第50話 キャット&ウルフ 後編
「各機地上戦準備!キャッシードが突き崩した間に上陸せよ!」
「エムル、そうはさせるか!」
エムルの部隊にヒヅルは向き直る。
「ハヤテ、残弾1!パージシテ身軽ニスベキ!」
「チィっ!」
アマテラスのウェポンラックからハヤテが外れると共に、ミサイルの雨が降り注ぐ。
「セイラか!」
「敵は……排除」
「お前の相手は私だーーッ!」
イゾルディアの着地に合わせ、マドゥ=クシャが飛び蹴りを入れる。
「またウザ猫」
「何度でも!」
猫といえばキャッフェの方はと言うと。
「逃げるだけじゃ勝てないよ〜、ワンちゃん」
ワイヤーを使って逃げるヤクシャを追っていた。
「なぁ、リィロン。俺が尻尾巻いたらそん時はよろしくな」
「一緒ニ死ネ、ト?」
「俺の代わりにお前が討て、ってこたァ!」
腕と腰のワイヤーを使い空中を右へ左へ逃げるウォルノ。
エネルギー残量からショックカノンを避けるのが精一杯である。
「こうしてる間にも、俺らのホームが危ねェってのによ」
遠くカンナギが海上で敵の攻勢を受け止めている様子は、ウォルノにもありありと分かる。
「くそっ、敵が多すぎる!」
「プレディ、弱音を吐くよりもガンで落とす!」
「リン、こっちはPSを5機落とした!」
「カルジさっすがぁ!私も!」
ジェゴ3人組が艦上で奮戦する。
「隊長、こっちはなんとか……うあっ!」
「「リン!」」
リンのジェゴが敵の砲弾を喰らって片足を持っていかれる。
「あっちはあっちでそろそろヤバいな。
リィロン、南の方角にワイヤーを!」
「逃げてばかりじゃ勝てないんだゾッ!」
猛烈に追いかけてくるキャッシードを振り払い、ワイヤーで逃げるヤクシャだがショックカノンを一発もらってしまう。
「ガッ!チキショウッ!もう少しだってのに」
「コッチニ逃ゲテモ島ノ東端ニ追イ詰メラレルダケダゾ!」
「違うな」
ウォルノが短くリィロンに反論する。
「違うな、そこまで着きゃ俺の勝ち、だぜ」
「そんにゃ高く飛んだところで!!」
追いかけるキャッフェが高く飛んだ瞬間を、ウォルノは逃さなかった。
「よし今だ!!テールワイヤー!射出!!」
真っ直ぐキャッシードの顔めがけてワイヤーが伸びる。
「当たれェェェ!」
「にゃんと!?」
勝った!と思った矢先。
「なーんてにゃ♪」
即座に人型に戻り、ブーストダッシュで真上に避けられる。
飛ばしたテールワイヤーは虚しくも、砂浜の方へ空を切るのみであった……。
「……な、なんてこった!!」
「エネルギー残量3%、コノ先海。文字通リ崖ップチダナ」
「万策尽きたねこの負け犬さん♪」
着地をし、キャッシードに振り返る。
「ハァ〜〜ッやめやめ」
コックピットを開き、両手を上げ、立ち上がる。
「ん?降伏するつもり?」
血に染まる海岸地帯を背に、丘に降り立つキャッシード。
キャッフェが見上げると、コックピットから出てくる1人の青年の姿があった。
「オウ、聞こえてんだろ。猫女のパイロット。
この通りだ、もう勝負はついたろ?
つーわけでゲームセットだ」
とは言え、キャッフェもそんな簡単に敵の言葉を信用はしない。
ビームピストルを真っ直ぐ、ヤクシャの胸に構える。
「抵抗の意思無し、ということかにゃ?」
「抵抗する意味がねェ。
俺の機体はもう動けねェし、逃げようにもこの先は海だぜ?」
「……。ならその胸に隠した拳銃も捨ててもらう」
「チッ、バレバレってか。ホレよ」
見透かされていた。
胸から拳銃とナイフを遥か下の岩場へ放り投げる。
今度こそウォルノ自身、丸腰だ。
「ところであんた『猫に鰹節』って言葉知ってるか?」
「は?負け犬と世間話など」
「まぁ聞けよ。鰹節、っつーのは猫の好物だ。
だから猫の近くに鰹節置いておくのはあぶねェ、転じて『油断できない状況』ってのを指す諺さ」
キャッフェは脈絡の無い話に戸惑いを隠せない。
この男は一体何の話をしているのだろう。
「貴様、私が油断をしていると愚弄する気?」
「ちげェさ。アンタの乗りこなし、俺の作戦を見破る目、今の今まで全く油断すら無かったぜ。
むしろ、油断できない状況は俺だった」
「にゃめるな!念には念を、手を頭の後ろに置いて背中を向けろ!」
「はいはい、だが見てくれよ。
俺はこの立派な尻尾の下にだって、もうブツは隠してないぜ」
そういった瞬間、ウォルノは"尻尾を巻いた"。
「そう、今の今まで、な」
「テールワイヤー回収!尻尾ヲ巻キ取ルニイ!」
ウォルノがテールワイヤーを飛ばしたのは、キャッフェに当てるためでは無い。
"それ"に引っかけるためだ。
テールワイヤーの先は、海岸の岩に立てかけたハヤテの引き金にグルリと巻きついている。
ワイヤーが巻き取られると同時に、ハヤテの引き金が引かれる!!
発砲されたハヤテの砲身の先は……
「東南東112.5度、地上から傾斜30度の砲身の先。
ここまで上手く誘導できるとはなァ」
「!!!まさか!?」
「もう遅ェ」
撃ち出された弾は真っ直ぐに、キャッシードの左胸を撃ち抜いた。
「油断できねェから俺は"それ"を猫から遠ざけたんだぜ」
「んにゃああぁぁ!左半身動力消失、機能停止!
戦闘続行不能!この嘘つき!!」
「『勝負はついた』とは言ったが」
人差し指をビシッと地に伏した猫に突き立てる。
「『俺の負けだ』とは一言も言ってねえぜ?」
キャッフェがセンサー画面を思い切り叩く。
「くっ、くっそおおぉぉぉぉ!!」
負け猫の遠吠えが大空に響くのだった。
「リィロンありがとなァ!
尻尾を巻いた瞬間のこと、よろしく頼んで正解だったぜ!」
ンニイ、と短くコックピット内から返答がかえる。
座席に戻り、ウォルノが一息つく。
「しっかし勝負に勝って試合は負け……ミッション・アンコンプリート、だな」
その言葉と共に、エネルギーダウンしたヤクシャの目がライトダウンした。




