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デビルアカデミア~ 悪魔学園の禁断の封印を解くのは俺だけでいい ~  作者: 雪沢 凛
第六章

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真実 (1)

 ノックスは憤然と教室へ足を踏み入れた。


 歩調はやや速く、鋭い眼差しで周囲を一掃する。

 カバンを無造作に席の横へ放り出し、勢いよく椅子に腰を下ろすと、

 眉間に深い皺を寄せ、表情は険しかった。


 隣の席にいたカスパは、ノックスの異変に気づき、眉をひそめた。

  (……あの、いつも氷みたいに冷静なノックスが、こんな顔するなんて。)


 これまでのノックスは、常に他人事のような無関心さを漂わせ、どんな出来事にも心を動かさないような雰囲気を持っていた。

 だが今の彼からは、張りつめた糸のような緊張感が伝わってきて、教室の空気まで重くなっているようだった。


 カスパは思わず椅子を少し引き、距離を取る。

 何か声をかけようとしたが、その言葉は喉元で止まり、そっと筆記に戻ることにした。


 横目でノックスをうかがうと、彼は黙々と教科書を開き、ページを睨みつけている。

 握ったペンには力が入り、指の関節が白く浮き出ていた。


(……今日は絶対に関わらないほうがいいな。)

  そう判断したカスパは、静かに自分のノートに意識を向けた。


 そのとき、教室の扉が開かれ、一人の教師が姿を現した。

  深い青色の教袍に身を包んだ女性教師――セナだ。


 彼女の髪も同じく濃紺で、短く整えられており、鋭い視線と常にピリッとした雰囲気を纏っている。

 教科書の束を抱えたまま、彼女は教室に入り、まっすぐノックスの方へ視線を向けた。


「ノックスくん。」

 名指しで呼ばれたその声には、有無を言わせぬ迫力があった。

「練習場へ行きなさい。今、あなたを呼んでいる人がいる。」


 ノックスは顔を上げ、少しだけ眉を寄せた。


「練習場、ですか?」

 彼は戸惑いを隠さず尋ねた。


 通常、生徒が呼び出されるなら事務室や会議室などが妥当なはず。

 練習場というのは、あまりにも不自然だ。


「先生、それって……」

 ノックスがさらに聞こうとした瞬間、セナは腕を組み、顔をわずかに傾けて低く言った。


「聞かなくていい。早く行って。」

 彼女の表情には、いつもの厳しさとは違う、どこか焦りのようなものが混ざっていた。


 数秒沈黙の後、ノックスはそれ以上何も言わず立ち上がり、教科書を閉じて席に置くと、そのまま扉へ向かった。


 カスパは思わず小声で呼び止める。

「な、なに? どういうこと? なんで急に練習場なんかに……?」


 ノックスは短く、「知らない」とだけ答え、淡々と教室を出ていった。

 その背中はいつもと変わらず落ち着いて見えたが、その歩みに混じるわずかな警戒心は、カスパの目にもはっきりと映っていた。


 ノックスは学園の廊下を抜け、練習場へ向かう。

  頭の中では、呼び出した人物の正体と、なぜ練習場という場を指定してきたのかを繰り返し考えていた。


(練習場……また、厄介な何かじゃなければいいけどな。)

 そう心の中で毒づきながらも、ノックスの足取りは止まらなかった。


 ◇


 ノックスが訓練場の扉を押し開けた瞬間、目に飛び込んできたのは予想していた“誰か”ではなく――見慣れた顔ぶれだった。


  場内の端に立っていたのは、アイデンと、彼の両親。

 思わず足を止めたノックスは、眉をひそめ、胸の奥にさらに濁った感情が渦巻くのを感じた。


  朝家を出たとき、家には誰もいなかった。

 それなのに今、彼らが揃ってここにいる。それがまた一層、状況をややこしくしていた。


 彼は無言で歩み寄り、苛立ちを隠さずに声を発した。

  「何してるんだ、こんなところで。」


 先に口を開いたのはアイデンだった。

 相変わらずの飄々とした笑みを浮かべたまま、軽く言う。


  「今朝、セレナと鉢合わせたとき、かなり困惑しただろう?」


 ノックスは冷ややかな視線をアイデンに向ける。

  「困惑してるのは、それだけじゃない。」


 その様子を見ていたカルマが、口元を綻ばせた。


  「ヨルちゃんがそんな顔するなんて、珍しいわね。

 何がそんなに気に食わないの?」


 ノックスは答えず、黙って足元の砂を爪先で蹴るようにして目をそらす。

  父と母に目をやるも、どうせ言葉を濁されるのは分かっていた。


 空気が重くなったのを感じたアイデンが、わざとらしく笑って言った。


  「まあ、セレナの件はほんの一部だろうな。

 ヨル、最近“意味不明なこと”ばかりが君の周りをぐるぐる回ってる気がしないか?」


 ノックスは眉をひそめ、抑えた声で言い放つ。

  「言いたいことがあるなら、回りくどい言い方はやめてくれ。

 俺は急いでるんだ。」


 視線を(エン)に向ける。

  「一体、何のつもりだ?」


 (エン)は淡々とした声で返す。

  「お前が知りたいことは、ちゃんと話すつもりだ。

 だが今は、それより先にやるべきことがある。」


 そう言うや否や、(エン)は車椅子から立ち上がった。

  ノックスの目が大きく見開かれる。

  父の足元――そこには機械式の義肢が取り付けられ、うっすらと符紋が光を放っていた。


 驚きに固まるノックスに、(エン)はあくまで落ち着いた口調で説明を加える。


  「今日ここへ連れてきたのは、これを試すためだ。」


 (エン)がアイデンに目配せすると、彼はすぐにバッグからタブレットを取り出し、素早く操作を始めた。

  練習場内の各スクリーンが次々と起動し、身体データや符紋エネルギーのグラフが映し出される。


 そして(エン)は、小さなケースを開け、中に並んだ銃器と弾丸を取り出す。

  ノックスの目が鋭く反応する。

  「それは……俺の、符紋課題……?」


「全部で何発作った?」(エン)が短く尋ねる。

  「七発だ。」ノックスは迷わず答える。


 頷いた(エン)は、弾を一発抜き出してアイデンに放り投げた。


  「ちょ、いきなり投げるなって……!」慌ててキャッチするアイデン。


  「まったく、変わらないな。」

 苦笑するアイデンをよそに、炎は残りの弾を手際よく装填し、銃を構えたその姿には、迷いも無駄もなかった。


  ノックスは知らず知らずのうちに息を呑む。

  (……経験の差だ。動きが洗練されすぎてる。)


「五発。」

  (エン)は短く告げ、アイデンに目を向ける。

  「始めてくれ。」


 アイデンがタブレットを操作すると、練習場に赤い警告灯が点灯し、模擬戦闘モードへと切り替わる。

  直後、五体の模擬魔獣が実体投影のように出現。その迫力は本物さながらだった。

 ノックスは魔獣を見つめながらも、視線は次第に父へと戻っていく。


  (エン)は銃を握りしめ、微動だにせず場の中心に立つ。まるで戦場の中心にいた頃のような、威厳に満ちた佇まいだった。


 魔獣の一体が突進してくる。だが(エン)は微動だにせず、的確に銃を構え、撃つ。


  ――轟音。

  衝撃波弾が空中で炸裂し、魔獣の頭部を貫いた光とともに消滅。


 続いて二体目。側面から回り込むように襲いかかってきたが、(エン)はすぐさま対応し、また一発。

  衝撃波が魔獣を吹き飛ばし、光へと還す。


 三体目は正面からの突撃。巨体による圧倒的な質量攻撃――だが、(エン)は怯まず、連続して二発。

  一発で動きを止め、もう一発で完全に粉砕。見事な制圧力。


 最後の二体が左右から挟撃を狙う。(エン)は一瞬だけ位置をズラし、敵同士のラインを重ね合わせると――

  一発の衝撃波で、両者まとめて吹き飛ばした。


 全て終わるまで、一分もかからなかった。

  練習場は静寂を取り戻し、残されたのは微かな振動だけ。


 ノックスはその場に立ち尽くし、拳を握りしめる。


  (これが……父の、本当の実力。)


 彼はただ圧倒されるしかなかった。


  「足が動かない今でさえ、このレベル……。昔の父は一体、どれだけ強かったんだ……」

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