第32話 怪人と喧嘩を始めるバイク
大阪1号に2人で乗ってダンジョンを走る。
配信はすでに始まっており、耳のヘッドホンからはコメント欄の音声が流れていた。
――今日も緊急ライブ配信
――ってことは、事件解決に向けてなにか掴んだ?
――うおお! シルバーライトちゃんと2人乗りうらやましい!
――巨乳が背中で潰れてるぅぅぅ!
――おっさんさぁ……
――おっさんに死を
コメント欄は探索者が地面に飲み込まれる事件の解決を楽しみというものと、俺への罵倒の2種類が流れていた。
「シ、シルバーライトちゃん、胸をそんなに押し付けるのは……」
「しっかり抱きつかなきゃあぶないでしょ」
と、焔ちゃんはこれでもかというほど背中へぎゅっと抱きつき、大き過ぎるおっぱいを押し付けてくる。
「うひょおっ!?」
ふわふわな感触!
それを背中に感じた俺は、もはや自分がどこへなにをしに向かっているのか忘れてしまう。このままずっと焔ちゃんとバイクに乗っていたいなぁ……なんて考えていると、やがて目的地へと到着した。
「あ、こっちこっちっ」
先日、仲間が目の前で地面に飲み込まれたと慌てて俺の前に現れた探索者の男性がこちらへ向かって手を振っていた。
「DM見ました。被害者が捕まっている場所はこの辺ですか?」
「ここからそう遠くはありません。こっちです」
俺と焔ちゃんはバイクから降りて男性のあとをついて行く。
「地面に引きずり込む奴なんてどうやって倒すんや? 地面の中を泳いで捕まえるんか? オリンピック選手もびっくりやでそんなん」
「なんとかなるだろ。……たぶん」
どうやって人間を地面に引きずり込んでいるのかわからないので、対処方法を考えようがない。最悪、本当に地中を泳ぐことになるかも……。
「大丈夫だよ。仮面ドラゴンブラックさんは無敵のスーパーヒーローだからね。地面の中でもスイスイ泳げちゃうし」
「いや、それは無理だと……」
モグラじゃないんだから。
――地面の中を泳ぐというパワーワード
――できそう
――地中は泳ぐところじゃないです……
――泳げおっさん君
――おっさんなら誰しもが社会の荒波を泳いでいるんだよ
――だれうまw
「これもうフリやで。地中を泳がな終われんやろ」
「泳げるわけないだろ。普通に考えて」
「やれる! やれる! できる! できる! 仮面ドラゴンブラックさんなら地中を泳ぐくらいできる!」
「無理だって」
「やれやー! フリ潰すなんて芸人として最低やぞ!」
「芸人ちゃうわボケ」
大阪1号にツッコミを入れつつ、俺たちは探索者の男性について行く。
それから10分ほど歩き、やがて男性の足が止まった。
「うん? ここですか?」
単なる行き止まりだ。人の姿などまったく見えないが……。
ガラガラドシャーン!
「なっ!?」
背後の天井が崩れ、俺たちの通って来た道が塞がれてしまう。
「わっ!? びっくりしたー」
――なんだなんだ?
――なんで崩れた?
――閉じ込められた?
「なんやワイらが通ってすぐなんて、ずいぶんタイミング良く崩れたもんやな。まるで仕込みでもされていたみたいや」
「仕込みって……まさかっ」
デッツの仕掛けた罠か?
俺は周囲を警戒する。
……しかし敵らしい姿はどこにもない。ここにいるのは俺と焔ちゃん、大阪1号。あとはここに俺たちを連れて来た探索者の男性だけだが……。
「……ぎゅらぎゅらぎゅら」
「っ!?」
不意に探索者の男性が妙な声で笑う。
「まさか……お前はっ!?」
「罠にかかったな仮面ドラゴンブラックっ!」
男の姿が変化をしていく。
そして現れたのは、口からハサミのような歯を伸ばした怪人であった。
「ぎゅらぎゅらーっ! 俺様の名前は地獄アントっ! 仮面ドラゴンブラックっ! 貴様はこの俺様の手で捕えてやるのだーっ!」
――うお!? 怪人!
――蟻地獄みたい見た目してんな
――30階層あたりに出るアントキラーの遺伝子を持った怪人かな?
――穴掘って獲物がかかるのを待つ魔物な
――でも30階層って砂地だったよな? この階層の地面じゃ穴は掘れなそう
――ここじゃ満足に戦えないのでは?
アントキラーは砂地でこそ真価を発揮する魔物とコメントでは言われている。しかしそれは魔物のことだ。怪人となれば変わってくるのかもしれない……。そうでなければ俺たちをここで罠に嵌めたりはしないだろう。
「おとなしく捕まったほうがいいぞ。貴様を捕まえるためなら、手酷く痛めつけてもいいと言われているからな。ぎゅらぎゅら」
「あんまエグイ描写あると、動画的にまずいやろー。これライブやからモザイク入れることできんのやで」
「大丈夫! 仮面ドラゴンブラックさんは最強だから、傷なんかひとつも負わないで敵を倒せるし、むしろスーパーパワーであいつを八つ裂きにしちゃうから!」
「いや、敵さんがエグくやられても動画的にNGやろ……」
フンフンと鼻息荒く言う焔ちゃん。それを宥めるように大阪1号がツッコミを入れていた。
「俺様がやられることなど無いから安心しろぎゅら。クソダサ虎柄バイク」
「ああん?」
虎柄をダサいと言われて腹を立てたのか、大阪1号が低い声を上げて地獄アントのほうを睨む。
「お前、今なんて言うた? 虎柄がダサい? 世界一格好良いタイガースカラーをクソダサ言うたんかお前?」
「なにがタイガースだ。野球は大正義ジャイアンツぎゅら。虎柄なんてダサいカラーリングはやめて、ジャイアンツカラーにするぎゅらーっ!」
「お前ちょっとこっちきーや。しばいたるわ。なにがジャイアンツや? あんなもん応援しとるのは野球素人や。通はタイガースを応援するんやアホンダラが」
「タイガースファンなんてひねくれもんばかりぎゅら。ジャイアンツこそ野球の正道。野球と言ったらジャイアンツぎゅらーっ!」
「なんやとコラ?」
「なんだぎゅら?」
ヒーローを差し置いて、相棒のバイクが怪人と一触即発な雰囲気で睨み合う。
どうやらこの怪人はジャイアンツファンのようだ。
熱烈なタイガースファンの大阪1号とはひどく相性が悪い。
「おい、今はそんな話どうでもいいだろ」
「どうでもよくないわボケ。タイガースが馬鹿にされたっちゅうことはお前、関西が馬鹿にされたってことやぞ。黙っとれんわ」
「いや、それは話が大き過ぎるだろ……」
関西の人全員がタイガースファンでは無いだろうし。
――虎を愛し過ぎやろこのバイク……
――関西人みんながタイガース好きなわけではないです
――タイガースファンとジャイアンツファンは相容れない運命
「そ、それはともかく、お前が探索者を地面に飲み込んで攫った犯人なのか?」
「その通りぎゅらーっ! お前も今すぐ同じ目に遭わせてやるっ! ぎゅーらぎゅらぎゅらーっ!」
「なっ!?」
地獄アントと名乗った怪人が、まるで落下するようにストンと地面に飲み込まれた。




