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デビルアカデミア~ 悪魔学園の禁断の封印を解くのは俺だけでいい ~  作者: 雪沢 凛
第六章

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真実 (4)

 アリアンは気を取り直したように、少し明るい声で言った。

  「そういえば、今日は学院の理事会の日なんだって。理事たちが校内を見回るとかで、先生が“今日は大人しくしなさい”って言ってたよ。」


 カスパがすぐに反応する。

  「そうそう、うちの母さんも理事の一人なんだよ。学園の設立にも出資してるし!」


 アリアンは驚いたように目を見開き、すぐに微笑んだ。

  「へぇ、そうだったんだ。すごいね、お母さん、学園に大きく貢献してるんだね。」


 褒められて得意げになったカスパは、胸を張って言う。

  「でしょ? うちの母さん、結構偉いんだから。でもさ、母さんがよく話すんだ。『学院に本当の影響力を持ってるのは、理事長のエリオット氏だ』ってね。」


 その名前を聞いて、ノックスの目が一瞬揺れる。

  彼は低くつぶやいた。

  「エリオット……父さんのことだ。」


 水を飲んでいたアリアンは思わずむせそうになり、慌ててカップを置いた。

  「えっ……え? 今、なんて?」


 ノックスは静かに頷く。

  「理事会の理事長。それ、俺の父さんだ。」


 カスパも目を見開いてノックスを凝視する。

  「うそだろ!? 今まで一度もそんなこと言ったことなかったじゃん!?」


 ノックスは肩をすくめ、相変わらず無表情で答えた。

  「俺もさっき知ったばかりだ。」


 二人は顔を見合わせ、驚きで口を開けたままだった。


  カスパはようやく声を絞り出す。

  「いや、さすがにそれは隠しすぎだろ……俺、お前って普通の家の出だと思ってたよ。」


 アリアンはノックスをじっと見つめ、少し困ったように言う。

  「でも本当に知らなかったの? 理事長ってかなり有名だし、どこかで聞いたことあると思うけど……」


 彼女はふと何かを思い出したように、問いかけた。

  「ねえ、前に言ってたよね。お父さんは“学者”だって。」


 ノックスは一度目をそらし、再び彼女を見据えて静かに答える。

  「そう聞いてたし、そう思ってた。」


 そう言いながらも、ノックスの内心は激しく波打っていた。

  父はただの引退した悪魔狩人だと思っていた。

  けれど、それはほんの一面でしかなかった。


 彼は心の中で自嘲気味につぶやいた。

  「伝説なんて、ありえないと思ってた。」


 だが、今日見たあの姿――戦場のような練習場で、迷いもなく魔獣を撃ち抜いていく姿――それは、年月や傷をものともしない、まさに“生きる伝説”だった。


 さらに、父が学院の設立に深く関わっていたという事実。

  アイデンの理想を、最初から共に描いてきたという事実。

  ノックスはその重みを理解しきれず、ただ黙って皿の中の食事を見つめていた。


 だが、食欲は一向に湧いてこなかった。

  「父さんは……一体、どこまでを俺に隠してたんだろう。」


 カスパとアリアンの会話は耳に入らなくなり、ノックスは一人、胸の中に渦巻く感情と向き合っていた。


 あの事故、父の怪我、アイデンの沈黙、カルマの微笑みの奥にある悲しみ――

  それらはすべて、ただの偶然や優しさでは片付けられない。


「きっと、まだ何か隠している。」

  ノックスはそう確信しながら、静かにスプーンを置いた。


 ノックスが手にしていたスプーンをぎゅっと握りしめ、その指先が白くなっていくのを、アリアンは黙って見つめていた。

  いつもは涼しい顔で何事にも動じない彼が、今はまるで別人のように、心の奥底で何か重いものに押し潰されそうになっている。


 彼の横顔には沈黙が張りつき、まるでこの場に存在していないかのような遠い目をしていた。

  それは単なる無関心や無口ではない。心の中で何かと必死に向き合っている証のように見えた。


「ノックス……大丈夫なの?」


  アリアンはそう問いかけたくなったが、声にすることはできなかった。

  いつもは軽口を叩いて彼に絡むのが日常だったのに、今日はなぜか、その沈黙を壊すのが怖くなった。


 彼の中には、自分たちが知り得ない何かがある――

  そう感じたアリアンは、静かに視線を外し、小さく息を吐いた。


 ノックスが「そう聞いてたし、そう思ってた。」と言ってからというもの、彼は完全に口を閉ざしてしまった。

  食事に手をつけることもなく、ただ黙々と俯いている。

  その姿は、周囲の空気さえ重くしていた。


 いつもは鈍感なカスパでさえ、異変に気づいた。

  今のノックスは、ただの無関心ではない。

  言葉にはできない何か――混乱、怒り、悲しみ……それらが混ざり合った複雑な感情が、彼の中で渦巻いているのだと。


「おい、ノックス……」

  カスパはついに声をかけた。探るような口調で、

  「大丈夫か? その……お父さんのこと、そんなにショックだったのか?」


 だがその言葉は、ノックスの冷たい視線一つで遮られた。

  目が合った瞬間、カスパは「これ以上言うな」と無言で告げられたように感じ、すぐに口を閉ざした。


「いや、でも、普段はあんなに冷静なやつが……今日は本当に変だぞ……」

  カスパは黙りつつも、心の中でそう思わずにはいられなかった。


 アリアンはカスパの不用意な発言に口を挟まなかった。

  しかし、鋭い視線でじっと睨むことで、その代わりとした。


  カスパはその視線に気圧され、思わず目をそらしながら、

  「ご、ごめん……悪かったよ……」と、しおらしく謝った。


 しばらくして、ノックスがようやく口を開いた。

  「これは、俺の問題だ。君たちには関係ない。」


 それに対し、アリアンはすぐさま首を振り、真剣な口調で言った。

  「関係ないわけないでしょ。友達なんだから。友達って、そういうものでしょ?」


 その言葉に、彼女はカスパに目を向け、暗に「あなたもでしょ?」と言わんばかりの表情を浮かべた。


 カスパは一瞬ぽかんとしたが、すぐに頷きながら賛同した。

  「そ、そうだよ! 俺たち友達だろ? 何かあったら一緒に考えようぜ。なあ?」


 ノックスはそんな二人を見つめ、言葉にはしなかったが、その心には確かに何かが届いていた。

  彼はそっと息を吐き、手にしたスプーンを静かにテーブルに置いた。


「友達か……」

  その言葉が、彼の胸に不思議な温もりを残した。

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