第42話 ホムニーの代償
―――相良秀視点――
……例の装備品を纏って闇夜に隠れた俺は、零乃が住んでいる家へとやって来る。
ここはホムラの祖父が住んでいる家らしいが、それはどうでもいいことだ。目的は零乃を見つけ、この注射器を打って昏倒させる。それだけなのだから。
零乃が寝ている部屋はどこだ?
1階の窓から中を確認し、それから2階の窓へ飛び乗って中を覗く。
1階ではホムラの祖父らしい鉄腕のロボットに出てきそうなじじいが寝ていた。
2階ではホムラ。それと別の部屋で布団を頭まで被って寝ている奴がいた。
恐らくこの布団を頭まで被っている奴だろう。
違っていればまた探せばいいと、俺はガムテープを貼ってから窓を殴って割る。そして割れたそこから手を入れ、内側のサムターン錠を回して窓を開いて侵入した。
よく寝ているな。マヌケめ。
俺が部屋に侵入したことに気付かず、寝息を立てて眠っている。この陰キャっぽい部屋の雰囲気からして、こいつが零乃なのはほぼ間違い無いだろう。
俺は懐から注射器をを取り出し、布団の上へと掲げる。
これを刺して中身を注入すれば一瞬で昏倒させることできる。
クズのくせに俺の人生に泥を塗りやがって。
しかしこれで終わりだ。何度か失敗はあったが、最後は俺が勝つ。
選ばれた優秀な人間が最後には勝つよう、世の中はできているのだ。クズのゴミがちょっと力を手に入れたくらいで、それが覆ることは無い。
絶対の勝利を確信しつつ、俺は注射器を振り下ろす。
終わりだ。
デッツで洗脳されて怪人になってしまえ底辺のゴミが。
そして注射の針が布団へ刺さる……が、
ペキン!
「へっ?」
思わず声が出る。
刺さるはずだった注射の針が、布団へ刺した瞬間、折れてしまったのだ。
―――零乃甚助視点―――
……うん?
なにかお腹の部分に触れたような気がする。
完全に眠っていた目を薄っすらと開き、お腹をさすった。
そういえば一瞬だけ人の声も聞こえた気がする。
もしかして泥棒かも?
掛け布団から顔を覗かせ、部屋の中を確認する。
「お、お前っ!?」
誰かの声がした。
驚いた俺は起き上がり、リモコンで部屋の照明をつける。……と 声のした方向には、忍者みたいに全身が黒づくめの男が立っていた。
「ど、泥棒っ?」
俺はベッドから飛び起きて身構える。
泥棒は覆われていない目を見開き、なぜか驚いている様子だった。
「お前、なんで変身した状態で寝てるんだっ?」
「えっ? ああ……」
今の俺は変身状態だ。
仮面ドラゴンブラックになった状態で寝ていた。
「えーっと、それは諸事情があって……」
答えを言えば、ホムニーが原因である。
普通にしてたときはこんなことなかったのに、ホムニーをするようになってからなぜか事後に変身してしまうようになった。
しかも興奮はなかなか冷めず、朝になってようやく戻ることができるのだ。
「と言うかその声、お前、相良か?」
「ちっ、いちいちムカつく奴だっ! しかし零乃、俺には切り札があるんだ。変身した状態のお前でも捕らえることができる切り札をなっ」
「なに? あっ!?」
相良の姿が地面へ溶けるように消えていく。
「なんだ? どこへ……うっ」
急に身体が重たくなったような感覚に陥る。
手足を動かそうとしても微動だにしない。まるで自分では無いなにかに自分の身体を支配されているような感じであった。
「これは……」
「くははっ! どうだ動くことができないだろう?」
どこからか相良の声がする。
しかし姿はどこにも見えない。
「ど、どこにいる?」
「お前のすぐ側だよ。お前の身近に俺はいるんだ。くっくっくっ」
「まさか……」
俺の影。
そこから声が聞こえているようだった。
「気付いたようだな。そうだ。俺はお前の影に入っているんだ。そうして影を支配することで、お前の動きを抑制しているのさ」
「そんなことが……」
できるのかと聞くまでもない。
実際にこうして俺は影を支配されて動けないのだから。
「抵抗しても無駄だ。影を支配されれば、影が動く通りにしか動けない」
「くっ……」
「このままお前をデッツのアジトへと連れて行ってやる。いや、それともお前を操って悪事でも働かせてやろうかな? くっくっくっ」
「デ、デッツだと? どういうことだ相良っ!?」
「そんなことお前が知る必要は無い。ようし。まずはこの建物を破壊してやるか。正義の味方気取りのお前を今日で極悪人に変えてやる」
そう相良が言うと、俺の意思とは関係無く身体が動こうとする。
……しかし俺は全身に力を込めてそれを許さない。
「なにっ? くそっ! 抵抗できるはずは……」
「む、無理やりでも抵抗してやる。お前の思い通りにはさせない……」
身体が動こうとするのを必死にとどめる。
しかしいつまでも続けることはできない。なんとかして相良を影から引きずり出さなければ……。
「そうだ。もしかしたら……」
俺は鉛のように重くなった身体を必死に動かし、枕元へ手を伸ばしてスマホを手に取る。それからカメラ機能をタップし……。
「これでどうだっ!」
影に向かってフラッシュをたく。
「うわっ!?」
瞬間、影が無くなったことで相良が目の前へと現れる。
「しまったっ!」
「この野郎っ!」
ふたたび影に潜む前に相良を捕まえ、着ている黒衣をビリビリに破く。
「な、なにをするんだこの変態野郎っ!」
「なにが変態だっ! 人の部屋に忍び込んでおいてっ!」
パンツ1枚になった相良とベッドの上で揉み合う。……と、そのとき、
「もうなに? こんな夜中にどうしたの……って、あ」
部屋の扉を開き、眠そうな焔ちゃんが入って来る。
その目に映ったのは、変身した俺とパンツ1枚の相良がベッドの上で掴み合っている様子であった。
「あ、察し……」
そして焔ちゃんはパシャリとスマホで写真を撮って部屋から出て行った。
「ちょっ!? 違うんだけどっ! なに察しってっ? 変な勘違いしないでっ!」
「お、おいっ! あいつ写真を撮っていたぞっ! こんな状態の写真をネットにバラまかれたら俺は終わりだっ!」
「俺だって一応、正義の味方をやってるんだっ! 仮面ドラゴンブラック、夜の戦いは男同士の熱いバトルとかネットに書かれたらもう正義のヒーローできないよっ!」
でも焔ちゃんは仮面ドラゴンブラックのファンだしそんなことしない……いや、もしかしたら夜のテンションでおもしろがってSNSとかに上げちゃうかも。
「焔ちゃん待ってーっ!」
相良を窓の外へと放り投げ、俺は慌てて焔ちゃんを追った。




