第34話 正義の味方VS大正義?
通路を慎重に進む。
やがて広い場所へと出て……。
「これは……」
広大な空間になんらかの建設現場があった。
「たぶんデッツのアジトを作っているんだろうね」
6割くらいは完成してそうな建物を前に焔ちゃんは言う。
俺も焔ちゃんの考えに同意だ。
さっき怪人がここへ来たというのがその証左だろう。
――こんなアジト作ってたなんてなぁ
――しかしこんなでかい建物作る資金力が謎やね
――どこで金作ってるんだろ?
――悪の組織だし、建設資材とか盗んでるんじゃない?
――デッツに建設資材が盗まれたなんてニュース聞いたことないぞ
――資材だけあっても、作業員を雇わないと建設できないだろ
……デッツがどうやって建設資材を手に入れているかはわからない。
なんらかの手段で金を稼いで買っているのかもしれないし、盗んでいるのかもしれない。どちらかはわからないが、しかし建設をする作業員に関してならわかった。
「ねえ、作業してる人たちってもしかして攫われた探索者じゃない?」
「たぶんね」
アジトの建設現場では探索者らしい格好をした人たちが、デッツの戦闘員に見張られながら作業をしている。
彼らを攫ったのはここで作業員として働かせるためだったのだろう。
「しっかり働けーっ! 逆らえば首輪の爆弾を爆発させるぞーっ!」
戦闘員のひとりがそんなことを叫ぶ。
「首に爆弾をつけられているのか」
不用意に動いて助けようとすれば、探索者たちを危険に晒してしまう。
攫われた人たちを見つけたのはいいが、そう簡単に救出はできそうもなかった。
「こ、このアジトが完成したら俺たちは帰れるんだろうな?」
「なにを馬鹿なことを。帰すわけはないだろう。しかし喜べ。アジトが完成したのち、お前たちは改造人間の実験体としてデッツに貢献できるのだからな。はっはっはっ!」
……まったくひどい連中だ。
まさに悪の組織であった。
――どうするん?
――てか動画配信してるし、いずれバレるぞ
そうだ。
焦ってはいけないが、あんまりのんびりも……。
――すでにバレているぎゅらー!
「!?」
不穏なコメントを目にした俺は周囲に首を巡らす。と、
「ぎゅらーっ!」
「うわっ!?」
地面から地獄アントが飛び出し、俺は焔ちゃんを抱いて飛び退いた。
「貴様らが追って来ていることなどお見通しよっ! 誘き出されたことも知らないでノコノコと追って来て馬鹿な奴らぎゅらーっ!」
「くそ……っ」
まんまと罠に嵌められたということか。
「ぎゅらぎゅら。俺様が一言、指示を出せばここに捕らわれている探索者どもの首輪は一斉に爆発する。そうされたくなければおとなしくするぎゅら」
「……っ」
これではなにもできない。
なにか打開策は無いか?
焔ちゃんのほうを見るも、首を横に振られてしまう。
――おいおいこれはマズいぜ
――正義の味方ならなんとかするやろ
――正義は勝つ
――特撮ならなんらかのことが起きてなんとかなるんだけど
――ここからどうやってなんとかなるんだよ?
――わからん
――誰か助けに来るとか?
――そんな都合良いこと起きないだろ……
――シルバーライトちゃんだけは助けて
――おっさんの心配もしろ
「ぎゅらぎゅら。無駄な足掻きはしないことだ。どうあってもここからの逆転は無理。まあ、お前らが探索者どもを見捨てるって言うなら別だがな。しかし正義のヒーローのお前らにそんなことはできないだろうがなーっ! ぎゅらぎゅらーっ!」
勝ち誇った地獄アントが下品に笑う。
万事休すか……。
「はあぁぁぁ……」
そのとき大阪1号が大きなため息を吐く。
「これでわかったやろー? これがジャイアンツファンなんや。卑怯で汚い。勝てばそれでいい。それがジャイアンツファンなんや。こんなんに応援されるジャイアンツも卑怯で汚いんやろなぁ」
「な、なんだとっ?」
大阪1号の言葉に地獄アントの目つきが鋭くなる。
「ジャイアンツは正義ぎゅらっ! 正義のファンもまた正義っ! 卑怯で汚いなんてことは絶対に無いぎゅらーっ!」
「言ってることとやってることちゃうやん。自分、今なにやってるかわかってるんか? 人質取って勝つとか最低に卑怯やん。動画見てるみなさん、どない思います? こいつむっちゃ卑怯者ですよね?」
――まあ卑怯
――大正義どころか大悪党だな
――お前もうジャイアンツファン降りろ
――ジャイアンツファンの恥
――永久に卑劣です
――お前のせいで今日の試合は負けた
――ジャンパイアは真実だった?
――優勝逃したらお前のせい
「ぐ、ぐぬぬ……」
地獄アントの表情が悔しそうに歪む。
「まあこれがジャイアンツファンの本性や。ファンがこない卑怯者っちゅうことは、チームも卑怯なんやろな。やっぱ大正義はタイガースや。今年も大正義タイガースが卑怯なチームを倒すでー」
「だ、黙れっ! 大正義は唯一ジャイアンツのみぎゅらっ!」
「人質取って勝とうとする卑怯者のジャイアンツファンがなんか言うとるな」
「卑怯者じゃないぎゅらーっ! いいだろうっ! 大正義ジャイアンツのファンとして、人質なんか使わずに正々堂々、戦ってやるぎゅらっ! 来いこの野郎っ!」
……なんとかなったのか? もしかして?
「ほ、本当か? 首輪を爆破しないんだな?」
「大正義ジャイアンツは常に正々堂々と戦って勝つぎゅらっ! ならばそのファンも正々堂々と戦わなければファンを名乗れないぎゅらーっ! おうお前らっ! 探索者どもにつけた首輪をはずせぎゅらっ!」
「えっ? し、しかし地獄アント様……ぎゃーっ!!?」
口答えをしようとした戦闘員が地面へ飲み込まれて行く。
「逆らう奴はタイガースファンぎゅらっ! 早くしろーっ!」
「は、ははっ!」
戦闘員たちが慌てて探索者たちの首輪をはずす。
「これで人質はいないぎゅらっ! 大正義はジャイアンツのみっ! 正々堂々1対1で戦ってお前を倒してやるぎゅらっ!」
「そ、そうか」
悪の組織の怪人になってる時点で正義もクソもないと思うのだが……。
「ぎゅらぎゅら。正義は勝つ。つまり大正義ジャイアンツのファンである俺様が貴様に負けるわけはないのだーっ! ぎゅらぎゅらぎゅらーっ!」
「むっ」
地獄アントが地面を液体化して地中へと沈む。
「また俺を地中へ引きずり込む気か?」
そうされてもさっきのように回転して抜け出すだけだ。
「おっ」
予想通り俺の立つ地面も液体化し、伸びて来た腕によって地中へ引きずり込まれる。
こんなことをしても無駄だ。
さっきと同じように……。
しかし身体が動かない。
液体化していた地面が固まり、身動きが取れなくなる。




