第76話 箱庭のエムル
この3日間がまるで1週間にも2週間にも感じられた。
ようやく帰還した帝都ハイデスア。
エムルは戻るなり、真っ直ぐに向かった先は、父・モルトの元だった。
「エムル・V・ブラダガム、ただいま戻りました。
モンゴル地区は制圧、我が国の領土としたもののその後」
「よい。お前の活躍についてはシードルより聞き及んでおる」
皇帝のそばに控えるシードルがエムルを見つめ微笑む。
宰相としても地位を得て、嫌味なやつだ。
「嫌な味なら戦場で満腹まで食らってきたとこでしょう。
悪いようにはしていませんよ」
こいつ……!
ますますエムルは、気をつけのまま指で太ももをトントンと忙しなくし始めた。
「シードルの報告を聞き、我らも特務部隊を編成することとした。
此度の一連の奮戦を踏まえ、お前もその一員としてやろう」
「我が国における武芸に秀でたものを集めた騎士団……『聖櫃の騎士団』。
高貴なる剣を奮い、世界に帝国の名を轟かせてください。
"激情のエムル"さん」
フン、そのダサい二つ名が俺のコードネームか。
そもそも二つ名と言う制度が、ガキくさくてダサい。
ともかく父上に少しは認められたというのに、なんであろうか。
あまり気持ちの良いものではない。
認められたというより、俺が認めさせられた。
そんな気分だ。
「また、構成員……ナイトの配下には、親衛隊"薔薇衛士隊"を配備します。
エムル様も是非ご活用ください」
「活用、と。人を人とも思わぬその物言い、気に食わんな」
この男は昔から好かん。
そうだ、父上がもの言えぬおかしさを帯びていくのは、この男と親交が深くなるほどだ。
ヤクでも父上に吸わせてるんじゃあないか?
「まあ、そう言わずに。
あなたの大事なお人形さんも翌日帰ってくることですし、あなたの元気な様を見せられるよう英気を養ってください」
メアリーが!?
無事だったのか……よかった。
!?……お、俺はたかが一人の配下の無事に、なぜここまで安堵しているのだろう。
だがその前に。
「父上、聖櫃の騎士団への配属。
ありがとうございます」
「部下を省みるようになった褒美だ」
……あの時。ラインハルトが言っていたことは、間違っていなかったのかもしれない。
そうだ、俺はメアリーが撃たれた時。
とてつもない感情の波とともに、彼女に傷を負わせたことへの責任を感じた。
俺は少しだけ、『皇帝の子』という箱庭から出ることができたのかもしれない。
エムルは一礼をして、部屋を出た。
(フフフ……明日からまた、お人形さんと一緒に箱庭で存分に遊んでくださいよ。
皇子サマ)




