第69.7話 ベスト サムライ
カンナギが急襲を受けた時、出航は予定より1日早かった。
そのため当然だが間に合うことなく取り残されてしまった者もいる。
宮本 雅彦。
剣道において世界の頂点に立つ彼もその1人である。
「ただいま、志重香さん。
子供達はもう寝てしまったかな?」
短髪を切り揃え、齢45とは到底思えない溌剌とした、皺ひとつない男が玄関の引き戸を開ける。
「マサヒコさん、お帰りなさい。
サトシとカツミは学校の課題に取り組んでますよ。
ユカリは、もう寝てしまったところね」
優しくのんびりとした婦人が、台所で白米をよそいながら答える。
「はぁーー遅かったかあ。
折角土産を持ってきたと言うのになあ!」
「その土産というのも、勝ちの報告ですか。
『パパの話は長い』ってまた言われちゃいますよ」
マサヒコはへへ、と照れながら鼻の頭をかく。
掘り炬燵にどかっと座り込む。
「参ったなあ。
折角ベストを尽くして世界一を死守したってのになあ。
ママがお夕飯を用意するまで、テレビ見て待ってるね」
ニュースの音が和室造りの部屋に響く。
「共和国軍部より発表です。
カンナギ隊は無事日の本地区の要、伊忌島を守り抜いたとの報告が入りました。
この際、敵部隊の指揮官はかつて我が国を離反したミノワ・クニヒト氏が……」
ニュースの声と共に、アマテラスやカンナギの活躍が映し出されていた。
ふと、マサヒコの目の色が変わる。
「あっ!!この艦!!!俺が乗るはずだった艦じゃあねーか!」
大声が今を突き抜ける。
「だってあなた、『この勝負だけは外せねえ。全国師範戦で最善を尽くすのが先だあ!』とか言って向かうのを1日遅らせたじゃないの」
マサヒコも耳が痛い、と言った顔だ。
ご飯と味噌汁、夕飯を食卓に並べる。
「『自分より強いやつがいなかった』とか言って帰ってきて。
それとも、戦場にいるもっと強い人達と戦いたかったかしら?うふふふ……」
「そういう訳じゃあねえけどさ……ねぇけどさ」
言葉を言い淀む。
「お前たちを、置いていけないじゃないかよ。
子供たちも、シエカさん。お前も」
気恥ずかしそうに、親指で頬を擦る。
優しく、愛しい心持ちにシエカも頬を染め、笑顔になる。
「まぁまぁ、嬉しいですこと。
でもね」
その心の奥に宿っているもの。
それが愛妻には、よく分かっている。
「行きたいなら、行っていいのよ。
家のことは私に任せてくださいな。
貴方はあなたのできる善を為してください」
その言葉を聞いて、味噌汁をすする手が止まる。
そのまま器の水面を眺める。
「さっきの一瞬で感じ取るとは、流石俺ん嫁だな」
「えぇ、もう18年も連れ添ってますから」
短い言葉だけで通じ合う二人。
もう言うこともあるまい。
「彼らが帰還次第、行ってくる」
「お気をつけて」
食べ終わるなり、掘り炬燵から立つ。
娘・ユカリの寝室に入り、寝顔を見つめる。
自分が戻ってこれないかもしれない。
それでも才覚ある彼らと共になら、子供たちの将来を平和にできるかもしれない。
さっきのテレビでの一振り、腕は素人だが磨けば……この国を守る剣になるだろう。
その力を育てる義務がある。導く義務がある。
「強者を御すのも楽しみだが、そっちもまた楽しみだねえ」
すやすやとユカリの頭を撫でる。
カンナギが日ノ本に凱旋帰還する、数日前の話である。
【ライナーノーツ】
1 タイトル元ネタ:「ラスト サムライ」 言わずとしれた渡辺謙の映画。影響されてるだけなんだぁ、音がダサくてもいいんだよタイトルが
2 キャラクターについて マサヒコ・ミヤモト こちらも言わずとしれた「宮本武蔵」




