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輪廻創世 アルヴァーナ  作者: ひやニキ
Chapter4 伊忌島からの凱歌 後編
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第53話 汚れちまった悲しみを

 予想外の事態に、皆が疲弊していた。


撃ち返しをしてしまった島の指揮。

秘匿されていたカンナギの強すぎる力。

そしてヒヅルの一撃。


ブリーフィングの場にいる全員が、心にしこりを残したままこの場に揃っている。

数字上は敵の何倍もの戦果を上げたと言えるのに、だ。


卓を囲み、重苦しい表情をした面々の姿はまるで、葬式で故人を囲む親族たちのようだ。


「正直、カンナギ隊の皆には申し訳ない。

あれほどまでの戦術兵器を用いてしまったのは、明らかに判断ミスであり、私の責任だ」


「でもよォ、ミランダも知らされてなかったんだろ?

事前に知らされていたよりも何倍も威力が上だとか。


加えて今俺たちは戦争、してんだぜ。

命の奪い合いしてんだ、敵も死ぬ覚悟で来てるなら仕方のねェことさ」


腕を組み、ミランダの瞳を見つめるウォルノの表情はいつになく柔和だ。

彼なりの寄り添い、なのだろう。


「それはそう、だが私が懸念している点がある。

それはだな」

両の手を合わせ、下を向く。

「ガーンディーヴァの威力を敵に早い段階で晒してしまったことだ。

戦とは情報戦、見方によっては情報を漏らしてしまった。

知らなかったでは済まされない」


腕を組み曇った表情のウォルノが発言する。

「俺も気になる点があるぜ。

あの鹵獲した猫野郎。

アイツの機体データは俺のヤクシャやキャーシャの融合みてえだ。

それこそどこからかデータが……いや忘れてくれ」



「情報戦なら、私も敗北に直結する失敗を犯してしまいました」

リンドウが眉間に皺を寄せながら、口を開く。

こんなにも険しい彼を、ヒヅルは未だかつて見たことがなかった。


「こちらの砲台の位置を晒してしまいました。

ラインハルトは艦砲射撃とFSを駆使して、的確に潰してくるでしょう。

その時が最後、我々は丸裸同然です」


「それだけではない。

ワシが報告を受けているところでは、エムル隊により島南部、山裏の貯水タンクの1つに損害だ。

干上がるのも時間の問題であろう」


軍帽を目深に被り、唸るように発言するジェイの様子が、ことの深刻さを表している。


「結論、我々は窮地だ。

ヤクシャもショックカノンの影響で一部回路は焼き切れ。

ジェゴ隊も急いで修理中だ」


「デモ、ミランダ艦長。

手段はどうであれ、敵の戦力を削ったのは大きな前進ヨ!


これからあの主砲、バンバン使えばラインハルトも帝国も一撃ネ!」

勢いよく立ち上がり、拳を突き出すチョウ。

空元気なのは誰の目からも明らかだ。


「チョウ、そうはいかないの。

高威力戦術兵器の域に達したものは、政治的にも難しい。


行き過ぎた戦術兵器の乱用は、そのうちより大きな敵の戦術兵器の開発に繋がりかねない。


私はそんな血を吐きながら続ける悲しいマラソンは望んでないわ」


「艦長の言うこともおっしゃる通りです。

戦争にもルールや暗黙の了解はある。


でなければ核が飛び交い絶滅戦争すら起きかねないのが人、という生き物です」


チョウは意見が通らず、ぷぅとした顔だ。

ところが、何かを思い出し今度はぱぁと笑顔になる。

「あと、ヒヅルもフィリスも、ウォルノも。

みんな敵を退けて守りきったヨ!

これはちゃんとした前進!!」


チョウの言葉で、ヒヅルはフラッシュバックする。

あの時、僕はあくまでエムルを止めたかった。

でも結果は妹を自らの手で"2度目の死"に追い込もうとしている。


開いた両の手を見る。

血と泥に塗れたようなその手が一瞬幻覚のように映る。


「僕は、僕は……!」

少年は立ち上がりブリーフィングルームを出ていく。

「オイ、ヒヅル!」

慌ててウォルノが追いかける。




 「おい待てよ!どうしちまったんだ?」

追いかけてきたウォルノに腕を掴まれる。

強い力に抗うことができず、その場で立ち止まることしかできなかった。


「僕は、妹をもう一度殺しかけた。

本当はエムルと、分かり合えるかもと思ってしたのに。

それなのに……!」

「なぁ、ヒヅル」


ウォルノの呼びかけに振り向くと同時にパァンと言う音が響いた。

ヒヅルは一瞬何が起きたか分からず、その後を追って平手打ちの痛みを知覚した。


「あのなァ、お前が倒したのは確かに妹かもしれねェなあ。


だがよ、敵である限り討つ相手は選べねえ。

それが戦争だろうがよォ。


お前はその手で何人も敵を討った。

それが肉親なら銃を向けられねえってのは違う」


そうだ、それはウォルノの言う通りだ。

反論の余地もなく押し黙る。


「貧乏くさい狐の皮衣で、自分を誤魔化すんじゃあねぇよ。

お前がその手で守れる数は決まってる。

この基地の人、お前の故郷。


それを守るのを放棄して、相対した妹を選ぶのか?

お前の手だけでは、両方は守れねェ」


「そんなこと!分かってるさ!!」

「いいや、分かってねェ。いや……気づいてないが正しいか」

ずい、とウォルノの鼻先が目の前に来る。


「俺は、お前の手『だけでは』って言ったんだ。

フィリスがなんのために、妹さんを救う手助けするって言葉くれたと思ってんだ」

彼の瞳は真っ直ぐに澄んでいる。


「1人では片方しか選べなくても、みんなでなら両方取れる可能性があるからだろ?


最悪討つしかなくても、お前に肉親を殺させたくないって理解してやってもいいんじゃあねぇか?」

優しい言葉をかけてくれた時の、フィリスの微笑みを思い出す。


そうだ、今回だって僕とセイラが撃ち合わなくていいように引き付けてくれた。

最大限努力をしてくれた。


「ありが……とう」

短い言葉しか返してあげられない自分がもどかしい。


「バカかぁ?それはフィリスに言いな!

てーか、もっと周りを頼れ!

フィリスも、俺もいるんだからよ〜〜ォ。

自分1人で無理なことは人に相談していいんだぜ?」

「……そう、だね」

ヒヅルがぎこちなく笑い返す。

2人で並んでブリーフィングルームに足を向ける。


「あ、あとな」

ウォルノが立ち止まる。

「お前の手は汚れちゃいねェよ。

ただ、大事なモンを守って生かそうとしてるだけだ。

たまたまその手段が銃、ってだけさ」


ヒヅルは凝っと手を見る。

そこには綺麗な手のひらが、開かれていた。

【ライナーノーツ】

1 タイトル元ネタ:中原中也 「汚れちまつた悲しみに」

2 描写について

・血を吐きながら続ける悲しいマラソン→ウルトラセブン「超兵器R1号」の回。名言。

・「狐の皮衣」→汚れちまつた悲しみに、のワンフレーズ

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