第33話 逃げる地獄アントを追う
なんだどうなってる?
俺は怪人が立っていた場所を調べる。
……固い地面だ。穴らしいものは無い。
「一体どうやって……?」
――消えた?
――なんか落ちるように消えたな
しかし逃げたのではないだろう。
まだどこかに……。
「あっ!? ドラゴンブラックさんっ! 足元っ!」
「えっ? うあっ!?」
両足を掴まれ、一瞬で地面へと引きずり込まれる。
「なんだ……これはっ!?」
地面がまるで水のように柔らかい。
水面から水中に引きずり込まれるような感覚であった。
「ぎゅらーっ! 俺様は地面を水のように柔らかくしたり固くしたりできるのだっ! いくらブラックドラゴンの力を持つ貴様でも、液体と化した地面の中では満足に動くことはできないだろうっ!」
俺の足を掴んで液体と化した地中を泳ぎながら地獄アントは言う。
真っ暗でなにも見えない。
確かにこれでは満足に戦うことはできそうもないが……。
――おいおいどうなった?
――地面に引きずり込まれてそのまま出て来ないぞ?
――ついに仮面ドラゴンブラックが倒されたか?
――とうとうおっさんを見なくて済むようになるのか
――シルバーライトちゃんだけのチャンネルが帰って来るぞー!
――これですっきり
――お前らひど過ぎw
ひどい言われようだ。
ひとりぐらいがんばれって言ってくれても……。
『仮面ドラゴンブラック負けないでっ! がんばれっ!』
「!?」
そんな言葉が心に響いてきような気がする。
そうだ。俺は負けるわけにはいかない。
俺が怪人に負けたらこいつに攫われる被害者はますます増える。それになにより、俺が負けることで焔ちゃんを危険に晒す。それだけはダメだ。
「うおおおおっ!!!」
「な、なにぃっ!?」
俺は身体を捻り、横に高速で回転をする。
そしてドリルのようになった俺は、両手をバタつかせて勢い良く地中から飛び出た。
「ぎゅらーっ!」
足を掴んでいた地獄アントは弾き飛ばされ、地面を転がった。
――うおお! なんか回転しながら出て来たぞ!
――新必殺技か?
――おっさんしぶといなぁ
「ここまでだな地獄アント。この場でとどめを……」
「……待って」
背後から声をかけてきた焔ちゃんは、こちらに背を向けて転がっている地獄アントに向けてなにか小さなものを投げた。
「ぎゅらぎゅら……。な、なんて奴だ。しかたない。ここは一旦、引かせてもらうぎゅらーっ!」
「あっ!?」
地獄アントがふたたび地面に沈む。
「あんな奴、逃がしたらあかんっ! 虎の敵は人類の敵やっ!」
「お、おう」
虎の敵が人類の敵かはともかく、奴を逃がすわけにはいかない。
しかし追いかけようとする俺の肩を焔ちゃんが掴んだ。
「シルバーライトちゃん?」
「今は倒しちゃダメ。今あいつを倒しちゃったら、攫われた人たちの居場所がわからなくなっちゃうでしょ?」
「でも、奴がどこへ行ったかは……」
「大丈夫だから」
と、焔ちゃんはウインクをして見せた。
……なるほど。
納得した俺は崩れた瓦礫をどかし、焔ちゃんとともに地獄アントを追った。
……
地獄アントが逃げる直前、焔ちゃんは発信機を投げて奴の背中につけた。
それを辿って行けば、奴がどこへ逃げたかわかるということだ。
――逃がしちゃった?
――地中に逃げられちゃどこに行ったかわからないな
これはライブ配信されているので、発信機がついているとは言えない。奴らが配信を見ていたら、発信機をつけたとバレてしまう。
なので発信機については言わず、バレる前にと急いで奴が逃げた先へ向かった。
……ダンジョンの階層を何度か下り、やがて俺たちは行き止まりへと着く。
――また行き止まり?
――完全に逃がしたっぽいな
――よくわからんけどおっさんが悪い
――おっさんが悪い
――おっさんなのが悪い
――おっさんは悪い
俺が……いや、おっさんがなにをしてと言うのだ。
と言うか、そんなにおっさんじゃねーっての。
「行き止まりみたいだけど、どうしようか?」
怪人の姿も無い。
しかし発信機の反応はこの先となっていた。
「うーん……。あっ」
「どうかした?」
「ここ見て」
「うん? あっ」
よく見ると岩壁に不自然な溝が……。
「この溝を辿ると……人ひとりが通れるくらいの長方形になるよ。ドラゴンブラックさん」
「うん」
俺は溝で囲まれた岩壁を押す。
「お」
壁を奥へと押し込む。
と、その先に通路が現れた。
――おお、隠し通路か
――そんなところに
――先になにがあるんだろ?
「はーうまいこと隠したもんやなぁ。この先に誘拐された連中がおるんかな?」
「たぶんね。さ、行くよ。ドラゴンブラックさん、大阪1号君」
「大阪1号呼ぶな言うとるやろ。まったく最近の子のセンスどないなっとんねん」
ぶつぶつ文句を言う大阪1号を連れ、俺たちは隠し通路の奥へと進んだ。




