第69.5話 彼女が見た遺伝子の瑕
「スカラーバンク、ログイン。ID:NGSK1228。
登録名ジェーン・U・シーマ。検索ワード『遺伝子 カズマ・キリムラ』」
シャワーを浴び、バスタオルで髪を拭く女性。
しっとりした肌を、全身を露わにしたまま自室内を歩く。
音声認識を受け、PCの電子スクリーンが検索結果を表示する。
「あったあった。
『人と亜人に共通する、特殊遺伝子について 著者:桐村 壱馬教授』
ヴァッカ連邦随一の遺伝子工学の権威ならと思ったけど、ビンゴね。
どれどれ……。
人と亜人のDNAの差は0.01%、遺伝子となると更にその差は限られる。
染色体に至っては46対で共通である。
更には差異のある箇所についても非常に近似する。
それは人に近いと言われるチンパンジーを含め、他の動物と比較しても、意図的とも思われるほどこの2種間だけに見られる特異性だ」
スクリーンに顔を近づけると、その豊満な胸が揺れる。
「つまり、亜人と人とは地球上の種単位で見れば同種。
私が知りたいのはそこじゃないのよね」
バスローブを纏い、コーヒーカップに口をつける。
「発展研究……あったわ。
だが、一部の人や亜人に共通する、あるDNAの並び"X"がある。
これは特異的なタンパク質組成に関わると思われる。
が、その働きは未だ解明されておらず、そこから作られると予想されるタンパク質の働きも不明確だ。
そしてこの並びは、現在知られている地球上の他の生物には見られない。
なぜ一部の人にのみこの配列があるのか?
そしてこの配列部位はどこからきたのか?
あることによってどんなメリットをその個体にもたらすのか?
それらはまだ、我々には何一つわかっていない」
ジェーンはデスクに座り込む。
カンナギ隊全員に共通するDNA上の特異な共通点。
ジェーンはこの"X"こそがその正体と考えたのだ。
「もしかすると、この仮称"X"を持つ人間が太極図システムを扱えたり、高度な何かしらができる可能性があるのかしらね。
いや……むしろ逆かしら。
太極図システム自体が、特別な人間のために作られた……?
なんのために?
そもそも、ロスト・プライムはどこから来たのかしら」
ベッドに倒れ込み、バスローブがはだける。
額に手の甲をあててじっくり考える。
人と機械を一つとするシステム。
その使用用途は本当に戦争や、文明発展のため?
「もしかして……本当の用途は別にあって、逆にその副次効果が、機械とのシンクロだとしたら……。
そう考えれば、遺伝子"X"の意味合いって」
彼女の中で一つの仮説が組み合わさっていく。
見つめる天井に向かって、手で空に向かって何かを書く。
「でも、そうだとしたらまだ検証も、確信を持つピースも足りない。
まだまだヒヅル君やみんなを観察する必要がありそうね……ふふふ」
メガネをかけ、島の夜空を見上げる。
その日は星も輝かない、漆黒の空が広がっていた。
この数日後、ヒヅルとラインハルトの激戦を、その後のヒヅルの傷痕を見た時。
ジェーンの中で核心へのピースが1つ、手に入るのであった。




