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輪廻創世 アルヴァーナ  作者: ひやニキ
Chapter4 伊忌島からの凱歌 後編
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第55話 策謀の天秤(リブラ)

 コーヒーを淹れ、古き伝承を読み解く。

この時間は実に優雅だ。仕事の疲れを癒す。


最近は忙しいことが多かった。

ヴァルカン半島をはじめ、内紛を起こす民の鎮圧。

南米、九重共和国国境線での農地問題に端を発する紛争。


馬鹿とやり合うことは本当にうんざりだ。

しかしそんな中でも、こうして自分の時間を楽しむ余裕ができたのは喜ばしかった。


「シードル様、失礼します。伝令の者から伊忌島についての近況です」


この言葉が飛び込むまでは、だが。

「ようやくちっぽけな島を陥せましたか?

ずいぶんと遅かったですね」

本を目線からおろし、仏頂面で部下へ目をやる。


「いえ、それが……。

ラインハルト隊はカンナギの主砲がかすめた一撃、そうたったの一撃で約30%の兵力を失ったとのことです……」

青ざめた顔で、部下が報告する。


そうか、思った以上に早かったか。

ガーンディーヴァ、あの武器をここで使ってくれたことはなんと幸いなことか。

つい、口の端から笑みが溢れる。


「……シードル様?」

「ヴァッカ連邦首都、モーン・カツォーノへ伝令を派遣してください。

考えてもみてください、ナパームですら非人道的という風潮が高まっているのです。


これは、『九重共和国が戦術兵器を使った』という名目で糾弾するチャンスです。

この大義名分を元に、ヴァッカ連邦を中立から味方に引き入れるのです」


「ハッ!手続きを開始いたします。

さっそくノッキーン・ノルズ外務大臣へ連絡を」

「ストップ、此度は私も外務大臣に付き添います」


 話の重さ、命の重さ、役割の重さ。

これらの駒を天秤に乗せ、その時何が大事かを人間は選択してしまう。


ヒトという生き物は簡単だ。

お題目というのはいつも円滑な仕事の足を引っ張る。

しかし、上手く使えば味方を作る力になる。


連邦に対し、共和国制圧への協力要請ができれば、より"選別"ができる。


何かを確信したシードルは、再び伝承に目をやる。

伝承の挿絵に描かれた神様は、真っ直ぐにシードルに微笑みかけているようであった。





 ブラダガム帝国首都、開発室。

「カンナギが、戦術兵器を使った……?」

「先ほどなんかそんな感じのことを」


エンジニア達の雑談を聞き『そんなはずは』とシキは思わずにはいられなかった。


もしかしてガーンディーヴァを使用した?

その力も『来るべき脅威の時』以外に使えぬようリミッターをかけたはず。


「そう……ですか。

今後九重はどうなるでしょうかね」

顎に手を当て、俯く。



「難しいことは僕たち技術士には分かりませんなぁ。

だけんども、非難はされそうっすねえ。


それこそ、核兵器撃たれても文句言えないっすよ。

あ!僕ぁ、親族をグラウンド・ゼロ事件で失ってるから核が使われるのは嫌っすよ?


だから、新しいエンジンにも前向きになれませんで」



その言葉にシキの思考は即座に理系男子になる。

はぁ、ここにも核の違いが分からぬ技術者か、と頭を抱えずにいられなかった。


「あのですねぇ、『核分裂』と『核融合』は違った技術ですよ。

グラウンド・ゼロ事件は『核分裂』の実験失敗による大規模被曝被害です。

我々が今着手しているのは『核融合』エンジンです。


現物の開発に至る前に、しっかり勉強しないと自分が怪我をしますよ?」


シキはペラペラと両者の違いを話し出した。

周りはまた始まった、という顔を隠せない。


実際シキが連行・従事させられてからというもの、ブラダガム全体の技術力は大幅に向上した。


ゴブMK2や、今は遠距離射撃用量産機の『ロプス』も完成間近だ。


若くしてこれだけの智慧と引き換えにこの性格。

たまったものではない。



「結果、原子炉の暴走リスクを孕んだ核分裂と違い、核融合は連鎖反応が起きないため安定性が高い状態を保てる。

エンジンの小型化も可能なため、無駄な重量を省いた機体すら作れるのです」


「センセー、戻ってきてくださいな」

パン、とシキの前で手を叩く。

「あ、あぁすいません」


大きな音で我に帰る。

そうだ、ヒヅル達の今後について先手を打たなくては。

サイバーベルで地図を開き、一寸(ちょっと)考えを巡らす。


シードルの思考を考えるんだ。

戦争名目としての士気高揚、それとも対抗戦術兵器の開発か?

いや、補給路の分断という手も。


次の一手を補給路を断つと仮定するなら、侵略、貨幣、貿易停止……。

!!!!

これは、まさか!


「席を外します。熱が入りすぎましたね。

先程は蘊蓄を垂れて申し訳ございません」

「いやぁ〜いいでさぁ先生。休みも重要っすよ」


たんまりと積まれた書類を椅子代わりに座る、くたびれた技術者達が手を振る中、静かに退室をする。


ゆっくりしてる場合ではない。

彼らに背負わせるには、重すぎる業になりかねない。


嗚呼、早く。

早くしないと、世界すべてがヒヅルの敵になる!!

【ライナーノーツ】

1 タイトル元ネタ:「リブラ」=天秤。または「重さ、重量」を表す。

2 機体について:

ロプス→サイクロプスより。モノアイの遠距離専用量産機です。


3 キャラクターについて

ノッキーン・ノルズ外務大臣→ノッキーン・ヒルズという強いお酒から。

ブラダガム中枢は名前に飲料系から取ってる人が多いです。

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