱり!ずっと気になってたの、あの悪魔の翼ってどこから出てくるのか!」

  彼女は興奮気味に言いながら、指で彼の背中をなぞり始めた。「普段服を着てると全然わかんないんだよね……」


「触るな。」

  ノックスは苦々しげにため息をつき、手で彼女の手を払おうとしたが、アリアンは引かずにさらに腰のあたりを見つめた。


「ここ……」

  彼女の指が腰にある微細な紋様に触れる。そこは、ちょうど翼が収納されている部位だった。


 ノックスは観念したように、小さく魔力を注ぐ。淡い光が腰背を包み、やがて腰椎の両側から暗紅色の悪魔の翼が展開された。半透明の膜に浮かぶ紋様が、微かな光を受けて神秘的に輝く。


「わあ……本当に生えてきた!」

  アリアンの目が輝く。彼女は翼に手を伸ばし、躊躇なく触れた。


 指先はまず、腰の骨に近い部分に触れ、次に翼の膜へと滑る。しっとりとした皮革のような感触に彼女は感動し、思わず撫でるように手を動かした。

  「へぇ……思ったより丈夫そう。これ、筋肉? それとも骨?」


「……やめろ。」

  ノックスの体がビクリと震える。擽られるような感覚に思わず顔をしかめる。

  「そこは……触るな。」


 アリアンは気づかず、さらに触ろうとしたその時──彼女の指が敏感な部位に触れてしまった。


「っ……!」

  ノックスが鋭く息を吸い、妙な声を漏らしそうになったその瞬間、慌てて翼を引っ込め、アリアンから距離を取る。腰に手を当てながら睨むように彼女を見る。


「何してんだよ。」

  その声には、かすかな動揺が滲んでいた。


 アリアンは全く悪びれた様子もなく、むしろ面白がって笑みを浮かべる。

  「まさか、くすぐったかったの?」


「……」

  ノックスは返す言葉もなく、シャツを乱暴に引っ張って背中を隠し、きつめに言い放った。

  「勝手に触るな。次は許さない。」


 翼をしまった後も、彼の背中にはさっきの感触がうっすら残っていて、不快というより、むず痒く落ち着かない。


 だがアリアンはおかまいなしで笑い、手を背中に回して首を傾げる。

  「わかった、わかった~。でも、あの翼、カッコよすぎでしょ? 触らずにはいられないって!」

「……」


  ノックスはこめかみを押さえて深いため息をつく。これから先、アリアンの好奇心といたずら心には苦労しそうだ──


 ノックスは何も言わずに上着を羽織り、袖を整えながらアリアンに視線を向けた。その目線は、彼女の手に握られた銃へと移る。


「その銃、どうだった?」


 アリアンは手元の銃を見つめ、少しだけ戸惑いの笑みを浮かべる。

  「これ……本当に失敗作じゃないの? めっちゃ強かったけど。まさかノックスが作ったなんて……」


「……ああ。」

  ノックスはそっけなく頷き、続けて尋ねた。

  「使いにくい部分はなかったか?」


「全然!完璧だった!」

  アリアンの目が輝く。そう言って銃を丁寧にしまうと、名残惜しそうに彼へ差し出した。

  「ほら、返すね。」


 ノックスはその手を見て、軽く眉をひそめた。だがすぐに、平然とした声で言う。


「……返さなくていい。お前が使え。」


「え?」

  アリアンが驚いたように顔を上げる。「これ、やっぱり……私のために作ったんでしょ?」


 ノックスは一瞬黙ったが、否定はせず、ただ視線をそらして淡々と返した。

  「そう思いたいなら、勝手にすればいい。」


 アリアンは視線を落とし、手に残されたその銃を見つめる。そして、ふと微笑み、指先に力を込めた。

 その微笑みには、どこか特別な意味が込められていた。


「ありがとう。」

  小さく、でも確かに届く声で言った。


 ノックスは何も返さなかった。ただ一言、「ああ」とだけ応じ、くるりと背を向けて歩き出す。

 その背を、アリアンは嬉しそうに追いかけていく。足取りは軽く、頬には未だ消えぬ笑みが浮かんでいた。


 ◆ ◆ ◆ 


 食堂の中は、学生たちの賑やかな話し声と、食器が触れ合う音が交じり合い、活気に満ちていた。窓から差し込む柔らかな陽光の下、ノックスは黙々とサンドイッチをかじり、周囲の喧騒などまるで関心がないように見えた。

 向かい側に座るアリアンはフォークを手に、食堂の単調なメニューに不満げな顔でぼやいていた。


「ねえ、ノックス。」

  彼女はフォークの先でノックスの手元のサンドイッチを指しながら、少し身を乗り出す。

  「またそれ? 毎日そればっかで飽きないの?」


 ノックスは顔を上げ、淡々と答えた。

  「手間がかからない。それだけで十分だ。」


「……はあ、またそれ。」

  アリアンは呆れたようにため息をつき、ノックスの隣に座っているカスパの方へ視線を移す。

  「ちょっと、カスパ。あんたからも何か言ってやってよ。」


 カスパは符紋関係の本を読んでいた。メガネの奥の目が反射して、一瞬彼の表情が見えなくなる。

  「ノックスのやり方は理にかなってる。シンプルで効率的、時間の節約にもなる。」


「……二人とも救いようがないわね。」

  アリアンは肩をすくめ、フォークを皿の上に置いた。


 その時、食堂の入り口が開き、入口付近にいた学生たちがわずかに身を引き、入口の方を振り返った。

 現れたのは、カイルとタロスだった。


 カイルの金色の髪が光を受けて輝き、背中に折り畳まれた金属の翼が照明に反射して微かな光を放つ。その翼は完全には広がっていないものの、存在感は十分だった。

 タロスはその後ろを歩き、その圧倒的な体格と牛の角が天井の照明に届きそうな勢いだった。一歩ごとに床がかすかに震えた。


 彼らの登場により、食堂の空気が変わる。学生たちは自然と彼らを避け、何人かはトレイを持って席を立ち去るほどだった。


 カイルの視線が食堂内を一周し、すぐに窓際に座るノックスを見つけた。

  「見つけた。」

  彼はそう言うと、タロスに目配せし、まっすぐノックスのテーブルに向かって歩いてきた。


 カイルは椅子を引いて座り、金属の翼がうっかり後ろのテーブルにぶつかって、「ガンッ」と鈍い音を立てた。


「わりぃ、わりぃ。」

  カイルは手を挙げて謝りながらも、笑顔のまま。誠意は感じるが、本気で悪いと思っているかは微妙だった。


 テーブルにぶつけられた学生は黙ってカイルとタロスを一瞥し、そのままトレイを持って立ち去った。


「お前の翼、普通に凶器だな。」

  カスパが本から目を離し、淡々とした口調で言う。


「まあ、慣れろって。」

  カイルは肩をすくめた後、ノックスに向き直る。

  「ここにいたのか。にぎやかでいいじゃん。今日のランチはどうだ? 口に合うか?」

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