第71話 公商人 マコト・サチハラ
「『Scrap and Snitch Service』……って3Sのことか!」
「それ何ネ?」
ウォルノは即座にサチハラの所属に気づいたものの、チョウはいまいちピンときていないようだ。
「まぁ……知らねェ人は知らねェだろうな。
日常に関係ねェからな。
いいか、3Sってのは文字通り、スクラップになった機体からレーションなどの食料、果ては情報までを売る国際的な組合のことだ。
元はジャンク屋あがりの組織だったが……中には廃棄品からのゲテモノ機体所有者もいるって話だぜ」
いつの世も、廃棄品や横流し品など売れるものはなんでも売るものはいるのだ。
特に戦時中などは、その数も顕著である。
その一方で貧しき者たちにもモノを安く回しているのもこういった人種であるのも確かなことである。
それはどんな時代、どんな場所でも変わることはない。
「で、そのブローカーがワシらに何の用だね」
「そんな怖い声出すのやめてもらえへん?
こちらに敵対の意思はない。
一度顔付き合わして、交渉したいから着艦許可くれへん?」
交渉、か。
相手はあくまで商人の立場としてこの島とやり取りをしたいということの証左だ。
だが、商人の口を信じてはいけない。
ぼったくられるか、話をうまく進められて不利な条件をつけられるのがオチだ。
カンナギ隊は、注意深くサチハラの言葉を聞き取った。
そもそもそんな存在が何の目的でここに来たのか、全員が疑問を抱いていた。
「で、その3Sは?何をしに来たんだ?
戦後に転がる死体の腐肉をついばみに来た、ってか?」
ウォルノが冷たい口調で問いかける。
「まーまー!そんなに警戒せんといてな。あんたらの敵やないことは保証するで。
むしろ役立つ情報と、一つビジネスの話を持ってきたんやで」
サチハラは陽気に答えた。
じっとミランダは考える。
情報というのは気になる、だが対価として求められるものは一体……?
考えた後、大きな紅瞳に決意を込めて発した。
「話を聞こう。リンドウ司令官へ繋いで。
“カラスを一匹、島に船を寄せてあげて”って」
国を問わず利用される汎用輸送艦”ケートゥス”。
そこから降りてきたのは一人と一匹だった。
筋肉の無い細身の体、肩までかかるボサついた黒髪を揺らす男。
その側には水色と白を貴重にした、妙に寸詰まりの手伝いロボット。
「どうも、私がマコト・サチハラや。んでこっちのロボットが」
「”K-66CH”、通称ケロや!接客兼事務員ロボットやで!」
サチハラのいやにダウナーな雰囲気と、ケロの溌剌とした雰囲気がコントラストを描く。
「カンナギ隊艦長、ミランダ・クックだ」
「伊忌島防衛部隊、師団長のリンドウです。話を聞かせてもらいましょう」
代表二人の後ろに、隊の者が背筋を伸ばして待機する。
張り詰めた空気の中、ヒヅルはいつでも銃をサチハラに向けられるよう、心の準備をしている。
「ありがとうな。まず、私がここに来た理由の一つ目から話すさかい。
最近この辺で、両軍の機体が大量に破壊されたと聞いてな。
その残骸を高額で買い取ろうと思ったんや」
想定どおりであった。
確かに戦場の残骸は貴重な資源であり、ジャンク屋にとっては絶好のビジネスチャンスだ。
戦場跡で拾われた志の欠片達は、闇市場で高値を付けられ、新たな戦争の火種となる。
人間の欲望は尽きず、平和の夢は遥か遠くなる。
犠牲者の無念を忘れて、欲望だけが勝利する。
「なるほど、機体の買い取りか。
それなら分かるが、他に何か情報があると言ったな?」
ミランダがさらに問い詰める。
食いついた。そう思われたことだろう。
その商人は目を細めてニヤリとする。
「あんたらも知らずに使ってる、”アレ”や。
知りたいんやろ?”太極図システム”のことを」
【ライナーノーツ】
1 タイトル元ネタ:「公証人 真下正義」から。踊るシリーズ大好きなんです。
2 機体について:ケートゥス→ギリシャ神話の海獣、クジラの化け物。




