第43話 おじいちゃんはホムニーにドン引き
「……ふーん。ホムニーして果てたら変身しちゃうんだ?」
「ま、まあそういうことで……」
昨夜は焔ちゃんが考えているようなことは無いとだけ説明し、朝になって居間で詳細を話すことに。詳細を話すと俺が変身していた理由も話さなければならなくなり、なんとも言えない恥ずかしい気持ちになっていた。
「なるほど。たぶんだけど、甚助さんにとってホムニーは戦いと同じだけの興奮を得られるってことじゃないかな? だから変身しちゃうの」
「そうなのかな……」
ベルトを使わない変身には戦いの興奮が必要だ。ホムニーで変身してしまうということは、同じ興奮を得ているということになるのは道理であった。
「ホムニーは戦いだよ。バトルなんだよ。甚助さんは命を懸けるような強い興奮で、真剣にホムニーをしてるんだね」
「いやあのその……」
普通の女子高生なら自分でされてるなんてドン引きして軽蔑しそうなものだが。
「ううん。戦いのときよりも興奮してるみたいだし、甚助さんにとってホムニーはもっとも興奮できるってことか。すごいね」
「ま、まあ……」
むしろ焔ちゃんは嬉しそうだ。
しかしホムニーという名称自体、焔ちゃんが考えたものだし、エッチなことに肯定的でも今さら変に思うこともないんだけど。
「なんじゃホムニーって?」
淹れ立てのコーヒーを手に、こちらへ来た雄太郎さんが聞いてくる。
「ホムニーっていうのはね……」
「いやちょっ!? ホムラちゃんっ!?」
それを雄太郎さんに言うはいかんでしょ!
「うん? どうしたの?」
「そ、それを言うのはちょっと……」
「けどおじいちゃんに言っておいたほうがいいでしょ? 改造人間に関することはなんでもおじいちゃんに知っておいてもらったほうがいいよ」
「まあそれはわかるんだけど……」
「なんじゃなんじゃ? 別になにを聞いても驚かんから言うてみい。わしは科学者じゃぞ? 多少のことでは驚いたりせんわ」
「ほら。だから言っても大丈夫だよ」
「うん……」
雄太郎さんに知っておいてもらったほうがいいというのは一理ある。
恥ずかしいが、話しおくことにした。
「うわー……」
話を聞いた雄太郎さんが俺へ蔑みの視線を向けてくる。
本来、そういう視線は焔ちゃんが向けてこなければいけないと思うのだが。
「驚かないって言ったじゃないですか」
「驚くというより引いておる。わしの孫でなにしとるんじゃお前は」
「ちょっと待っておじいちゃん。甚助さんは健康な男性なんだし、好きな女の子でするのは当然だよ。むしろしないほうがおかしいでしょ」
「そんなの不潔じゃ」
「はあ? なにが不潔だこのハゲっ! 甚助さんみたいな健康な男性にとって自慰行為は普通のことなんだよっ! しないほうがおかしいんだよっ! わかれっ!」
「いやいや不潔じゃもんっ! 自慰行為なんて不潔じゃんっ! いやらしいっ!」
「不潔じゃないしっ! どんどんやるべきだよっ! やらなかったら軽蔑するよむしろっ!」
「やってるほうが軽蔑するじゃろっ!」
「いやいやわからない。自慰行為して軽蔑とかわからないわ。するでしょ? しないってなに? そっちほうが意味わからないし軽蔑するから」
「まあ自慰行為自体はよいとしても、孫でされてるのは引くわ」
「わしの孫で抜いてくれてありがとうくらい言えないのかこのハゲっ! もうね、おじいちゃんがこんな人間とは思わなかった。幻滅した」
「なんでわしが幻滅されるんじゃ……」
がっくりとうな垂れる雄太郎さん。
普通なら男の雄太郎さんが俺を庇いそうなものだが、なぜか焔ちゃんのほうが俺を全力で擁護してくれた。しかし喜んでいいのやらなんやら……。
「甚助さん、気にせずガンガンホムニーしていいからね。わたしが許すから」
「あ、はい」
ありがたいことにホムニーはご本人の推奨である。
「でもさ、わたしで自慰行為して変身しちゃうなら、キスとかでも変身するのかな?」
「えっ?」
「試してみる?」
そう言って焔ちゃんがズイと顔を近づけてくる。
「いやちょっ!? そ、それは……」
「冗談だよ」
ふふと笑って焔ちゃんは顔を離す。
「そ、そうだよね」
「うん。するとしたらもっと良い雰囲気でしたいしね」
「えっ?」
それは俺とキスしてもいいってこと……。
「はあ……。まったくどうしてこんな不潔な子に……。まあそれはともかくとして、戦い以外の興奮でも変身してしまうようじゃからの。町中とかで急に変身してしまわないように気を付けることじゃ」
「は、はい」
まあ町中でホムニーはしないから大丈夫だと思うけど。
「それも重要なことだけどさ、DGの相良がデッツと関わってるっていうのもかなり気になるところだよね」
「あ、うん」
詳しくはわからなかったが、相良はデッツとの関わりを口にしていた。
「DGのエースとも言われてる相良秀がデッツと繋がっているなら、もしかしてDG自体もデッツとの関わりがあるかも」
「けど、ガンジョラが現れたときはDGが討伐に来てたし、DGそのものがデッツと関わってるってのは無いんじゃないかなって俺は思うけど?」
「うん。それもそうなんだけど、ダンジョン管理庁の長官が変わってから、どうもデッツに対するDGの動きが鈍いような気はしてたんだよね。ガンジョラのときは動画で場所を伝えていたから、行かないわけにはいかなかったって感じだし、カニギラスときもアイドルを誘拐されまくってたしね」
「うーん……」
確かにそれを聞くとそんな気もしてくる。
「わたしが攫われたとき、甚助さんが死んだことにされたのも妙に思ってたんだよね。死体が確認されたわけでもないのにさ。あれってたぶんDGがデッツに指示されて、死んだってことにさせたんじゃないかと思うの」
「長官が変わってからそういうことが起こってるってことは、あの千々岩仙石って長官がデッツと関わってるってことなのかな?」
「うん。DG全体というよりも、DGを監督するダンジョン管理庁のトップがデッツと関わっているのかもしれないね」
それが本当なら重大な事実だ。
しかし証拠は無い。知っている情報だけでは、単なる推測でしかなかった。
「ふぅむ。あの千々岩という長官はだいぶ怪しいとはわしも思う。しかし確かな根拠が無いとなんとも言えんのう」
「うん。だからこれからいろいろ調べてみようと思うの」
「あまり無理をしてはいかんぞ。下手をすれば命に関わるからのう」
「わかってるよ。あ、そうだ。シルバーライトのスーツが痛んできたから修理をお願いしたいんだけど」
「それは構わんが……」
「うん? なにか不都合があるの?」
「うむ。シルバーライトのスーツにはオリハルコンを使っておっての。最近はオリハルコンの値段が急騰しておって手に入りづらいんじゃよ」
オリハルコンとはダンジョンでしか採れない貴重な金属だ。鉄よりも丈夫で主に探索者の装備品として加工されるが、生活用品を作る際にも使われている金属である。
「急騰? どうして?」
「単純に採掘量が減っていることが原因じゃな。どこの国でも貴重な金属じゃから輸入もほとんどされていないしのう」
「なんで採掘量が減ったの?」
「聞いた話では、オリハルコン採掘の依頼を出しても探索者が受けないそうじゃな。なんでもオリハルコン採掘に向かった探索者が軒並み、帰って来ないことが多発しているとかで」
「帰って来ない? 魔物にやられちゃってるとか?」
「さあてのう。そうかもしれんが、しかし上級探索者でも殺されるというのは妙な話じゃ」
オリハルコンは確かに貴重な金属だ。入手も簡単とは言えない。しかし雄太郎さんも言った通り、上級探索者でも魔物に邪魔されて入手できないというのは妙に思う。
「じゃあオリハルコンは全然、採掘できてないってこと? ひとつも?」
「いや、バランドバーンというダンジョンの資源を扱う会社はオリハルコンを入手できておるそうじゃ」
「バランドバーン? 聞いたこと無い会社だね」
「起業してからそんなに経っていない新しい会社なようじゃの。独自の仕入れルートがあると話しておるようじゃが、はっきりとはわからん」
「独自の仕入れルートねぇ……」
なにやら焔ちゃんは熟考するような難しい表情をする。
バランドバーンという会社がなにか怪しいと疑っているのかもしれない。
俺もなにか変な気はするが、どういうことかはわからなかった。
「あとは田島丘鉱業という会社も少量じゃが、オリハルコンを採掘できているようじゃな。そこも独自の仕入れルートがあるようじゃ」
「田島丘鉱業は古い会社だね」
「うむ。昔からダンジョンの鉱石を扱っている会社じゃな」
オリハルコンが採掘できているのは新しい会社と古い会社。
この両社にはなにか秘密があるのだろうか?




