第74話 凱旋
ー『人と人を繋ぐ』機械でもあるー
ー個人を集団としてまとめ上げる使い方ができるっちゅうこっちゃー
カンナギ内。
日の本に戻る空路の中で、ヒヅルの脳髄をサチハラの言葉が駆け巡る。
自分が安易に使っている機体が、人類に脅威をもたらすかもしれない。
いや、過去にもたらしたのかもしれない、そんな恐ろしいものだったなんて。
たった1人の少年には衝撃の程度が大きすぎた。
「大丈夫だ、そんな時のための俺達……だろ?」
食堂にパイロット一同が介している。
ウォルノが察して励ましの言葉をかけながら、ヒヅルの背中をポンと叩く。
「しかしちょっと気になることがあったなァ。
ヤツが口に出した『紛い物』っつー言葉。
量産型はオリジナルの単なるオミット、って訳じゃあ無さそうだな」
「やっぱりそこ?
ヒヅルの能力が飛躍的に向上するのも、あの瑕のシンクロもシステム側に何か理由が」
全員が沈黙する。
その静けさが耐えられなかったのか、チョウが声を上げる。
「と、とにかく製作者であるシキさんにしか現状はわからないネ!
彼の無事の帰還を祈りましょう!」
ところが余計に水を打ったようにシン……と静まる。
チョウの顔に全員の視線が集まる。
「え……私何かまずいこと言っタ?」
「チョウさん、シキさんはヒヅルの親友だったんですよ。
ほら……その、気を遣いましょう?」
珍しくリンが気を遣っている。
と、カルジとプレディが内心驚く。
「そうだったネ……ゴメン」
「話はその辺にしとけ、そろそろだ」
ウォルノがマズルをクンとさせて気づいたらしい。
戦艦を覆う曇り空が少しづつ晴れて行く。
雲を抜けた先に、故郷の土地が見え始めていた。
九重共和国、日の本地区。
キョウトに作られた厳かな議事堂。
付近に存在する特別基地。
九重評議会 極東中央政府その場所である。
広い航空場に、カンナギが降り立つ。
「ミランダ・クック、並びにカンナギ隊。
ただいま極東中央政府の要請により、参陣いたしました」
カンナギ隊の一同が"その人"に敬礼する。
「この国を守るため、素晴らしい活躍をしてくださったのですわ。
皆様、固くならずに勝ちのお力をどうか抜いてください」
黒紫がかった腰に届く長髪。
気品に溢れる少女らしさと大人の落ち着きが入り混じる美貌。
和柄の模様の入った、高貴なピンクと藤色のドレス。
コトハ・コノエが自ら先頭に立って出迎えをしてくれた。
「伊忌島の件、そしてラインハルトのことについては、私からもカンナギ隊へ礼を言いたい。
ありがとう」
厳しい風貌に、丁寧に切りそろえられた体格の良い老人。
ナギヒコが深く一礼をした。
「機体の方は、修理を手配しておりますわ。
艦長様と副長様には早速、頂いております報告書の内容を議会室で伺います。
その後、新たな任務をお爺様より発していただくことになりますわ」
彼らの歩む道の両端に憲兵が一糸乱れず等間隔で敬礼をしている。
嗚呼、本当に。
本当にちょっぴりだけ、この国の希望になれたのだ。
そんなヒーロー気分をほんの人匙だけ、ヒヅルは体感した気がした。
議事堂内。
艦長と副長以外の面々は、待機用の客間で待たされるらしい。
エスコートの憲兵が、先頭に立って部屋に招き入れる。
「そうだ、忘れていました。
あなた方が到着したら、お声がけをしなければならない方がいました」
憲兵は、不意に声を上げる。
「あぁ?誰だよ」
「そりゃあ、誰って……俺だよ」
客間にはすでに先客がいた。
短髪を切り揃え、溌剌とした、皺ひとつない男。
ずっと年上であろうはずなのに、その様子からは20代後半と見間違う瑞々しさを放っている。
「さて、そこの茶髪の少年。
仕合おうじゃないか!」




