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デビルアカデミア~ 悪魔学園の禁断の封印を解くのは俺だけでいい ~  作者: 雪沢 凛
第六章

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真実 (5)

 午後の時間は、ノックスにとってまるで霧の中を歩いているようだった。

  授業内容はほとんど頭に入らず、記憶に残っているのは、断片的な光景と、家庭にまつわる謎に揺さぶられた感情だけだった。


 朝、カルマが校長室にいると言っていたことをふと思い出し、ノックスの足は自然とその方向へと向かっていた。

  それは、理屈ではなく、何かに引き寄せられるような無意識の行動だった。


 そんなとき、聞き慣れた声が背後から響いた。

  「おーい、普通の生徒さん!」


  振り返ると、アリアンが軽く息を切らせながら駆け寄ってきた。

  「……この子、本当に俺を見つけるのが上手いな」ノックスは内心で小さく呟いた。


 アリアンが彼の隣まで来ると、視線をノックスの見ていた先に移し、目を見開いた。

  「え? あそこにいるの、あなたのお母さんじゃない?」


 ノックスが目を向けると、たしかにカルマが校長室の前に立っていた。

  そのそばには、アイデンと車椅子に座った父・炎(エン)——エリオットの姿もあった。


「こんにちは、アイデンさま!」

  アリアンは元気よく挨拶しながら、先に駆け寄った。


 アイデンは手を軽く振り、いつもの柔らかい笑顔で答えた。

  「君たち、こんなところまで来てどうしたのかな?」


 アリアンは返事をする前に、カルマに向き直り、丁寧に頭を下げた。

  「こんにちは、ノックスのお母さま。」


 カルマは少し驚いたように目を見開き、すぐに微笑んで返す。

  「ああ……この前のクラスメイトの子ね?」


「はい! アリアンと申します!」

  彼女は明るく自己紹介しながら、カルマの隣に目を移した。


 そこに座っている男性——車椅子に座るエリオット。

  想像していたよりも若々しく、落ち着いた佇まい。

  そして何より、ノックスとどこか似た雰囲気を持っている。


「エリオットさま、こんにちは。」

  アリアンは丁寧に挨拶をした。


 エリオットはゆっくりと彼女のほうを見て、紅の瞳をわずかに細めた。

  特に表情は変えず、ただ軽く頷いたのみ。


 それでもアリアンは気にする様子もなく、ノックスのほうを見て小声で囁いた。

  「お父さん、あなたとそっくりね……しかも若いし。」


 ノックスはその言葉に少しだけ眉をひそめたが、特に反応は返さなかった。


 そのとき、カルマが近づき、軽くノックスの肩に手を置いた。

  「ちょうど帰ろうとしていたところよ。一緒に帰らない?」


 ノックスが頷こうとしたそのとき、アイデンがアリアンに視線を向け、少し意味深な口調で言った。

  「そういえばノックス、昨日の話、彼女にもうしたのかな?」


「えっ? 私のこと?」

  アリアンは首を傾げ、不思議そうにノックスを見つめた。


 彼は少し間を置き、静かに答えた。

  「君の身体のことだ。」


「私の……身体?」

  アリアンは目を見開き、戸惑いながら自分を指差した。


 カルマはにっこりと微笑み、何も言わず。

  アイデンは興味深そうに様子を見守りながら、肩をすくめた。

  どうやら説明はノックスに任せるつもりらしい。


 ノックスはため息をひとつついてから、アリアンの目を見て言った。

  「君の身体は、魔力に対して異常な反応を示している。俺が魔力を流そうとしたとき、それを“跳ね返した”んだ。」


  少し間を置いて、付け加える。

  「……この現象は、かなり稀だ。」


 アリアンは驚いたように何度か瞬きをし、

  「それって……何が原因なの?」と、少し不安げに訊ねた。


 ノックスはアイデンのほうを見ると、アイデンは静かに頷いた。


「まだ断定はできない。でも、君には一度、詳細な検査を受けてほしい。原因が分かるかもしれない。」

  ノックスの声は静かで真剣だった。


 アリアンはしばらく黙り込み、目を伏せて考え込んだ。

  やがて、少し恥ずかしそうに笑みを浮かべながら、言った。

  「……ちょっと怖いけど。でも、もし原因が分かるなら……悪くないかもね。」


 炎(エン)は珍しく口を開いた。

  その声は冷静だが、どこか圧を孕んでいた。

  「魔力の反発……とはどういうことだ? この少女は、すでにお前の正(・)体(・)を知っているという意味か?」


 その一言に、ノックスの瞳がわずかに揺れた。

  息を呑み、顔から冷静さが薄れ、代わりに一抹の緊張が走る。

  彼は視線を落とし、低い声で答えた。


  「……実は、初日に知られてた。……すみません、俺のミスです。」


 その言葉に、アリアンが慌てて前へ出る。

  弁明するように、早口で言葉を重ねた。

  「違います! 本当に、ただの偶然なんです! わざとじゃありません! 本当に!」


 手を上げ、必死に誠意を示そうとするその様子に、

  炎(エン)の視線が静かに二人を見渡す。

  その眼差しは深く、内心が読めない。


  やがて彼はゆっくりと頷き、しかし容赦ない声音で言った。

  「……中で話そう。」

  そして、校長室の扉を指し示す。


 カルマはノックスに目を向け、微笑を浮かべた。

  その笑みはどこか慰めを含み、軽く彼の肩を叩く。

  「大丈夫よ。とりあえず、パパの話を聞いて。」


 アイデンは両手をポケットに突っ込み、アリアンに向けて意味ありげな笑みを浮かべたあと、

  静かに彼らの後に続いた。


 空気が一気に張り詰め、アリアンは思わず喉を鳴らした。

  緊張感に包まれたまま、ノックスの後ろをついて校長室へと入る。

  扉が閉まる音が重く響き、その瞬間、空間全体が重たい沈黙に包まれた。



 広々とした室内は静まり返っており、

  整然と並べられた書類と電子機器だけが、わずかな生活感を醸し出していた。

  ノックスとアリアンは部屋の中央で立ち尽くす。

  座ることもできず、呼吸すら躊躇うような緊張に囚われていた。


 そんな二人に、炎(エン)が静かに命じる。

  「座れ。立ったまま話すな。」


 二人は目を合わせ、やがてそっと椅子を引いて座る。

  その動作ひとつすら慎重で、まるで一歩間違えれば何かが壊れてしまいそうな、繊細な空気が張り詰めていた。


 炎(エン)はじっと二人を見つめ、そして低く、静かに告げた。

  「話せ。最初から最後まで、一つ残らず正確に。」


 アリアンがすぐに口を開く。

  やや焦り気味の声で言葉を綴る。

  「その……初日に……たまたま彼の気配が普通と違ってて、それで、つい……」


 だが、炎(エン)は手を上げて彼女の言葉を遮った。

  視線はノックスに向けられている。

  「魔力の反発については……お前が話せ。」


 アリアンは思わず肩をすくめ、そっと身を引いた。

  そしてノックスに小声で囁いた。

  「……なるほど、あなたがお父さんを怖がる理由がわかった気がする……」

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