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第35話 硬い地面も泳いでしまう

 地面を固められてしまったのか?


 どうやらそのようで、固い地中に閉じ込められてしまったようだ。


 地中の中ではなにも聞こえない。そしてなにも見えない。

 唯一、ヘッドホンから動画のコメントだけは聞こえた。



 ――ぎゅらー! 俺様は地面を液体まで柔らかくすることもできるが、鉄のように硬くすることもできるのだ! そのまま切り出して捕獲してやるぎゅらー!



 ……わざわざコメント欄に書き込んで伝えて来るとは丁寧な怪人だ。

 だがこのまま捕獲されるわけにはいかない。


「うおおおおっ!!!」


 俺は全身に力を込め、固い地中を破壊しつつ前へと腕を伸ばす。

 そして足もバタつかせ、泳ぐように固い地面を掘り進んだ。


「むっ」


 なにやら前方に気配が。


 そこへ向かって全力で掘り進む。……と、


「ぎゅらーっ!?」


 スマホを操作する地獄アントを見つける。


「な、なんだとっ!? この固い地面を掘り進んできたというのかぎゅらー!?」

「これで終わりだっ!」


 逃げようとする地獄アントを捕まえる。

 そしてそのままドリルのように回転して地表へ飛び出し、地獄アントの身体を空中へと放り……。


「すー……ジャ、ジャスティスドラゴンファイヤーっ!」

「ぎゅらーっ! お、俺が死んでもジャイアンツは永久に不滅ぎゅらーっ!」


 吐き出された炎に包まれ、地獄アントは消え去った。



 ――やったか


 ――今回もなんとか勝てたな


 ――怪人が筋金入りのジャイアンツファンじゃなければやばかった


 ――今回はバイクに助けられたな【赤スパ1万円】


 ――今日のヒーローはバイク



「はあ……」


 地面に着地した俺は、なんとか勝てたとホッとする。


「やったね仮面ドラゴンブラックさんっ」

「う、うん」


 焔ちゃんが俺の腕を抱いてニッコリ笑う。


 しかしコメント欄にあったように、今回は大阪1号が奴を煽ってくれなければあぶなかった。ガンジョラのときもそうだったが、デッツは俺の強さを知っているので正面から戦おうとはしない。今後の戦いも気をつけねばならないだろう。


「大阪1号君もありがとう。今日のヒーローは大阪1号君でーす。動画を見ている視聴者さんに向けてなにかコメントをどうぞー」

「うんまあ、いわゆるひとつのメイクミラクルですかね」

「なんでタイガースファンなのに長嶋のコメントやねん」


 と、俺はツッコミを入れた。



 ――草


 ――実はこいつジャイアンツ好きやろ


 ――今日の試合はタイガース勝ちそう


 ――タイガース優勝や!



「……さて」


 野球の試合はともかくと、俺は戦闘員たちを睨む。


「やるか?」

「ひーっ!?」


 俺が一言そう言う、戦闘員たちは脱兎の如く逃げ出して行った。


 それから探索者たちを解放し、建設中のアジトを破壊して俺たちは今日の配信を終えた。



 ……



 家に帰った俺は安心からか、疲れがドッと出て落ちるようにソファーへ腰を下ろす。


「今日も大勝利だったね」

「うん……」


 焔ちゃんは大喜びだが、俺は素直に喜べない。


 今日の勝利はたまたまだ。

 負けていても不思議は無かった。


 デッツは甘くない。これからも俺を捕まえようと考えうる限りの卑怯な手を使って襲い掛かって来るだろう。

 俺はブラックドラゴンの強さに驕って奴らを舐めていた。

 どんな怪人を送って来ても恐れることは無いとどこかで奴らを舐めていたんだ。


 これからはもっと慎重に戦う。

 奴らを決して侮り舐めたりしない。


 俺はそれを肝に命じた。


「焔ちゃん、今度からデッツとはもっと慎重に戦おう。やつらはやっぱり危険だ。今日みたいにいつも勝てるとは限らない」

「それは……うん。わたしも今日はちょっと反省した。どこかでデッツとの戦いを軽く考えていたけど、奴らは危険な連中なんだもんね。最悪、勝つためには配信も中断する。重要なのは奴らを倒すことだからね」

「うん」


 そして焔ちゃんの安全が第一だ。


 ダンジョンの平和を守るため、そして焔ちゃんの安全を守るため、デッツとの戦いはこれまで以上に真剣でなければならないと俺は気持ちを引き締めた。



 ―――デッツ女幹部グイドリッジ視点―――



「忌々しいっ!」


 地獄アントがやられたことに腹を立てたあたしは自分の机を叩く。


 作業員として捕らえた探索者どもは解放され、建設中のアジトは破壊された。このことで筆頭幹部のギューイザルには叱責され、ゼラムスからは嘲笑を受けた。


 屈辱だ。

 これほどの屈辱を味わったのは初めてだった。


「おのれ仮面ドラゴンブラックとシルバーライトめ……。この屈辱、必ず奴らにも味合わせてやるっ!」


 そしてゼラムスやギューイザルを見返し、デッツの最高幹部である筆頭になるのだ。

 その日は必ず来ると、グイドリッジは信じて疑わなかった。

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