第69.1話 勝利者などいるのだろうか? ~Who is the winner?~
自室でコーヒーを飲みながら、シードルは1冊の神話を読み返す。
「太古の昔。大地は唸り、青き天空は割れ、天より聖なる方舟いでしことあり。
聖なる方舟、海を、山を、この世の栄えし生命を赤より紅く染め上げた。
総てを紅く染めし後、新たな生命に啓示与えけり。
『私のかわいい子供たちよ、目覚めなさい』」
そこまで読み上げた時に、扉がキイと音を立てる。
「貴様は昔からその御伽噺が好きだな、シードル」
「皇帝閣下……いえ、”我が友”モルト。
たとえ貴方であっても、ノックくらいあっても良かったのではないですか?」
いたずらに微笑み、モルトをメガネ越しに見つめる。
「『お前たちは、まだ息を紡ぐに価値在るモノ。素晴らしき生命。
神より認められし高き誉れの名の下に、お前たちの栄える鮮やかな物語を綴るがいい……』
その神話の先に続く言葉を心の御旗に、我々は進んできた」
読んでいた書物をひょい、と取りあげてページをめくる。
「この世のすべてが破壊された後、残った者が新たな住民の祖となる。
よくある洪水型始祖神話だが……誰でも知っている御伽噺だからこそ民草の統一に相応しい」
したり顔でコーヒーを飲み干す。
モルトが本を抱えながら、窓際より白雲の増えた空を仰ぎ見る。
「お前と私が考えた、意志の統一方法。
そして神に選ばれし我らと対を成す、選ばれなかった者達」
「それが、”亜人”。神に選ばれず認められなかった亜人は」
「価値は在らず、栄えるに値しない」
彼らが、幾度となく合言葉のように繰り返してきた言葉なのだろう。
モルトの言葉に、即座にシードルは言葉を返す。
彼らが世界を統一せんとする理由。
亜人を排斥する理由。
その中心に、神話の解釈がある。
人とは、共通の理解できる話題があれば共感や親近感を覚える。
それでは仲良くなってお仕舞いだが、そこに解釈を植え付けて”元よりそういう意味だった”と刷り込むことで思考を誘導する。
そしてそれを権力と組み合わせる。
扇動の基本である。
「奴らは、野蛮な種だ。
動物より我々に近しい種なぞ、認められぬ。
どう見てもケダモノではないか」
そう語るモルトの眼に浮かぶものは、負の感情の揺らぎが垣間見える。
「神話だけではない、やつらが選ばれなかった者であることは私が明々白々、身を以て知っている。
一刻も早く、我ら人類という女神に認められし種族のみが支配する星にするのだ」
言葉に意思が、決意がこもる。
「そのために、私たちが出来ることとは」
「貴様も分かっておろう。
先に仕掛けた九重共和国との戦争。
これを制することだ。
弱きものは滅ぶ、強きものは生き残る。
我らが価値のある、女神の加護を受けた人類であるならば。
最後に残るのは我らブラダガム帝国のみ」
その言葉を聞き、シードルは微笑む。
「なれば、我が友。
誰が価値ある存在なのか、民や世界に示そう。
この戦争の果てに残る、最後の勝利者として」
「これは国家間の戦争であり、また種族間の生存戦争でもある。
我々帝国のヒト……人民が最後に残る勝利者、だ」
椅子に座り、肘をつく口元に手をかざすシードル。
その言葉を聞くや否やニヤリと微笑み目を細めるのであった。
微笑みは、手に遮られてモルトの目には映らなかったのであった。
「そうだな、”最後の勝利者”になろう」
ブラダガム帝国の宣戦布告から1週間後、春の晴れた空が泣き始めた頃の話である。
【ライナーノーツ】
1 タイトル元ネタ:
機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORYの曲「Winner」
東方Project 二次創作東方ボーカル「who killed u.n.owen」
から




