第70話 Something in the way
伊忌島の激戦から4日が経った。
戦死者遺体の本国送還や、敵の捕虜の処遇、そして島の修復などで瞬く間に時間が過ぎた頃である。
「カンナギ隊、全員デッキへ集合せよ!」
ミランダの声が艦内に響き渡った。
「おい、ヒヅル!いくぜ!」
「う、うん……」
ウォルノに起こされ、集合準備をする。
だが、ヒヅルの気持ちはそうはいかない。
何か……頭の中で邪魔をする。
『国を守ってなんになる!必死に戦って!守って!
それでてめえは最も大事な人を守れんのか?』
『どれだけ国に尽くそうが!己の命を賭けようが!
国が兵士達の大事なモンや人を守ってくれんのか!?』
それはラインハルトの数々の言葉。
依然として、ヒヅルの心に突き刺さったままであった。
確かに彼は、対話が不可能で明確な"敵"であった。
だがそんな彼の言っていたこれらの言葉は、確かに的を得ている。
自分が守れるもの、希望を与えられるであろう人には限りがある。
そんなことがずっとよぎるのだ。
だが、そんな思考も唐突に遮られる。
「おい、ボーッとしてんじゃあねェぜ!
ミランダに怒られるぜ?」
「う、うん。ごめん、ウォルノ」
そそくさと着替えてデッキに上がる。
既に他のみんなは揃っていた。
「すいません!ヒヅル、ウォルノ両名到着しました!」
「遅いぞ、1番の戦功者も遅刻はダメだぞ」
ミランダは下からヒヅルのおでこに人差し指をつん、とした。
「さて、皆に報告がある!
我々は一時修理と補給、そして此度の戦果を讃えられ、日の本本国の極東中央行政府へと招かれることとなった」
あちらこちらで歓声が上がる。
「ヘッ、やったな。
これもおまえさんのお陰だぜ、ヒヅル」
「ちょっとウォルノ、茶化さないでよ」
「ふふっ、まんざらでもないんじゃないかしら?」
「フィリスまで!」
激戦を潜り抜けた今、彼らは出会った頃と違う距離感を確かに築いていた。
初めて会った時のような、フィリスの態度はもう見受けられない。
「2日後、我らはここを発つ。
それまでに各自準備!
みんな、本当によくやってくれた!」
艦長の声には、溌剌とした中に歓喜が入り混じっていた。
「でも、本当にあなたの活躍は桁違い。
最初の時のあなたとは大違い。
まるで」
「まるで、アマテラスと僕がひとつになったようだった」
フィリスの言葉を遮りながら、ヒヅルが掌を見つめる。
「僕もそう思った。
機体に当たる風も、波も僕はコックピットにいながら感じたし。
それに感覚が研ぎ澄まされて、まるで自分以外の時間がゆっくり流れているようだった」
フィリスが不意に思い出す。
アマテラスの傷と、ヒヅルの傷痕が一致していたことを。
「ヒヅル……あなた本当にどうしちゃったの?
追い詰められると、急にとてつもない動きや、強さになって。
私、時々凄く怖くなるの」
「俺も驚いたぜ。
ありゃあ、並大抵のパワーじゃあねェ。
反応速度も人間のそれを超えてらァ」
2人が少しばかりヒヅルへの心配を吐露する。
しかし、彼にも分からぬのだ。
どうして突如ああなるのかも、自分だけが特別そうなるのかも。
「僕に分かることは、いつも画面に映し出される言葉
『Genetic Code』
『Fragments “AL-VANA”』
って、それだけしかなんだ」
2人とも、それを聞いても考えるばかりだ。
「なんだそりゃあ。
聞いたこともねェな、"アルヴァーナ"なんてよ」
「何か引っかかる単語ね。
遺伝子で識別されてる何かがあるってこと?」
だが、そこへ急遽警戒のアラートがフィリスの言葉をかき消した。
一気に彼らに緊張が走る。
「艦長!所属不明の艦が一隻、この島に接近中ネ!」
「なんですって!?どこの馬鹿なの!」
「おいおいおい、馬鹿とはひどいんとちゃうか?」
「!!」
「所属不明機より通信!」
より緊張が高まる。
相手の出方次第では、戦闘がまた始まりかねない。
「こちら、『Scrap and Snitch Service 』のサチハラ。
ま、しがないジャンク屋で……情報屋、ってやつや。
大丈夫、罠にかけて食ったりせぇへんで。
あんたらが魚じゃないならな」
【ライナーノーツ】
1 タイトル元ネタ:ニルヴァーナ「Something in the way」
「捉えた動物はみんなペットにする」「でも魚だけは捉えて食うのさ」




