第54話 ディパート・オブ・アス
「こちらフィリス。いえ、・・・です。
はい。繋いでください。
…………。
私です、フィリスです。
お久しぶりです。緊急の報告です。
カンナギの主砲ガーンディーヴァに関することで……はい、そうです。
今回は80%ほどの出力でしたが、それでも建造時データに直すと160%にも登ります。
……いいえ、そうは申し上げておりません。
ただ、明らかな秘匿若しくは改ざんがされているということです。
このような過ぎたる力は脅威となりかねません、即刻対策を練るべきことを進言します。
……はい、ですが。
分かっております、すぐには難しいことは。
では、よろしくお願いいたします。
また進展がございましたら連絡いたします。
それでは」
電話を切った後、フィリスは一人静けさの中立ち尽くすのであった。
カンナギ内独房。
この艦が運用されてこんなにも短い期間で独房が一つ埋まるとは。
独りぽつんと、この冷たい牢獄に囚われた女性がいた。
「あーあ、つまんないにゃあ。
これじゃあ家から出してもらえない飼い猫と同じじゃないのん」
ウォルノの奇策の前に大敗を喫したキャッフェは、カンナギ隊に鹵獲された。
本人も捕虜扱いとして独房にぶち込まれる羽目になったのだ。
「まだブラダガムで奴隷やってる方がマシ、だねこの扱い。
んにゃーーあぁもう!」
「ほぉーーーォ、まだ喚く元気はあると見えた。
皮剥いで三味線にでもしてやるか?今よりもっと良い音色が出るだろうなァ」
ナイフで皮を剥ぐようなジェスチャーをする。
独房に、ミランダとともに来たウォルノが皮肉を飛ばす。
「……飼いならされた駄犬が」
「おぉい、いいのかいそんな口利いて。吠えかかられたら折角持ってきてやった食事をひっくり返しちまうかもしれねェ」
「チッ」
本当に気に食わない。
それは単に負けたからではなく、何を言っても減らず口で返される態度がとてもいけ好かないのだ。
もしこの男が友軍だったら、背後から即撃ち殺していたことだろう。
なんならプレートを置きにしゃがんでいるこの瞬間にも撃ち殺したい。
「いい加減にしなさい、ウォルノ。
お嬢さん、改めてまずはアナタのことを聞いていいかしら」
「へえ、そっちの白髪エルフは話が出来そうじゃにゃい。
アタシはキャッフェ・ラッテ。ブラダガム帝国で奴隷徴兵された半亜人よ」
尻尾を優雅にくねくねさせている。
「そう、キャッフェね。私はこの艦の艦長」
「キャプテン・ミランダ・クック」
いきなり敵に名前を言われ、ミランダはたじろぐ。
俯いて何かを考えた後、また口を開いた。
「あなたの処遇ですが、もし帝国やラインハルト隊の情報を開示するというのであれば、収容所に送ることも差し控えたいと考えております。
いかがでしょうか」
「交渉、というわけねこの話」
内心、ミランダも彼女を収容所に送るのを躊躇った。
この少女に今後奴隷に近い生活を強いる気になれなかった。
加えて亜人をヒトと見なさず、圧政を敷いてきたブラダガムのことだ。
国への忠誠心が積極的にあるとは思えない。
ゆえに簡単に情報を渡すと踏んだがための判断だ。
そちらの思惑は当然キャッフェも察するところだった。
「エルフさんの思う通り、ブラダガムがどうなろうと知ったことじゃにゃい。
だから情報を渡すのは構わない、が」
「が……?」
鋭い眼差しでキャッフェが話す。
ミランダとウォルノがその後の言葉をジッと待つ。
「しょ、正直言うと殆どないんだなあこれが。にゃはん♡」
「ミランダ、銃の引き金はいつでも引けるぜ」
「ああああう、本当なんだってば!
いきなりラインハルトのオジ様のとこに監視で配備されたんだってばぁ!」
ミランダが手の動作でウォルノを制止する。
「分かったわ、では質問を変えます。
……あなたの機体、なぜ我々のFSに似ているの?」
ウォルノが眉をぴくりとした。
彼も先の戦闘で気になっていた点だ。
「いきなり渡された機体よん、分かるわけ……あれ?
気になってることは、にゃいことは」
「!!!早く話せ!」
ウォルノが急に大声を出したため、女性陣はビクッとした。
「焦っちゃダメダメだわよん。
元々盗みや諜報が大の得意のこのアタシ。
ある日その腕を買われて、本国からラインハルトの監視役として送られて、アッ、しまったのだー!」
興が乗ってきたのか、芝居にかかった話を始めた。
「鋭いこのキャッフェ様は気づいてしまう。
それはヤツらね、この島と艦の事情にやたら詳しいってコ・ト♡
射程距離やエース機、戦い方までなんでもござれ。
アンタ達の名前も知ってたわよん」
だからさっきミランダの名を。
確かに、敵の旗艦はカンナギの射程圏外ギリギリだった。
なんならラインハルトも情報の網を掻い潜って末に、一度島に到達までしている。
「つまり、それは」
「いるんじゃにゃいかな、この島にネズミが」
ミランダとウォルノは表情を変えない。
「見える見える、アンタたちの動揺が。
でもいるのよ。従順な、飼い慣らされたペットの皮を被って。
今か今かご主人の首元にその爪と牙を」
「突き立てる瞬間をね」
一息置いて、ニヤニヤとしながら語る。
「つまり、アナタは私達の身近にスパイがいる。
そのスパイが島や機体のデータを盗んだから、あなたの機体」
「キャッシード」
「そう、キャッシードは私達のデータをもとに作られていると」
ウォルノは薄々、この不吉な予感を感じていた。
「確定的な証拠はねェ。
だが、敵さんの様子を考えると……いるとしか思えねェ」
重い沈黙が、鉄格子だらけの空間にのしかかる。
その沈黙をミランダが破る。
「分かりました、一旦あなたの身柄と機体はこちらで預かり保留とさせて頂きます。
スパイの件はまた後ほど考えることとし、この情報は取り扱いに厳重注意しましょう」
何かを考え込み、話半分にウォルノが頷く。
「では、また後ほど。可愛い猫さん」
ミランダが微笑み振り返る。
2人が立ち去る。
出された飯をジッと見つめる。
少しの焼き魚とご飯が盛られている。
おもむろにキャッフェはご飯をつかみ、魚を齧る。
「……飯はこっちの方が好みねぇ」
ほんの少しだけ、彼女は微笑むのであった。
【ライナーノーツ】
1 タイトル元ネタ:「パート・オブ・ミー」 現代の“ポップミュージック界の歌姫”の異名を持つ、ケイティ・ペリーの曲。
私の一部⇔我々からの逸脱。
"誰が本当の味方か"




