第44話 悪あるところにデッツあり
―――ゼラムス視点―――
……地下東京にある某高級料亭にて、俺はバランドバーンの社長と会っていた。こういう場なので、デッツの幹部としてではなくダンジョン管理庁の長官として。
「がはははっ! ゼラムスさん、いや、今日は千々岩長官でしたな。おかげで我々は大儲けですよ」
恰幅が良い髭面の中年男。バランドバーンの社長、強羅谷遊人は豪快に笑いながらそう言う。
「強羅谷さん、人払いはしてますがどこに聞き耳を立てられているかわからない。あまり大きな声で言わないようにお願いしますよ」
「おっとこれはすいません。しかしまさかダンジョン管理庁の長官がとは、探索者連中は気付いてはいないでしょうな」
「もちろん」
知っている人間はDGでも少数だ。
連中の口は固く閉じさせており、他に知る者はデッツの者だけ。もしも他の人間に知られた場合は速やかに始末をしていた。
「オリハルコンの販売は順調のようですね」
「ええ。値段を上げても売れるもんですから、儲けはうなぎ上りですよ。これも千々岩さんのおかげです」
「いや、これも仕事ですよ」
オリハルコンの採掘に来た探索者を始末する。そしてオリハルコンの採掘はデッツで独占し、それをバランドバーンに売らせて利益を得るという寸法だ。
ダンジョンはダンジョン管理庁の管轄なのでどんな犯罪が起ころうと警察は動けない。俺の権限でこの件は問題無しとしているので、DGも動くことは無い。
「上級探索者は装備の買い替えや修理に必ずオリハルコンを使いますからね。高くてもオリハルコンを買わざるを得ません。なので私どもは儲かってしかたありませんよ」
「それはよかったです」
上級探索者ともなれば、オリハルコンを使った武具は基本中の基本。オリハルコンを使用した武具がどれほど値上がろうが、買わなければ探索者としての生活が成り立たない。希少ゆえ輸入品もほとんどないため、国内で採れるオリハルコンの独占は金になるのだ。
「儲けはいつもの割合いで指定の口座へ振り込ませていただきました。今後とも良しなにお願いいたします」
「ええ、もちろん。……それで、このような場を設けたのはなにか私に会って話すことがあったからでは?」
ダンジョン管理庁の長官とダンジョンの資源を扱う民間業者の社長。知っている人間が見たらどんな邪推をされるかわからないゆえ、よっぽどの理由が無い限り極力、会わないようにしていた。
「はい。本日、お会いしていただいたのは、ひとつお願いがございましてのことで」
「願いですか? それはどのような?」
「実は私ども以外でオリハルコンを今だ販売できている国内企業がありまして」
「それは田島丘鉱業という会社のことですかな?」
「お話が早くて助かります。どうやら田島丘鉱業は我々の知らない秘密の採掘場からオリハルコンを入手しているようでしてな。売り値も高騰前のままにしているので、我々が売るオリハルコンの売り上げをやや妨げております。秘密の採掘場がどこなのかを探ってはいますが、なかなか場所を特定できない状況でして……」
「つまりは我々にその場所を特定してほしいということですな」
「はい。ダンジョン管理庁長官のお力ではなく、もうひとつのほうにお力をお貸しいただければと」
「わかりました」
オリハルコンの販売を国内で完全に独占できれば莫大な金を稼げる。そうなればデッツの資金も潤沢となって活動もより盛んにできるだろう。
「よろしくお願いいたします。謝礼はもちろんお支払いいたしますので」
「お任せください」
田島丘鉱業は普通の企業だ。
荒っぽい連中を使って脅せば容易に場所を聞き出すことはできるだろう。
俺はあまり難しく考えず、呑気に構えて酒を飲んでいた。
―――零乃甚助視点―――
「えっ? 田島丘鉱業の鉱業所までオリハルコンを受け取りにですか?」
オリハルコンの採掘量が減っているという話を聞いた次の日、俺は購入したオリハルコンの受け取りに行ってほしいと雄太郎さんから頼まれていた。
「うむ。品薄で高騰しているところをなんとか田島丘鉱業から安値で購入できての。本来ならば製錬したものを購入するのじゃが、どういうわけか製錬所が田島丘鉱業からの仕事を受けんらしくての。しかたないから原石を買って自分で製錬をしなくてはならんのじゃ」
「そうなんですか? けど、それなら配送してもらえばいいのでは?」
製錬所が仕事を受けない理由は気になる。
それはともかく、原石は送ってもらえばいいのではと思った。
「配送業者に送ってもらう予定だったんじゃが、どうも最近、田島丘鉱業から送られるオリハルコンを狙ってか配送業者が襲撃に遭うそうなんじゃ」
「襲撃って、オリハルコンを狙った窃盗団でしょうか?」
「オリハルコンは奪われておるし、そうじゃろうな。警察も捜査しておるがまだ捕まっていないそうでのう。オリハルコンの配送ができない状態だそうじゃ」
「じゃあバランドバーンも同じような被害に遭っているんですかね?」
「いや、バランドバーンは被害に遭っておらん。被害に遭っているのは田島丘鉱業だけじゃ」
「それってもしかして……」
バランドバーンが窃盗団と関わっているのかも?
証拠もなにもないが、俺はなんとなくそんな気がした。
「高値で売っているバランドバーンからすれば、安値で売っている田島丘鉱業の存在はおもしろくないじゃろう。しかしだからと言って、配送業者を襲撃して窃盗を行うなんてことをするかのう?」
「まあ、考え過ぎですかね?」
「うむ。ライバル企業に強盗をするなんてまさか……」
「デッツの仕業かもしれないよっ!」
「えっ?」
と、そこへ焔ちゃんがやって来て声を上げた。
「もしかしたらバランドバーンはデッツと関わりがあるのかもね」
「そ、それは考えが飛躍し過ぎじゃ……。根拠も無いし」
「悪あるところにデッツあり。根拠はこれで十分だよ」
「ははは……」
可能性がゼロとは言えない。
しかし根拠は無く、断定できる理由はなにもなかった。
……
雄太郎さんから車を借りて田島丘鉱業の鉱業所へ向かう。
「なんか危険が訪れる気がするよ」
と、焔ちゃんもついて来た。
「俺たちは配送業者じゃないから襲われないと思うけど」
「わからないよ。悪の考えることなんて」
「まあね」
襲撃されないとも言えない。
焔ちゃんは期待しているようだが、何事もなければそれに越したことは無い。
やがて鉱業所へとやって来る。
担当者に会って注文書の写しを渡すと、オリハルコンの詰まった箱を車へと運び入れてもらえた。
「これで全部です。一般の車両なので大丈夫だとは思いますが、オリハルコンを狙った襲撃には気を付けてくださいね」
「わかりました。ありがとうございます」
俺はそう言って車の運転席へ戻ろうとした。……そのとき、
「うん? なんだ?」
なにやら黒塗りの車が3台ほどやって来て停車する。
そして中から黒づくめの者たちと、白黒なツートンカラーのスーツを着た大柄な男が降りて来た。
「よう。ちょいとあんたに聞きたいことがあるんだけどね」
「な、なんですか?」
その大柄な男が鉱業所の担当者に詰め寄る。
「田島丘鉱業がダンジョンのどこでオリハルコンを採掘しているか教えろ」
「オ、オリハルコンの採掘場って、なんでそんなことを?」
「教えればいいんだよ」
「知りませんよ。知っていても教える理由はありません」
「おいおい、そいつはかわいくねーな。嘘つきはかわいくねーんだ。かわいいは正義。かわいくないは悪。つまり嘘つきは悪人だぜ」
「なにを言って……」
「理由が必要なら作ってやるよ」
白黒男が振り返る。
すると、黒づくめの者たちが車からバズーカ砲を持ち出して来た。
「な、なにをする気だっ!?」
「教えなければここを跡形もなく吹っ飛ばしてやる。かわいくな」
「知らないと言っているだろうっ!」
「ふん。だったら……」
白黒男が黒づくめたちへ向かって手をかざす。
これはいけない。
どこかで変身して止めなければ。
そう思ったとき、
「お待ちなさいっ!」
高所から声が。
見ると、鉱業所の建物の上に焔ちゃん……シルバーライトが立っていた。




