第52話 メンタル・チェンジ
カンナギの主砲は、射程圏から抜け出したラインハルトには当たらなかった。
だが、敵に大打撃を与えるには十分だった。
「な、なんだぁこいつは……話に聞いてたのと違うじゃねえか……」
ラインハルトも想定外の威力を目の前で見せつけられ、言葉が出てこない。
冷や汗が止まらない。
恐怖。圧倒的な力による一撃に恐怖を見てしまったのだ。
射戦場にいた数多の母艦と、多数の小隊が光に飲まれ塵芥と化した。
「て、敵損害多数……凄いネ」
「そんな……!
私の聞いてたスペックでは、ここまでのことは……!!」
思わぬ威力に恐れ慄くミランダ。
だがどんなに想定と違う結果を見せつけられたとしても動じない歴戦の雄が言葉を発する。
ジェイだ。
「我が隊の状況は?」
軍帽を下げ、目を見せぬまま確認を行う。
「ジェゴ隊、中破につき収容済み。
ヒヅルとフィリスは交戦継続中です!
島はまだ落ちてません!」
「害獣駆除」
「もうやめて、アナタのためにも……ヒヅルのためにも!」
メアリーがシールド先端のビームガンを乱射するも、フィリスは空中機動で回避する。
あんな武器は今まで使ってこなかった。焦り始めてるのね。
「左から回り込めば!」
予想通りイゾルディアが振り向き動作をする、その一瞬のスキを見逃さなかった。
「あなたを止めるためには!」
「させない」
マドゥ=クシャのビームが右足を貫く。
方やイゾルディアもビームガンを頭部に命中させる。
「くっ……ホバーと跳躍のみ可。戦闘続行不能」
「相打ち!?こちらフィリス、戦闘続行不能につき帰投します!」
「メアリー!!!」
(……?彼が、味方に問いかけた?)
エムルの反応に、ヒヅルは違和感を覚えた。
「これだけの。これだけの戦術兵器で多くの命を奪う。
それが貴様の言う『希望』か!ヒヅル・オオミカァ!!」
エムルからすれば、目を覆いたくなるような味方の損害。
その怒りをヒヅルに責苦として八つ当たりする。
だが、昨日よりも数日前よりもずっと強くなったヒヅルは動じない。
「僕は、僕の独りよがりな想いで戦ってるわけじゃない」
「……なに?」
ビームセイバーが少しばかり、バスターソードを押し返す。
「僕は、この先を生きる人が平和に生きられる世界のために戦っている。
それが一つの希望の形。
本当はお前も分かってきてるんじゃないのか?」
「分かることなど!」
「じゃなければさっきから味方に配慮など!
僕が今まで知る君は、それこそ独りよがりで」
「分かった気になって!」
とうとうアマテラスがメドラードの大剣を弾き返した。
「より信頼を父上から得るため!心からなど」
「やってみせるだろうよ!!!」
ピーッ!ピーッ!
「皇太子さんよ、そこまでだ」
「ラインハルト!」
すんでのところで、ラインハルトはエムルを制止する。
「盛り上がってるとこ悪いが一時撤退だ。
てめえも見たろ、あの一撃をよお?
こっちの旗色が一気に悪くなったんだ、分かるだろ」
「くっ……了解」
ラインハルトの軍が方々から撤退する。
もう少しで島を攻め落とされかねなかった九重軍としては僥倖、であろう。
負傷したメアリーも、素直に従う意向だ。
「撤退です。エムル様」
「分かっている!」
無論、エムルは腹の中に据えかねる思いが。
いや、振り切ることの出来ぬ楔が打ち込まれたかのようだ。
「……!待て、エムル!」
もう少し、もう少しでエムルと”対話”が。
(エネルギーは……残り1発くらいか!)
引き止めなくては。せめて、スラスターに当てれば。
その想いで日照の照準を合わせ、撃った。
だが、それは間違いであった。
「何ィ!?」
「危険」
虚を突かれたエムルの防御に、メアリーはすかさず反応したのだが、当たりどころは最悪であった。
緑の閃光はイゾルディアの右胸部を貫き、腕もろとも吹っ飛ばした。
「「!!!」」
想定外のその光景に、ヒヅルもエムルも目を見開き言葉を失った。
我に帰ったエムルは即座に部下を掴み上げる。
「生体反応は……あり!!
メアリー、メアリー!?応答しろ!!
………。ヒヅル……貴様ァァ!」
カメラアイがダウンしたイゾルディアを抱えつつ、射撃牽制し飛び去るのが精一杯だった。
エムルは雑多な感情と、言葉で脳のメモリがはち切れそうだ。
「まさか……やってしまった」
感情の処理が追いつかないのはヒヅルも同様だった。
今まで散々交戦しては攻撃を受けて与えてだったが今回はそのレヴェルの話ではない。
下手したら自らの手で妹を殺していたかもしれない。
2度も妹を死に追いやったかもしれない。
その罪悪感の黒汁が、ぽたりぽたりと心に沁みゆくのを心身五感で感じた。
「カンナギ隊の皆さん、一旦脅威は去りました。
結果としては惨憺たるものですが。
帰投してください」
去りゆく脅威に、束の間の安堵と深い禍根がそこには残されるのみであった。




