第30話 人が地面に埋まる怪事件発生
……ミノタウロスはあっさり討伐。
倒された5体は俺の足元で転がっていた。
――余裕やね【青スパ200円】
――強い(確信)
――もしかして人類最強か?
ヘッドホンから聞こえるコメント欄の音声を聞きながら俺は一息つく。そして、
「か、仮面ドラゴンブラックの手によって脅威は去ったっ! しかし次なる戦いが仮面ドラゴンブラックには迫っているっ! 負けるな仮面ドラゴンブラックっ! 悪を滅ぼし、正義によって世界が満たされるその日までっ!」
そう大声で叫んだ。
――それは自分で言うことじゃないだろw
――ナレーションの仕事や
――自分でナレーションまでこなしてて草
「うう……」
だって焔ちゃんが言えって言うんだもん……。
大阪1号に言わせようと思ったけど、嫌だって言われたし、もう自分で言うしかなかったのだ。
――格好良い! 正義のためにがんばれ仮面ドラゴンブラック!【赤スパ5万円】
――キッズは大喜びだね
――いやキッズが赤スパ5万はいかんでしょ
――暇なおっさんじゃないの?
――暇なおっさんが5万も赤スパするもいかんのでは……?
――まあええやん。盛り上がってるし
実際、コメント欄は盛り上がっている。
ひとりだけ飛び抜けて盛り上がってる人がおり、他は冷めた感じでおもしろがっているという様子だが。
「あ、あの、ありがとうございました」
と、そこへさっきの探索者がやって来てお礼を言ってくる。
「いいえ。これが自分の役目ですので。それでは」
「あっ」
俺はバイクに乗ってクールに走り去る。
解決したらヒーローはクールに去って行く。
焔ちゃん的にはこれが格好良いらしいのだ。
それから階層を下りつつ、魔物に襲われている探索者を助けて行く。
同接1万ほどで、初回にしてはかなりのものだった。
「次で20階層やでー。もう配信始めて2時間くらいやし、そろそろ切り上げてもええんちゃうか?」
「そうだな」
体力的にはまだ余裕だが、初回だしこんなものだろう。
大阪1号の言う通り、終わりにするかと思ったとき、
「た、助けてくれーっ!」
「うん?」
ダンジョンの横道から探索者が駆け出てくる。
なにがあったのか、顔面は蒼白で恐怖の表情をしていた。
「どうかしましたか?」
「あ、あんたは確か仮面ドラゴンブラック……」
「はい。なにかあぶない目に遭われたのでしたら力になりますよ」
また強力な魔物に襲われた人だろうか?
そう思ったが……。
「な、仲間が地面に飲み込まれちまったんだっ!」
「地面に飲み込まれた?」
どういうことだろうか?
とりあえず一緒に現場へと向かう。
「ここだっ。こ、ここで仲間が地面に飲み込まれたんだっ」
「ここですか……」
しかし地面にはなにも無い。
飲み込まれたと言うが、痕跡らしいものも見当たらなかった。
「飲み込まれたって、どういう状況だったんですか?」
「あ、ああ。俺たちは10人くらいでここを歩いていたんだ。そしたら一番うしろを歩いていた奴がいきなり悲鳴をあげてな。振り返ったらもういなかったんだ。それからひとりずつ地面に飲み込まれていって、俺だけ慌てて逃げたんだよ」
「うーん……」
飲み込まれた地面を叩いても奇妙な様子は無い。
しかし彼が嘘を言っているとも思えず、ただただ不思議であった。
――魔物の仕業か?
――そんな魔物いる?
――少なくともこの階層にはいない
「魔物の仕業……だと思いますけど、なにかそういう魔物に心当たりはありますか?」
「……いや、俺は知らないな。もしかしたら下層から上がって来た奴かも」
その可能性が高いか。
「とにかく今はどうしようもないですね。その魔物も見当たりませんし」
「そうだな……。とりあえずDGに通報はしておくか」
「そうしてください」
魔物がいないのでは倒しようもない。
地面に飲み込まれた探索者を助けようにも、どこへ行ったのかわからないのでどうしようもなかった。
……
「へーそんなことがあったんだ」
配信を終えて家に帰った俺は、ダンジョンであったことを焔ちゃんに話す。
「うん。結局よくわからなくて解決はできなかったんだけど」
「でも初回の配信は大成功だね。同接も良い感じだったし、チャンネル登録してくれた人もたくさんいたからあっという間に収益化できたみたいだし」
「うん。あ、見ててくれたんだ」
「もちろん。わたしが1番のファンだもの。見ないはずないじゃない?」
「はは、そうだね。うん? あ、もしかして、コメント欄でドラゴンブラックを格好良いって言って盛り上がっていた視聴者って……」
「そんな視聴者さんがいたんだー。仮面ドラゴンブラックさんも大人気だねー。いろいろお膳立てしたわたしとしても嬉しい限りだよー。うんうん」
そう言って焔ちゃんは満足そうに頷く。
焔ちゃんがそう言うならそういうことにしておくかと、俺はそれ以上、なにも聞くことはしなかった。
「それはともかくとして、人が地面に埋まっちゃう事件は他にあったみたいだよ」
「えっ? そうなの?」
「うん。さっきネットでちょっと調べたら、一緒にいた仲間が地面に飲み込まれたって人の報告がいくつかあったの」
「そうなんだ。やっぱり魔物の仕業なのかな?」
「そういう魔物は今のところ確認されてないけど、未確認の魔物が現れたのかもね。それかもしかしたら……」
「もしかしたら?」
「デッツの仕業かも」
「デッツの?」
確かに奴らは改造人間を作るために、ダンジョンで探索者の誘拐をやっているとは聞く。しかし人を地面に埋めて攫うなんて聞いたことがない。
「今のところ完全に謎の事件だし、DGも解決できていない。これはもう正義の味方が解決するしかないんじゃない?」
「こんな謎の事件を俺たちで解決できるかなぁ」
「正義の味方に不可能はないの。さっそく明日から事件解決に向けての活動を開始するからね。甚助さんもがんばって」
「うん」
このまま放っておけば多くの探索者が犠牲に遭う。
解決できるかはわからないが、できる限りのことはしようと思った。




