第39話 ホテルへ連れ込まれそうになる
―――相良秀視点―――
「使えない女だっ!」
路地裏で会った女を俺は殴りつける。
殴られた女は地面へとへたり込み、俯いて許しを請うていた。
「ご、ごめんなさい。今度はうまくやるから……」
「もういい。お前とは終わりだ。もう会うことも無い。連絡もしてくるな」
「ちょ、ちょっと待って秀さんっ! お願いだからっ!」
「離せ。使えない女に用はない」
「あう……」
すがりついてくる女を蹴飛ばし、俺はその場から離れた。
クソっ。零乃め。
まさかあいつにあんな若そうな女がいたとは。
……いや、顔は隠していたが、あの背格好は恐らくシルバーライトの正体である銀灯焔だろう。嫌なタイミングで現れたものだ。
あれほどの女が零乃に惚れるなんてあり得ない。
デートとかではなく、きっとなにか別の目的があって待ち合わせていたのだろう。
しかし零乃の奴、非モテのくせに女の誘いを断るとは。
想定外のことをしてくれてまったく不愉快だった。
「さて、銀灯焔が一緒となると面倒だな」
女が一緒では他の女に誘い出させるのも難しい。
どうしたものか……。
「いや待てよ」
アイドルのホムラが男と一緒にいる。
この状況をうまく使うことはできないか?
「様子を見た限りでは、零乃とホムラはかなり仲が良い様子……。もしもホムラに不利益なことあれば、零乃は従うかもしれない」
俺は零乃を捕獲する次の方法を考えつつ、帽子をかぶり直して2人のあとを追った。
―――零乃甚助視点―――
焔ちゃんに腕を引かれながら俺は歩道を歩く。
腕はしっかりとたわわなお胸に挟まれており、もう興奮でヘロヘロだった。
「早く早く。映画始まっちゃうよ」
「う、うん」
道行く人たちがみんな振り返って俺たちを見ている。
当然だ。マスクとサングラスで顔を隠していたって、焔ちゃんはどう見ても女子高生な若い女の子。対して俺はほぼおっさんだ。そんな2人が恋人同士のように歩いていたら気になりもするだろう。
「ほ、焔ちゃん、みんな見てるよ?」
「だから? 顔は隠してるし、誰もわたしだって気付きはしないよ」
「そういうことじゃなくて……」
しかし焔ちゃんは周囲の視線など気にせず歩いて行く。
やがて映画館へと辿りついた。
なんの映画を見るんだろう?
女の子だしやっぱ恋愛映画……いや、焔ちゃんだしヒーローもののアニメとかアクションものの洋画かも。
「これ見たかったの」
「え……」
焔ちゃんが指差した映画の看板はホラー映画だった。
「ホ、ホラー映画?」
「うん。ダンジョンで迷った探索者が、次々に奇怪な殺され方をして死んでいくっていうやつなの。おもしろそうでしょ?」
「おもしろそうだけど……。俺ホラーって苦手で」
「男の人がなに言ってるの。ほら行こう」
「あ、うん」
しかたないと、俺は焔ちゃんに引かれて行った。
……映画は想像以上に怖かった。
焔ちゃんも怖がっているかと思いきや、隣で楽しそうにしていた。
「わあ、甚助さんほら、血がドバーって」
「いや俺、ああいうの苦手で……」
もう内臓とか飛び出てんじゃん。
俺こういうグロいのダメなんだよなぁ。
しかし焔ちゃんは楽しそうであった。
……映画が終わって外へ出る。
後半はグロいシーンの連続で俺はげっそりした心地であった。
「おもしろかったねー」
「そ、そう」
しかし焔ちゃんのほうはむしろ生き生きとした表情であった。
「最初に殺された女の首が、最後に殺された男の腹から出てくるシーンとかすごかったよねー。なんかこう、首が腸でぐるぐる巻きに……」
「うう……やめてやめて。思い出したら気持ち悪くなってきた」
ああいうグロい映画ってどういう人が楽しんで見るのだろうとずっと疑問に思ってきたが、まさかこんなかわいい子がだったとは。
事実とは想定を超えるものである。
「なんだ、甚助さん男なのに情けないなぁ」
「男女関係無いと思うけど……」
「そうかな? あ、お腹空いたしなにか食べに行こ。焼肉とか」
「に、肉っ? いやもう今は食べ物が喉を通るような気がしないよ。食べる前にどこかでちょっと休みたいかも……」
「休みたいの? しょーがないなぁ。じゃあこっち」
「あ、うん」
腕を引かれた俺はそのまま焔ちゃんへついて行く。
それからやって来たのは……。
「こ、ここはっ!?」
人通りの多い繁華街から横道へ入ると、なにやら怪しい雰囲気の建物が増えてくる。風俗店、あとはラブホなどが立ち並んでいた。
「ほらここ、休憩ってあるよ。ここに入ろうよ」
「いやいやっ! ここの休憩はそういう意味の休憩じゃないからっ! 休憩どころかむしろ激しい運動するところだからねここはっ!」
「それくらい知ってるよ。けど休憩もできるでしょ。だからほら」
「ダメだって焔ちゃんっ! 高校生がおじさんと入るようなところじゃないからっ!」
「入ったらわたしになにかしちゃう?」
「えっ? い、いや、しないよっ。なにも……」
「けどしたいんでしょ?」
俺の腕を抱きつつ、上目づかいで焔ちゃんはそんなことを聞いてくる。
そりゃしたい。
したいけど、そんな簡単なことじゃ……と言うか、焔ちゃんは俺をからかっているのだろう。真剣に考えるようなことでもない気がする。
「まあ、ちょっと触るくらいなら……いいかも?」
「ええっ!?」
ちょっと触るくらい?
どこを? と、俺はほぼ無意識に大きなおっぱいを見下ろしてしまう。
「ここはまだちょっと早いよ」
「えっ? あ、ご、ごめんっ。そんなつもりじゃ……」
「でも横のところツンツンするくらいなら」
横をツンツンっ!? いいのっ!?
い、いやこれは冗談だ。からかわれているだけだ。
「焔ちゃん、冗談はそれくらいにしてよ。ははは」
「わたし冗談なんて言ってないけど?」
「えっ?」
「本気でちょっと触らせてあげてもいいかなって思ってる」
「……」
……マジで? そ、それなら。
い、いやダメだ。そんなこと……。
「焔ちゃん、その、もっと自分を大切にしなきゃダメだよ。君はとても素敵な女性なんだし、俺みたいな男に身体を触らせるなんてこと……」
「わたしは自分を大切にしてるよ。甚助さんだからいいかなって思ってるの。他の人は絶対にダメ。裸だって、見られたのが甚助さんだったから平気なの」
「どうして俺なんか……。俺なんて普通でつまらない男だよ。そんな男にエッチなことされたら嫌な気分になりそうだけど」
「それがならないの。どうしてだと思う?」
「お、お父さんみたいな風に思ってるから……とか?」
「お父さんにエッチなことされても平気なんてことないでしょ」
「まあそれもそうか……」
「わからない?」
「うん……」
「わたしもよくわからない」
「えっ?」
「けど、甚助さんにはエッチなことされてもいいって思えるの。甚助さんはわたしのことをすごく大切に思ってくれているし、たぶんわたし甚助さんのこと……」
焔ちゃんがなにか言いかけたそのとき……
「あっ!?」
側を歩いていた男がものすごい速さで焔ちゃんのサングラスとマスクを剥ぎ取る。そしてスマホで撮影をしてきた。
「な、なにを……あっ、お前は……」
深く被った帽子を脱いだ男の顔を見て俺は目を見開く。現れた顔はかつての同級生であるDGの相良秀であった。




