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第29話 おじさんVSミノタウロス

 タイガースの応援歌を口ずさむバイクを走らせ、ダンジョンを進む。

 まだ最初の1階層なので、他の探索者は結構いる。誰もが振り返って俺を見るので、ちょっと緊張した。


「なんかむっちゃ見られとるやん。仮面ドラゴンブラックさん大人気やなー」

「タイガースの応援歌を歌うバイクが珍しいんでしょ」

「タイガースの応援歌は盛り上がるからなー」

「盛り上がるのは虎ファンだけや」


 ずーっと大声で歌ってんだもん。エンジン音が無いのにうるさくてたまらん。



 ――現在の最高到達階層って何階層だっけ?


 ――73階層


 ――おっさんならそれより下に行けそうだな



 どうだろうか?

 しかしブラックドラゴンはさらに下の階層に生息している。稀に階層を上がって来ることがあり、脱皮の抜け殻や鱗が手に入るらしい。デッツはそこから遺伝子を得たのだろうと雄太郎さんは言っていた。


 つまり俺にブラックドラゴンと同等の力があるならば、73階層より下に行けるということだ。まあしかし、そこにはブラックドラゴンやそれと同等クラスの魔物がいるだろうし、行くのはリスクでしかないが。



 ――ダンジョンエレベーターで一気に73階層まで行っちゃえば?


 ――ダンジョンエレベーターは探索者認定されてないと使えないんじゃなかった?



 突破された階層まではエレベーターで行ける。しかし利用にはコメントにあった通り探索者認定が必要だ。深い階層ほど高いランクの認定も必要になるが、いずれにしても探索者認定すら無い俺は使うことができない。


「認定の無い自分はエレベーターの使用はできません。けれど、犯罪者を探しながら行くのでそもそも使うつもりはありませんでした」



 ――ああ、そういえば探索だけじゃなかったな


 ――メインは犯罪者退治で、あとはついでに探索と漫才か


 ――漫才メインでもええで



 ……意外に漫才は好評だったようである。



 ――漫才メインなんてダメー! 正義のヒーローなんだからちゃんと悪者を倒してー! そっちを期待してるんだから!



「あ、はい。もちろん漫才がメインになったりはしないのでご安心ください。仮面ドラゴンブラックは正義のヒーローなんでちゃんと悪を倒しますよー」


 悪を倒さずに漫才なんかやっていたら焔ちゃんに怒られてしまうし。


「えーと、1階層にはこれといった事件は無さそうかな」


 スマホとは別の画面に映っているナビを見ながら、下の階層へ降りる坂へ向かう。


 それから何事もなく階層を下り、10階層へとやって来る。……と、


「う、うわーっ!」

「うん?」


 誰かの悲鳴が聞こえる。

 事件かと思い、俺はそちらへ向かってバイクを走らせた。


 そして現場へやって来ると……。


「あれは……」


 2足歩行の巨大な牛の魔物5体に探索者の集団が襲われていた。



 ――あれって30階層くらいにいるミノタウロスじゃん


 ――ずいぶん上がって来たな


 ――ミノタウロス5体はS級でもきついぞ


 ――1体ならともかく、5体はおっさんでもきついかも


 ――無理しないでDGに通報したほうがいいよ



 ここはコメント欄にある通りDGに通報するのが通常の判断だろう。

 しかしそれでは間に合わない。


「なんとかしてみます。あぶなそうに見えたらDGに通報してください」


 そう言って俺はバイクを走らせて探索者とミノタウロスのもとへ向かう。


「とうっ!」


 そしてバイクから飛び降り、ミノタウロスの前に降り立った。


「あ、あなたは……」

「俺は正義を守るドラゴンの戦士っ! 仮面ドラゴンブラックっ! シャキーン!」


 そしてポーズを取る。

 こういう場合は必ずポーズを取るよう焔ちゃんから厳命されているのだ。



 ――きゃー! 格好良い!


 ――格好良いか?


 ――キッズ的には格好良いんじゃない?


 ――30のおっさんが真面目にやってると思うと……


 ――ふざけてる場合ちゃうぞ


 ――格好良いって言ってんだろ! センスねーなお前ら!


 ――格好良いって言ってんのあんたひとりやん



 意見は様々……いや、格好良いって言ってるのはひとりだけか。俺自身も格好良いとは思ってないし。


「あ、あの……」

「俺が来たからにはもう大丈夫っ! さあ下がっていてくださいっ!」

「あ、ありがとうございますっ!」


 探索者たちが離れて行き、俺とミノタウロス5体だけになる。


「ぐおおおおおっ!!!」

「うわぁ怖い……」


 つい本音が出てしまう。

 だってむちゃくちゃ大きいし、でっかい斧とか担いでるし……。



 ――大丈夫かよ……


 ――まあ怖いのはわかるけどさ


 ――いや実際きついよ。ミノタウロス5体とか軽く災害級だし、10階層まで上がって来たらDGが総出で討伐に来る事態だよ


 ――これはちょっと勝てないか?


 ――初回で配信者死亡はやめてくれよ


 ――逃げたほうがいいのでは? いやマジで



 正直に言うとちょっと逃げたい。

 怪人は大きくなかったけど、ミノタウロスは象よりでかいし恐怖感があった。


 しかし逃げるわけにもいかない。

 正義のヒーローが逃げたら動画が台無しである。


「ヒ、ヒーローは逃げないっ! どんなに強敵が相手だろうと勇ましく立ち向かうのがヒーローなのだっ!」



 ――腰引けてるやんw


 ――怪人とかDG倒したときの勇気はどこ行った?


 ――これはダメかもわからんね



 怪人を倒したときは焔ちゃんを守らなきゃという思いで必死だった。相良を倒したときは相良ムカつくこの野郎くたばれって怒りでいっぱいだった。しかし今はその必死さも怒りも無く、普通に魔物が怖かった。



 ――負けるな仮面ドラゴンブラック! 正義は勝つ! がんばれ!


 ――魔物って悪かな?


 ――難しい問題やな……



 悪かどうかはともかく、明確に殺意を向けられていることには違いない。


 やらなければやられる。

 俺がここでこいつらを倒さなければ、多くの探索者が殺されるかもしれないんだ。少なくともこいつらを倒すことは正義だと思った。


「お、おとなしく下の階層に帰るなら見逃してやっても……」

「ぐおおおおおおっ!!!」


 俺の言葉などもちろん通じていないようで、ミノタウロスは咆哮を上げながら巨大な斧を頭上へと振り上げる。


「うわあっ!?」


 振り落ちてくるその斧をかわす。

 地面に叩きつけられた大斧が地響きを上げて地面を抉った


「あ、あんなの食らったら……おあっ!?」


 かわした先では別のミノタウロスの斧が振り落ちてきた。


 これは避けられない。



 ――あ、死んだ


 ――あかん


 ――避けろおおおお!


 ――あああああああ!



 死んだ。

 俺はそう思った……が、


「うぎゃああ……って、あれ?」


 頭から真っ二つ……にはならず、


「ぐおおおおっ!?」


 振り落ちてきた斧の一撃を頭から受けた俺の身体は無傷。

 反対に斧のほうが砕けていた。



 ――は?


 ――えっ? 無傷なの?



 無傷どころか痛くもなんともない。

 ピンピンしていた。



 ――さすがは仮面ドラゴンブラックさん! 強靭! 無敵! 最強!



 自分でもびっくりである。

 まあ今までも怪人の攻撃を受けても無傷ではあったが、まさかこんな大きな魔物の重い一撃を受けても無傷とは驚いた。


「これなら勝てそうか? ふ、ふはははっ! 正義のヒーローにこんな程度の攻撃は通じないぞ! 恐れ入ったかっ!」



 ――悲鳴上げてくせによく言うわw


 ――しかし頑丈やな


 ――香典代わりに赤スパするところやったわ


 ――まあ黒刀の一撃を無傷で防いだんだし、当然の結果だよな


 ――これは本当に最下層までいけるかも



 この頑丈さがあれば魔物なんて怖くない。


「さあ来いミノタウロスっ! ヒーローの一撃を食らわせてやるっ!」

「ぐおおおおおっ!!!」


 5体のミノタウロスが咆哮を上げて一斉に襲い掛かって来る。

 対峙する俺は恐れを払拭して立ち向かった。

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