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デビルアカデミア~ 悪魔学園の禁断の封印を解くのは俺だけでいい ~  作者: 雪沢 凛
第六章

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真実 (2)

 銃を静かに床に置いた炎(エン)は、ノックスの方を振り返り、淡々とした声で言った。

  「銃と弾の設計、悪くない。十分な潜在力がある。ただ――もう少し改良の余地はあるな。」


 その言葉に、アイデンが眉を上げて笑った。

  「ほら、絶対そう言うと思ってたよ。ヨル、今回の課題はどうやら合格だね。」


 炎(エン)は練習場に散らばる灰と光の残滓を見つめ、珍しく口元に笑みを浮かべた。

  「合格どころか……かなり優秀な成果だ。」


 そう言って、彼はノックスの頭にそっと手を置いた。

  その手つきは驚くほど優しく、ノックスは一瞬、硬直した。


  幼い頃から見てきた父は、いつも冷静で厳格だった。

  こんな風に触れられた記憶など、ほとんどない。


 戸惑う彼の様子に、アイデンはニヤリと笑いながら言った。

  「へぇ、エンさんがそんなこと言うなんて。触れるなんて、なおさら珍しい。」


 炎(エン)は彼の軽口に構わず、スクリーンに映し出されたデータに目を落とした。

  そして、眉を少しひそめて呟く。


  「これが……限界か。」


  そう言って、再びゆっくりと車椅子へ戻り、脚部の装置を丁寧に外し始めた。

  その手つきには、長年の慣れが感じられた。


 アイデンはタブレットを片付けながら答える。


  「現段階ではね。でもここまでくれば、かなりの進歩さ。あとは継続と最適化。」


 炎(エン)は装置を脇に置き、ふとノックスを見て言った。

  「この銃……お前は、誰かのために作ったのではないか?」


 その言葉にノックスは目を見開いた。

  そして、一瞬だけアイデンに視線を向ける。

  まさか――何か漏らしたのかという疑いの目だった。


 アイデンは肩をすくめて言った。

  「何も言ってないさ。でもまあ、その弾、量産の手配はしておくよ。一つ一つ作ってたら、さすがに非効率だろ?」


 ノックスは困惑と警戒を隠しきれず、彼らを交互に見つめる。

  父が突然立ち上がり、あの銃で実戦さながらのテストが行われた上に、その意図すら見透かされたような気分だった。


 その時、カルマが近づき、彼の肩を軽く叩いた。

  「ふたりとも、あまりヨルちゃんを困らせないでよね。まだ子どもなんだから。」


 ノックスはその言葉に反応してカルマを見たが、反論はせず、ただその場に立ち尽くした。


  (……一体何なんだ、これは。)


 そのとき、学院の職員が練習場へ入ってきた。

  アイデンと炎(エン)に一礼し、恭しく告げる。


  「アイデン校長、エリオット様、理事会の時間が迫っております。会議室へご移動をお願いいたします。」


 炎(エン)は軽く頷き、職員に返す。

  「分かった。すぐ行く。」


  そしてカルマに向き直り、落ち着いた口調で言った。

  「後のことは、君に任せる。」


 カルマは胸に手を当てて笑顔で答えた。

  「了解。任せてちょうだい。」


 ノックスは二人の背を目で追いながら、数えきれない疑問が胸中に渦巻いていた。

  だが、炎(エン)とアイデンの落ち着いた様子を見ると、それ以上言葉を発することができなかった。

  彼はただ、カルマと共に練習場を後にする。


 カルマは彼の隣を歩きながら、軽く口を開いた。

  「ねぇ、ヨルちゃん。今なら少しは話せるわよ。知りたがってることで、話せることは。」


 ノックスは視線を向けたが、口を開かなかった。

  その代わり、静かに歩調を合わせ、話を聞く体勢を取った。


 カルマは少し息を整え、静かに語り出す。

  「……十年前くらいかしら。私とパパは、ここに引っ越すことにしたの。あのとき、アイデンはもう“学校を作る”って言い出しててね。」


  「人間と悪魔が、共に生きられる場所を作りたい――それが彼の願いだったの。」


「でもね、もっと大きな理由があったの。それは、“あなたみたいな子”が普通に育てる環境が必要だったから。」


 ノックスは眉をひそめた。

  「……俺みたいな子?」


 カルマはくすっと笑って、頷く。

  「そうよ。人と悪魔の間に生まれた子。半分ずつ、どちらでもあって、どちらでもない存在。

  そんな子が、安全に、誰にも迫害されずに過ごせる場所。……それを作るのが、私たちの夢だったの。」


「七年前――ちょうどあなたが生まれた年に、エマロ学院はできたのよ。」


 ノックスは黙ったまま前を見据える。

  その瞳には、微かな戸惑いと、深い影が差していた。


 カルマの口調が、わずかに真剣みを帯びる。

  「私たちはずっと、ヨルちゃんがこの学院に通って、普通の生徒として生きていける未来を望んでいたの。でも……五年前、ある事件が起きた。私たち家族は襲撃を受けたのよ。パパは、その時の傷で車椅子生活を余儀なくされた。」


 ノックスは拳を握りしめ、低く問いかける。

  「……なぜ、襲撃を?」


 カルマは小さくため息をつき、どこか諦めたような目をする。


  「私たちが昔、ハンターとして活動していたこと。あるいは、この学院を設立したことが誰かの利益を損ねたのかもしれない……理由ははっきりしないけど、あの襲撃でわかったのは、今の世界にはまだ、私たちの理想を受け入れられない人たちがいるということ。」


 彼女は足を止め、ノックスの方を振り返って目を合わせた。


  「それ以来、私たちはあなたを守ることに全力を注いできた。でも、あっという間だったわね……あなたの成長は、私たちの想像以上だった。身体も、頭の回転も、すべてが。」


 ノックスは顔を上げ、じっとカルマを見つめる。

  「……だから、今はもう守るよりも、戦えるようにさせるってことか?」


 カルマはうなずき、少し柔らかな笑みを浮かべた。


  「そうよ。あなたはもう、ただ守られるだけの子じゃない。むしろ、自分で自分を守れるだけの強さを持ってる。だからこそ、今こそ私たちも立ち上がる時なの。五年前の襲撃者の正体――あれを突き止めるために。」


 ノックスはカルマの言葉を黙って聞いていた。

  それは、自分の在り方への新たな理解であり、同時に、両親の過去に対する重みを知るきっかけでもあった。


 ふと、彼の脳裏にある名前がよぎる。

  以前、両親の会話の中で聞いた記憶――それは、曖昧なまま心の隅に残っていた名前。


「……ソレイア。」ノックスは静かに口にした。

  「その人も……関係しているのか?」


 カルマの表情が、一瞬にして硬直する。

  まるで時が止まったかのように、目を伏せ、しばらく何も言わなかった。

  そして、小さく呟くように言う。


「……ええ。」


 ノックスはその反応に、胸の奥がざわめくのを感じた。

  軽く尋ねたつもりだった。けれど、その一言でカルマの表情が崩れるとは思わなかった。


 彼は視線を外し、できるだけ軽く聞くよう努めて言った。

  「……それで、彼女は――」


 しかし、その先の言葉は喉に詰まり、続けることができなかった。

  カルマの目に、一瞬浮かんだ深い哀しみを見てしまったから。


 沈黙が落ちた後、カルマはゆっくりと顔を上げ、無理に笑みを作った。


  「彼女は……私たちにとって、大切な存在だった。でも、もう終わった話よ。前を向かないと。」


 ノックスはうなずいた。

  それ以上は聞かなかった。


  けれど、心のどこかで確かに感じていた――この名前、「ソレイア」。

  それは彼の人生にも、いずれ深く関わってくるものだと。


 二人は無言で歩を進める。

  ノックスの中には、複雑な感情が渦巻いていた。

  哀しみ、疑念、そして……微かな責任感のようなもの。


 しかし、次に浮かんだのは別の名だった。


(……アリアン。)


 五年前、事故に遭い、記憶を失った少女。

  胸元には、まっすぐに走る傷跡。

  その出来事と、彼ら家族が襲われた事件は、同じ年――。


(……単なる偶然か?)


 カルマは何も言っていなかった。

  だが、ノックスの中には奇妙な不安が芽生え始めていた。


(……本当に、無関係なのか?)


 彼は心の中で何度も自分に問いかける。

  けれど、答えは出ない。

  ただ、心の奥底で何かが警鐘を鳴らしていた。


「……考えるな。今はまだ。」


 ノックスはポケットに手を突っ込み、深く息を吐いた。

  感情を沈めようと、自分にそう言い聞かせる。

  だが、その胸中には、確かな「予感」が渦を巻いていた。

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