第56話 Neck and Neck
「メアリー・ブルーオードはじめ負傷兵を回収いたします。
回復の後、またエムル様の配下に配属いたします」
「よろしく頼んだ」
ヒーリングポッドに入れられたメアリーと、イゾルディアの積載作業にエムルは立ち会っている。
機体の方はエンジン部を損傷しなかったため、木っ端微塵にはならずに済んだ。
とは言え、小規模の爆発でコックピットはズタボロなら、腕ももげた状態。
修理は必須である。
眠るメアリー。エムルはポッドにそっと優しく手を当てる。
「お前と同じだけの傷を、いつか奴に……ん?」
首元に光る、円筒のネックレスがエムルの目に飛び込む。
これは……そうだ。
ヒヅルが首から下げていたネックレスだ!
なぜ彼女が奴と同じものを?
エムルはその理由を、今は知る由もなかった。
「至急!全員ブリッジに集まれ!」
オールアイの声が艦内全域に響き渡る。
銀髪を揺らし、エムルは飛び立つ輸送機に背を向けた。
ブリッジ。オールアイが今後の作戦を説明し始めた。
「全軍に告ぐ!いよいよ大詰めである!
先の戦いで散った無念の同志のため、明日あの小さな島を落とす!
夜明けとともに全部隊出撃!
エムル隊、ボイハール隊は伊忌島砲台地点を破壊!
歩兵とPS部隊は敵の洞穴より中央部に侵入・制圧!
FS部隊は……あっ」
オールアイを遮り、ラインハルトが続きを述べる。
「FS部隊、空から行ける奴らは島後方に回り込め!挟み撃ちしな!
後から俺が出る!海上部隊は俺の攻撃に巻き込まれないようにしなあ!
とにかく殺しまくれ、以上!
時間に備えな、各自持ち場!」
ラインハルトの悪辣な濁声が終わるとともに各員が散る。
「よろしいのですか?敵の水資源を絶った以上、もう少し待って敵が弱ってからでも」
「ダメだ。カンナギ隊所属機が直って出てきたら?
それこそ頭数で言えばこっちが厳しくなるだろうが」
葉巻の吸い殻を、ラインハルトは放り投げる。
「ホロボロスの準備は?」
「出来ております。私とて、指揮は貴方に負けず劣らずです。
艦は安心してお任せください」
まっすぐな瞳で、梟は上司を見つめる。
気づかない振りをしてその上司は背を向ける。
「落としてみろ、その首輪に電撃流すぜ」
あと数時間で夜が明ける。
海は不気味なほどに静かであった。
伊忌島。
リンドウが軍服に袖を通しながら司令室へと入ってきた。
が、そこには先客がいた。
「仕掛けて来る、と思ったのだろう」
「流石、前大戦を生き抜いた戦略眼ですね。
ジェイ」
「なんとなく、そう思っただけのことよ」
老練の兵たちは、既に準備に取り掛かる。
「ヤツの性格を考えるなら?」
「ワシが思うに同時多方面展開よ。
海中兵備は帝国にはまだ無い。
ならば、背後からの奇襲に対して、更に海中部隊がそれを奇襲する」
「同感です。空は数を揃えられる玄蜂MK-4に、リニアキャノンやビームランチャーのアームズを装備させて対応しましょう」
「必要に応じてアームズを切り離し、地上部隊へ兵装補給、か」
「互角以上に持ち込めるでしょう」
まるで互いの意思が読めるかの如く、作戦が組み上がる。
「そして、地上は」
「引き付けたのち」
「満を持して砂浜のC爆弾を爆破」
「地下迷路の出入り口に隠した兵装で、ありったけ撃つ」
「私の兵をバンザイ突撃させないよう」
「ワシが命を無駄に使うとでも?」
「かつて私達全員を逃がしてくれた男、かと」
自分達の命脈が絶たれるかもしれぬ、というのに彼らの声は喜びに満ちている。
「私たちの命、あなたに預けましたよ。ですがラインハルトの対応は?」
ジェイが黙りこくる。その横顔には迷いが見える。
「ワシも取りたくはない、だがその手段しか」
「分かっています。ヒヅル君をぶつけるのですね」
「ウム……」
カンナギ隊で、満足に前で戦える戦力は彼しかいない。
フィリスもいるが彼女の機体特性上、数に対応して欲しいのが本音だ。
「だが、彼でもクニヒト……ラインハルトには勝てるかどうか」
「ウム……そこがネックだな」
将来ある若者に島の命運を委ねる。
聞こえはいいが、それは同時に若者に負いきれぬ責任を負わせることと同義だ。
夜明けの寒さと静けさの中、突然アラートが鳴り響く。
首を討ち取らんと、ラインハルトが近づいている。
「「敵襲!!!」」
ジェイとリンドウが同時に叫ぶ!
「もはや迷う余地はない!」
「これが、ヤツとの最終決着です!」
【ライナーノーツ】
1 タイトル元ネタ:neck and neck→英語の慣用句で「互角に、負けず劣らず」の意味。




