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第40話 一転、ピンチになる相良

「さ、相良っ」


 どうして相良がここに?


 突然のことに俺は動揺する。


「ひさしぶりだな零乃。いや、仮面ドラゴンブラックと呼んだほうがいいか?」

「な、なんだと? なにを言って……」

「隠す必要は無い。仮面ドラゴンブラックとシルバーライト。お前らの正体は知っているからな」

「……っ」


 なんでこいつが知っているんだ?

 いやでも、DGは警察組織の一部でもある。調べることはできるかもしれないが。


「安心しろ。お前らの正体を言いふらすつもりはない。そんなことをする意味は今のところないからな。目的はこれだ」


 そう言って相良はさっき撮った写真を見せてくる。


「これは……」


 俺と焔ちゃんがラブホの前に並んで立っている写真だった。


「アイドルのホムラが男とラブホへ。これを週刊誌に売ったら大変なことになるだろうなぁ」

「お前……」

「そうされたくなかったら、零乃、俺におとなしく従え」

「俺をどうする気だ?」

「あるべき場所へ戻してやるのさ。くっくっくっ」


 あるべき場所とは一体……。

 こいつの目的がよくわからない。しかしこんな写真を週刊誌へ持っていかれるわけにはいかない。こんな写真が世間に見られたら大変なことに……。


「さあて、答えを聞こうか零乃? 俺に従うか、それとも写真を週刊誌に持って行かれてホムラのアイドル生命を断つか。自分が従わないせいで、仲良しのホムラがアイドル生命を断たれてもいいのか?」

「くっ……」


 答えなど決まっている。

 写真を週刊誌に持って行かれないよう、俺がこいつに従うしか……。


「別に週刊誌へ持って行かれても構わないけど」

「えっ?」


 俺の隣で焔ちゃんが平静な声音で言う。


「な、なんだと? お前、これが世間に出回ったらどうなるかわかってるのか?」

「うん。わたしはアイドルやめることになるかもね」

「それがわかっているなら……」

「別に困らないよ。アイドルやってテレビ局に出入りしてると、たまに政治家とか大企業社長の悪事を耳にできるからやってるだけだし。甚助さんをあんたに従わせて危険な目に遭わせてまで続けようとは思わないよ」

「こ、このっ! はったりだと思っているのか? 俺は本気だぞっ!」

「そうだろうね。まあ目的を持ってアイドルやってるんだし、やめることになって困らないってこともないけど」

「そうだろう。だったら……」

「ならこっちもこれを週刊誌に持って行こうかな」

「なに? え……」


 焔ちゃんが相良へ自分のスマホを見せる。

 そこに映っていたのは……。


「なっ!?」


 どこかの路地裏だろうか。

 そこには相良とさっき喫茶店で俺に声をかけてきた美人局女がいて……。


「あ」


 相良が女を殴り飛ばす。

 そして最後には蹴り飛ばす光景がばっちりと映っていた。


「こ、こんなものどうして……っ」

「さっきの女が美人局だとしたら、男が側で見張ってるだろうと思ってね。それっぽいの探したらあんたがこっちをチラチラ見てるのに気付いたの。それでなにか証拠を掴んで警察に突き出してやろうと思って、ドローンカメラをつけさせたんだ」


 と、焔ちゃんは相良の頭上を指差す。

 そこには本当に小さな、パチンコ玉くらいのなにかが浮いていた。


「おじいちゃんに作ってもらった超小型のドローンカメラ。バッテリーの持ちが悪くて解像度もあんまりよくないから配信では使わないんだけど、追跡には便利なの」

「こ、この女……っ」

「財務大臣をパパに持つDGのエリートが白昼に暴行事件なんてね。確か将来、パパの地盤を引き継いで政治家になるんでしょ? こんなものが出回ったら、将来の選挙に影響が出るんじゃないのかなぁ」

「くっ……」

「わたしはアイドルやめたって構わないよ。けど相良さんは将来を諦められるの? だったらその写真を週刊誌にでもなんでも持って行けばいいじゃない。わたしもこれをネットにバラまいてやるから」

「や、やめろっ! ……わかった。くそっ!」


 相良は忌々し気に俺を睨むと、そのまま走り去って行った。


「やれやれだね」


 そう言いながら焔ちゃんは鞄から新たなサングラスとマスクを取り出してつけた。


「あいつ、なんで俺を……」


 あるべき場所へ戻すとか言っていたが、一体どういうことなのか?

 相良の目的がよくわからなかった。


「それもわかんないけどさ、あの人どうしてわたしたちの正体を知っていたんだろうね?」

「DGだし、調べたんじゃないのかな?」

「うーん……。結構、気を付けてるんだけどねぇ。てかさ、甚助さんって死んだことになってるのに調べられるのかな?」

「ど、どうだろう?」


 そういえばあいつ、俺が生きていたことも別に驚いてはいなかったな。

 なんかいろいろと引っ掛かる……。


「けどさすが焔ちゃんだね。悪を許さない正義の気持ちが強いと言うか、まさか美人局のパートナーを警察に突き出そうと探してるなんて思っていなかったよ」

「ふふん。正義の味方は変身していなくても正義の味方だからね。悪を見つけたら放っては置けないのだよ」


 と、焔ちゃんは腰に両手を当て、えっへんという感じに言った。


「あ、それじゃあ……休憩はしていくの?」

「えっ? い、いや、なんかお腹空いてきたし、ご飯食べに行こうか」

「うんっ。じゃあそうしようっ」

「わっ?」


 焔ちゃんがふたたび俺の腕を胸に抱く。

 手でツンツンしたりしなくても、これだけで俺はもうお腹いっぱいであった。



 ―――相良秀視点―――



「くそっ、あの女……っ」


 まさか路地裏でのことが撮られていたなんて……。

 想像もしていなかったミスに怒りが湧く。


「他になにか方法は……。けど、あの動画があるのはまずいな」


 下手に手を出せばあの動画がネットにバラまかれて俺は終わりだ。

 輝かしい未来が潰れてしまう可能性もあった。


「くそがっ!」


 自分の車に乗った俺は、ふたたび毒づいた。


「……ゼラムスに相談してみるか」


 零乃を捕らえるにはもっと卑劣な手段が必要だ。

 品行方正な頭脳を持つ俺では、これ以上の卑劣な方法は思いつけないが、デッツの幹部であるあの男ならばなにか良い考えを思いつくかもしれない。


 そう考えた俺は車を発車させ、ダンジョンにあるデッツのアジトへと向かう。


 車に乗ったままダンジョン内へと入り、下層へと進む。

 隠し通路を通り、やがてゼラムスが管理するデッツのアジトへとつく。


「千々岩」

「ここでその名は呼ぶなと……うん? なんだ相良か。なんの用だ?」


 執務室に入ると、苛立たしそうなゼラムスの姿が目に入る。


「機嫌が悪そうだな」

「仮面ドラゴンブラックの捕獲が遅れている。良いわけがない」

「そうか」


 こいつも零乃の捕獲には手を焼いている。

 そのことでギューイザルに詰められて機嫌が悪いのだろう。


「俺も奴を捕獲してやろうと思ってな。変身する前を狙ったんだが、どうもうまくいかない。なかなか難しいものだ」

「変身前を狙うか。良い考えだ。そんな卑劣な方法は考え付かなかったぞ」

「……」

「なら良いものがある」


 と、ゼラムスは電話で部下を呼ぶ。

 数分ほどして、その部下がなにかの装備品を持って来た。


「なんだこれは?」


 真っ黒い全身タイツのようなものだが……。


「シャドウという魔物を使って、我がデッツで開発した装備品だ。これを着ることで闇に潜むことができるようになる」

「闇に潜む?」

「明かりの無い場所ならば姿が消せるということだ」

「ということは、これを着れば気取られずに近づくことができるということか」

「そうだ。これを着て近づけば容易に殺傷が可能になる。変身状態の仮面ドラゴンブラックが相手では気取られずに近づいても捕獲は難しいが、変身前ならば気付かれずに近づいて昏倒させることができるだろう」

「これはいいな」


 これを使えば零乃を捕獲できる。


「しかし日の光のような強い明かりを浴びると姿が現れてしまう。使うならば夜にすることだな」

「ああ」


 零乃がどこに住んでいるかは知っている。

 深夜に部屋へ忍び込み、寝ている奴へ注射を打ち込んで昏倒させてやろう。


「あと、その装備品にはもうひとつ使い方がある。それは……」

「……わかった」


 もうひとつの使い方を聞いた俺はニヤリと笑う。


 ここへ来たことで想定以上の収穫があった。

 俺はゼラムスに報酬を用意しておけと言い残し、装備品を持ってアジトを出た。

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