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デビルアカデミア~ 悪魔学園の禁断の封印を解くのは俺だけでいい ~  作者: 雪沢 凛
第六章

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真実 (3)

 カルマは、ノックスが深い思索に沈んでいるのを察し、足を止めて振り返った。

  そして穏やかな声で言った。


  「まだ整理しきれてないみたいね。いいのよ、時間がかかっても。もしまた聞きたいことができたら、いつでも聞いてちょうだい。」


 ノックスは顔を上げ、カルマと目を合わせる。

  その黄緑がかった瞳には、言葉にできない複雑な感情が揺れていた。


 カルマは微笑んで、一歩近づき、ノックスをやさしく抱きしめた。

  その動きはあまりに自然で温かく、まるで風が頬を撫でるようだった。

  「ヨルちゃん。何があっても、あなたは私たちにとって一番大切な子よ。」


 ノックスは戸惑ったように一瞬固まったが、拒むことはなかった。

  ただ静かにその温もりを受け入れた。

  胸の奥にあったざわめきが、ほんの少し和らいでいくのを感じながら。


「……ありがとう。」

  小さな声で呟いたその言葉には、まだ不器用ながらも確かな感謝が込められていた。


 カルマはノックスを放し、軽く肩に手を置いて笑った。

  「さ、あまり考えすぎないで。私は校長室に行ってくるわ。会議が終わったら、また何か考えましょ。」


 ノックスは小さく頷き、再び歩き出した。

  まだ心の中は静まってはいないが、それでも、久々に感じた安心感に、少しだけ表情が柔らいでいた。


 ◆ ◆ ◆ 


 ノックスが教室に戻ると、すでにその表情からは朝の険しさが消え、いつもの冷静さを取り戻していた。

  カスパはそれにすぐ気づき、心の中で安堵の息をついた。


  (よかった……あの空気、マジで胃が痛くなりそうだった。)


 彼はノックスをちらりと見やったが、授業中だったため何も言わずに黙っていた。

 そして、昼休みのチャイムが鳴ると、我慢できずに席を詰めて声をかけた。

  「なあ、朝のあれ、なんだったんだよ? あんたがあんな顔するの、初めて見たぞ。」


 ノックスはノートを閉じ、淡々とした口調で答えた。


  「別に。」

 それだけ言って立ち上がり、食堂へと向かう。


 カスパは眉をひそめたまま彼のあとを追いかけながら、ぼやくように言った。

  「絶対『別に』って顔じゃなかったけどな……」


 それでも話を切り上げる様子はなく、話題を変えて続けた。

  「そういえばさ、今日の朝、ハンター科の美人さん――セレナ嬢がまた来てたらしいぜ? 学院に顔出すの、めったにないのにな。」


 その言葉を聞いても、ノックスは無言のまま歩き続けた。

  カスパは軽く肩をすくめ、独り言のように言う。


「いや、あれだけレアキャラなら話題にもなるって……あ、来た。」

 ちょうどその時、廊下の角から数人の学生が現れ、真ん中を歩く一人の少女にカスパの視線が止まった。


「まさかの、本人登場かよ……」


 セレナは学院の制服に身を包み、肩までの黒髪をなびかせながら静かに歩いていた。

  紅い瞳は冷ややかで、その端整な顔立ちは、ただ歩いているだけで周囲の視線を引き寄せるほどだった。


 廊下のあちこちで学生たちが小声で囁き、足を止めて彼女を見送っていた。


 カスパも思わず見惚れてしまい、ノックスに小声で話しかけた。

  「見た目はマジで完璧なんだけどな……氷の壁って感じで、近寄りがたいよな。」


 だがノックスはそれにも応じず、視線も動かさずに歩き続け、セレナとすれ違った。

 そしてその瞬間――彼女の声が、冷たく空気を切り裂くようにささやいた。


「……次は、逃さない。」


 ノックスは一瞬足を止めたが、すぐに口元をわずかに歪めて言い返す。


「――いつでもどうぞ。」


 その短いやり取りは、まるで火花のような鋭さを持っていた。

  言葉は少なくても、そこに漂う緊張感は圧倒的だった。


 カスパは後ろから見ていて、その張り詰めた空気に思わず肩をすくめた。


  (……なにあれ。なんかヤバくね?)


 ノックスはそのまま食堂へと歩を進め、セレナも何も言わずに別の方向へ歩き去っていく。

  二人の間に交わされた言葉の意味を知らないカスパだけが、ぽかんとした顔でノックスの背中を見つめていた。

「……もしかして、俺だけ蚊帳の外ってやつ?」


 ◇


 ノックスは食堂の隅で、静かに昼食をとっていた。

  いつの間にか、カスパもそれが当たり前のように感じていたのか、何も言わずにトレーを持って向かいの席に座った。

 二人が黙々と食べていると、聞き慣れた声が近づいてきた。


「ここ、座ってもいい?」


 ノックスが顔を上げると、そこにはアリアンがトレーを抱えて立っていた。

  彼女の表情はどこかぎこちなかったが、返事を待たずにそのまま腰を下ろす。

 ノックスは眉をひそめたが、追い出すこともしなかった。


「ごめん……」

  アリアンは小さく呟いた。その声には、確かな誠意が含まれていた。


  「セレナは私の妹だけど……あの子、家にもあまり帰ってこないし、連絡もほとんどないの。どうしてあなたを襲ったのか、本当にわからない。きっと何かの誤解があったんだと思う。本当に……間違いだった。」


 その言葉を聞いたカスパは、まるで雷に打たれたかのように固まった。

  「……え? ちょっと待って、今なんて言った? セレナって、君の妹なのか?」

 目を見開いて、信じられないといった表情を浮かべている。


 アリアンは顔を上げて頷き、静かな口調で答えた。

  「うん、私の妹だよ。」


 カスパは数秒沈黙し、ようやく口を開いた。

  「マジかよ……学院の美少女が、君の妹って……いや、全然似てないじゃん!」


 口に出した瞬間、自分がやらかしたと気付いたのか、慌てて言い直す。

  「い、いや、そういう意味じゃなくて! 悪気はないんだ、本当に!」


 しかし、アリアンは怒ることもなく、むしろ寂しげな微笑みを浮かべてうつむいた。

  「よく言われるよ。もう慣れたから。」


 カスパはさらに焦って、頭を下げながら謝り続けた。

  「ご、ごめんって! 本当にそんなつもりじゃ……!」


 アリアンは首を横に振り、手を軽く振って応じる。

  「大丈夫。本当に気にしてないから。」


 そのやり取りを静かに聞いていたノックスが、ようやく口を開いた。

  「君は君だ。彼女とは関係ない。比べる必要なんてない。」


 アリアンは一瞬目を見開き、ノックスの顔をじっと見つめる。

  彼の表情はいつも通りの無表情だったが、その言葉はまるで心を温めるように、彼女の胸に静かに染み込んでいった。


「ありがとう。」

  アリアンは小さく微笑みながら、心からの感謝を込めてそう呟いた。


 その様子を見ながら、カスパは頬をかきつつ心の中で呟く。

  (……なんだかんだで、この二人って、やっぱり特別な関係なのかもな。)

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