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第28話 バイクと漫才から始まる配信

 焔ちゃんからお古の機材をもらい、自分のチャンネルや告知用のSNSアカウントを作って配信の準備を完了させる。

 配信日時はすでにSNSで告知したし、あとは始めるだけだった。


「うまくやれるかなぁ」


 個人で配信者をやってみようと決めたあの日から1週間。

 以前と同じくダンジョンへ入る秘密の入り口へ来ていた俺は緊張していた。


 しかしこのあいだも焔ちゃんの代わりにひとりで配信をやれたのだ。なんとかなるだろうとは思う。


 そのときと違うのは自分で企画して、最後まで自分ひとりでやるということだ。……いや、正確にはひとりではなく1台と一緒だが。


「なんでワイも手伝わなアカンねん?」


 連れて来た電動バイク、大阪1号君が不満そうに言う。


「お前は俺の相棒だろう? なら一緒に活動するのが普通だ」

「はあ……。今日はデイゲームあったんやけどなーもー」

「野球なんてほとんど毎日やってるしいいだろ別に」

「それは違うやろ……」


 呆れるように言う大阪1号の前で俺は配信の準備をする。


「まずは撮影用のドローンカメラを飛ばして……」


 焔ちゃんからもらったドローンカメラを飛ばす。

 それから配信サイトを開き、そのスマホを大阪1号のハンドル部分にセットする。


「これで準備はオッケーだな」

「マイク付きヘッドホン忘れてるで」

「おっと」


 これが無いと声が聞こえづらくなってしまう。

 コメントも音声で聞こえるようにしているので、重要な装備だった。


「あと変身やろ。仮面ドラゴンブラックが見れる思たのに、こんなしょぼくれたおっさん出てきたらちびっこがビックリするで」

「しょぼくれたおっさんで悪かったな」


 こいつも視聴者もおっさんおっさん言うけど、俺はまだ30だからな。そんなにおっさんじゃねーよ。


 そんなことを考えながら、30のおっさんがやるには恥ずかしい変身ポーズをして仮面ドラゴンブラックへと変身する。


「さーてそれじゃあ始めるかね」

「あ、ちょい待って。髪型整えるから」

「大丈夫大丈夫バッチリ決まってるから……って、バイクに髪はないやろっ!」

「それやそれー。わかってきたやん自分」

「はは……」


 なんで俺はバイクと漫才してるんだか……。


 こいつとの付き合い方に慣れてきたことが嬉しいやらなんやらと苦笑い。


「それじゃ始めるからな。本当に始めるからな? けどうまくいくかなぁ……。見てくれる人が少なかったらへこむなぁ……」

「はよせいや」

「わかってるよ。心の準備がね……」

「もうええわ。ほれポチ」

「わあっ!?」


 車体から生えてきた腕がスマホをタップし、配信を開始してしまう。



 ――お


 ――始まった


 ――ちょっと遅かったんちゃう?


 ――待ってた


 ――おっさんこんちわ



 始まってしまった。

 こうなったらもうあとには引けない。


 焔ちゃんから教えてもらった通りにやろうと、俺は意を決してカメラのほうを向いた。


「どうもこんにちドラゴンっ! 正義の味方、仮面ドラゴンブラックですっ! シャキーンっ!」


 挨拶をし、それから正義のヒーローっぽいポーズを取った。



 ――ダサい


 ――子供がやってるならともかく……


 ――30のおっさんがやってるのは痛い



「うう……」


 出だしから反応は散々だ。

 しかし格好良いからやってほしいと焔ちゃんに言われていたのでやるしかなかった。


「せやからそれやらんほうがええ言うたやんワイ。始まりから冷え冷えやん。どうするんこの空気?」

「そんなこと言われても……」



 ――いや格好良いよ! 仮面ドラゴンブラックさん素敵ー!



 なんかひとりだけ褒めてくれる人がいる。

 とりあえずは大勢が見に来てくれているようなので、ひとりくらいはさっきのを格好良いと思う人がいてもおかしくはないが。



 ――さっきのが格好良いってどんなセンスだよ?


 ――キッズでしょ


 ――キッズは学校へ行ってる時間では?


 ――大人は働いてる時間では?


 ――まあセンスは人それぞれよ



 しかしひとりでも喜んでくれたなら嬉しい。

 やる気も出るってもんだ。


「それじゃあ、えーと……これからダンジョンに入ります。シルバーライトちゃんとは違って、俺はダンジョンの犯罪者退治だけじゃなくて、探索もやって行こうと思いますのでよろしく」


 焔ちゃん的には正義のヒーローだけやってもらいたいらしかった。

 しかし雄太郎さんは探索もやったほうが受けるんじゃないかと言うので、とりあえずの方針として探索もやることにした。



 ――探索もやるの? てかランクはいくつ?


 ――強さを考えたら最高位のSSSじゃないの?



 SSS。スリーエスは探索者の最高位だ。

 世界に10人ほどしかいないらしく、ダンジョンの深層に最も近い者たちと言われている。


「あー自分は探索者ランクの認定試験を受けていないのでノーランクですね」



 ――マジで?


 ――ランクはあったほうがいいよ。ランクに応じて国から支援金も出るし


 ――ランク無いってことは探索者認定もされてないってこと? 認定されないとダンジョンで取れたものを買い取ってもらえないし損じゃない?



 それは知っている。

 しかし俺は死んだことになっているのだ。つまり戸籍が無い。戸籍が無い人間では探索者認定もランクをもらうのも難しいだろう。


「えっと、探索者の認定には個人情報が必要になりますよね? 自分は正義の味方なんで、相手が国でも正体を知られるわけにはいかないんです」



 ――なるほど


 ――そういやシルバーライトちゃんもノーランクだもんな


 ――配信が収入のすべてか



 焔ちゃんの場合はアイドルの収入があるのでそうではないが、俺の場合は本当に配信のみだ。雄太郎さんの家でお世話になっているので、収入が無くても生活できないわけではないが、稼ぎの無いプー太郎では肩身が狭い。


「生活のすべてを配信に頼っているわけではありませんが、収入は配信のみですね。みなさんに楽しんでもらって、チャンネル登録者が増えたら嬉しいです」



 ――おっさん強いから大丈夫じゃない?


 ――だけど強いだけじゃねぇ……。やっぱ動画的におもしろくないと


 ――シルバーライトちゃんは巨乳でかわいらしいってのもあるから人気なんだよな。おっさんが魔物とか犯罪者倒しててもなんかなぁって感じ


 ――おっさんってのがマイナス



 おっさんのなにが悪いと言うんだ……。

 と言うか、そんなにおっさんじゃねーからと心の中で思う。



 ――なに言ってんのっ! 悪と戦うおじさんとか格好良いじゃん! がんばれ! 仮面ドラゴンブラックさん超がんばれ! 応援してる!



 熱烈なファンがひとりだけいてくれてちょっと救われる。


「応援ありがとうございます。それじゃあそろそろダンジョンに……あ、シルバーライトちゃんの動画で知ってる人もいると思いますけど、この電動バイクは相棒の大阪1号です」

「だから大阪1号呼ぶな言うてるやろ。あ、どもー大阪1号でーす」

「自分で言うとるやんけ」



 ――草


 ――おもしれーバイク


 ――なに漫才しとんねん


 ――このバイク好き【青スパ200円】



「こいつはつまらん奴やから、動画はワイが盛り上げるでー。せやからスパチャよろしくなー。ガソリン代にさせてもらうわ」

「ちょいちょい、君、電動バイクやん。食うのはガソリンやなくて電気やろ?」

「おかんはハー〇ーダビッドソンのガソリン車なんや。国へガソリン送ってやったら喜ぶでー」

「君のおかんはヤマ〇の工場やろ。おとんは開発者か?」

「おとんはホン〇でおじいは陸王やで」

「もうええわ」



 ――なんで電動バイクのおじいが陸王やねんw


 ――おじいもう死んどるやん


 ――立派な血統で草【青スパ200円】


 ――正義のヒーローと電動バイクの漫才とか誰得


 ――新時代の漫才コンビやな【青スパ500円】


 ――はよ行け


 ――もう漫才だけやってろ



 予定には無い漫才でコメント欄が盛り上がった。

 しかし漫才だけやっているわけにはいかない。本来の目的はダンジョンへ入って探索したり、犯罪者を倒すことなのだから。


「はい。それじゃあダンジョンに入りますよー。仮面ドラゴンブラック、これより正義を執行する! シャキーン!」


 お決まりのポーズを取り、俺は大阪1号に乗ってダンジョンに入った。

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