第69.3話 御伽噺の解釈は
「ナギヒコ様。伊忌島にてカンナギ隊及びイチマルキュウ部隊が、ラインハルト隊を迎撃・撃破したとの報告が入りました」
ナギヒコの執務室に、そんな一報が入った。
背を向けて一報を聞く彼の顔は、見えない。
「……そうか、ありがとう。
準備が完了次第、カンナギ隊を極東中央行政府へ招きたまえ。
勿論軍備も整えられるよう」
優しく、深い声で指示を出す。
その命令に従った憲兵が退室した。
誰もいない中、ナギヒコのため息が響く。
「ふぅ……、そうかクニヒト。
我が旧友は逝ってしまったか。
あの時、ワシが時の上層部にもっと食ってかかっておれば」
後悔、無念、懺悔、悔悟。
複雑な感情が絡み合ってその表情ににじみ出る。
その時、扉がカチャリと開く。
「お辛いのですか?お祖父様」
「コトハか。すまぬな、心配させて」
愛しい孫の顔を見るやいなや、威厳ある祖父の振る舞いをする。
「いいのです。辛い時は辛いと言ってくださいまし。
誰かを悼む時、素直な感情を表すのは何も悪いことではございません」
静かな、優しい慈愛に満ちた口調だ。
「ありがとう、コトハ。
ワシも良い孫たちを持ったものだ」
孫の頭を、大きな手で撫でる。
「こんな悲しいことを繰り返さぬよう。
私達も在り方を、今一度神話の言葉のように悔い改めなければなりませんわ」
「神話のように、か」
「太古の昔。大地は唸り、青き天空は割れ、天より聖なる方舟いでしことあり。
聖なる方舟、海を、山を、この世の栄えし生命を赤より紅く染め上げた。
総てを紅く染めし後、新たな生命に啓示与えけり。
『私のかわいい子供たちよ、目覚めなさい。
汝ら、花朽つる価値無き者にて、愚か憐れみ得がたき者ばかりなり。
我より伝えられし深き懺悔と導きの名の下に、汝ら悔い改めたる新しき物語を唄い給え』」
コトハはつらつらと、九重共和国に伝わる神話をそらんじた。
「ワシはな、『深き懺悔と導き』とは、亜人の存在と思っておった」
神話の解釈。
そんなものは人それぞれだ。
ナギヒコにはナギヒコの生き方を反映した解釈がある。
「だが、それだけではなく。
知恵ある隣人や、草木・生命。
すべて女神が気付きを人類に与えるものではないかと。
今になってワシは思うのだ。
人類は愚かで、今この瞬間すら戦争をしている。
だが同時に。
ありとあらゆるものから、学んでは前に進める生き物であると思っておる」
綺麗事。彼自身もそう思っている。
それと同時に、人は受け入れて変わっていけることも事実だ、と確信している。
「厳格で慈愛に満ち、人を信じ続けるお祖父様らしい解釈ですわ。
では、私たち姉妹が考えてたことも話してよろしくて?」
ナギヒコは嬉しそうににこやかに
「シュウカとコトハも、言葉の解釈を考えたのか。言ってみなさい」
と返答する。まだ小さいと思っていた孫たちの成長が嬉しいのだろう。
「私達は、至らぬゆえに神にこの地上に残る罰を与えられてしまった。
もし、人類が争わぬ平和な民になれた時、初めて物語を進められる。
争わずに全ての人が分かり合い、負の感情を減らせる世にするよう努力すること。
それが他の生命と調和できる鍵であり、新しい進化があるのではないかと。
そう思いましたの」
頭を撫でていたナギヒコの手を取り、"何か"を渡しながら語る。
「お前達らしい、優しくて理想的な答えだ。
そのためにまずは魔の手から共和国の民達を守らねばな」
「あら、そのためにカンナギ隊を組織したのではなくて?」
「それもそうだな」
一瞬の沈黙。
守るための力、それを行使したことでナギヒコの大事なものは守れたのだろうか。
「さて、傷ついた彼らを癒す準備を進めねばならぬ。
お前も評議会の面々に、説明と指示を出す必要があるだろう」
「そうですわね。
お祖父様、無理なさらぬよう……それでは」
コトハが一礼して部屋を出る。
執務室にしては簡素な部屋の中央に取り残されるナギヒコ。
握られた手の中を開くとそこには、コトハに渡された折り紙の鶴が佇んでいた。
「人が育ち羽ばたいていけること。
それが可能性でも、ワシも信じ続けたいものだ」
ラインハルトが海中に沈んでから30分後。
他愛無い祖父と孫の会話であった。
【ライナーノーツ】
1 タイトル元ネタ:東方Project 二次創作東方ボーカル「御伽噺のカラクリは」
聞きながら書いたんだ許せ…許して?




