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輪廻創世 アルヴァーナ  作者: ひやニキ
Chapter4 伊忌島からの凱歌 後編
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第42話 葛藤の心気楼 ~conflict mirage~ 前編

 嗚呼、暖かく柔らかい。

この感触は一体なんだろうか。


ふと体を動かそうとする。

すると四肢が、胴体が、どくんと脈を打つような痛みに襲われる。


目を開けようと努力をする。

重い瞼が、ゆっくりと開く。


「……」

「おやぁ、起きたのかい。ヒヅルくん」


扇状的な声、赤紫の長髪。

ベッドの側でジェーンが点滴を外していた。


「さてさて、艦内共有に起きた旨を伝えようかしらねぇ。

頭はハッキリしてる?これ、何本?」

「2本……です」


立てられた親指と小指を見ながら、ヒヅルは小声で解答をする。

「あの……僕は一体?」

「んん?アナタが砂浜で虐待されたペットみたいになってるところを、巡回中のイチマルキュウ部隊が見つけてね。


敵襲でも侵入したのかって、丸3日みんな大騒ぎよ」


そうか……僕がラインハルトに遭遇して3日も……3日!?


「み、3日ですか!島は!ラインハルトは!

どうなってるんですか!」

「ハイハイ、騒がない坊や。

その口に鎮静剤か私のたわわな片胸ぶち込むわよ?」


痛みも気にせず起き上がるヒヅルも、流石に片腕で軽々と押さえ込まれた。


「あの……ジェーン先生。

ヒヅル君へのはしたないお言葉、やめてくださいませんこと?」

「男児の士気高揚は結構だが……風紀を乱すのはワシはどうも好かん、かの」


医務室の扉にフィリス、ウォルノ、チョウ、ミランダ、ジェイ。

そしてリンドウが訪れていた。


「あらぁ冗談よ、フィリスちゃんとジェイ副長」

目が本気だったぞ、という言葉を飲み込むヒヅル。


「とにかくよォ〜、起きて良かったぜ」

「みんな心配してタ!寝てる間のアマテラス、整備しておいたネ!」

「早速だが、私達に何があったか教えてくれるか」

ミランダの口調には、力がこもる。


リンドウが言葉を続ける。

「もし君が敵に襲われたのなら既に敵の侵入を許したことになる。


ともすれば、本格的にラインハルトはこちらを徹底して叩き潰しに来る前触れかも知れん。

実際、この数日敵の侵攻は激化している。


そこで、君の身に起きたことを教えて欲しい」


グッとベットシーツを掴み、下を向く。

『お前は独りよがりの正義の押し売りよ、それが!』

『正義で人が救えるか』


ラインハルトの言葉が思い起こされる。

自分のやってきたこと、信じてきたこと。

それが間違いだったのだろうか。


「お前がそういう顔するときはよォ」

ウォルノが静かに口を開く。


「なにか心をやられちまった時だろ?

心配すんな、それも含めて言ってみろ」


後押しされ、つぐんでいた口が開く。

「海岸線で、信じられないかもしれませんが……ヴラドミール・ラインハルトに遭遇しました。


その後、白兵戦になり手も足も出なかったです」


ジェイとリンドウを除き、一同が驚く。

「そんな、敵の大将が直接偵察に来たと、君はそう言うのかいヒヅル!

何かショックで見間違えたのでは」


「いえ、艦長。彼はそう言う男、ですよ」

「うむ、ワシもそう思う」

目をかっ開き驚くミランダの言葉を、老練の兵たちが制する。


リンドウが優しく語りかける。

「そうとなれば侵入の可能性は低い。

総攻撃の前に弱点を探しに来て帰ったのでしょう」

「あの男は現場主義、そして自分の目で一度確かめねば気が済まぬ……ワシらと並び称されていた頃から変わらぬ。

その徹底した現場把握力が、ナギヒコ様の信頼を獲得していたのだろう」


そうか、僕らの弱点を突いて最小限の武力で……待てよ?

今副長はなんと言ったろうか。


「ま、待ってください!

ラインハルトが、副長と並び称されてて、この国の先代象徴から信頼ってどういうことですか!?

敵なんですよ、彼は!」


訳がわからない。

必死に考えるものの、覚醒し切らないヒヅルの頭は情報が霧散していく。


「そうか、若い者は知らぬか。

ヴラドミール・ラインハルト、彼は元九重共和国軍人エース、クニヒト・ミノワだ。

ワシは面識が無いがな。


あることをキッカケに彼は九重共和国を捨てたと聞いている。

何が彼を動かしているかは知らぬがな」


彼が九重共和国の離反者だった。

その事実が不意に、ヒヅルにのしかかる。


かつての味方でありながら、戦争のために敵にまわっているとしたら……それはなんと身勝手な話だろう。


『変わらねえ。俺も、お前も!変わらねえんだよ!』


そんな人間に自分も同じと思われている。

そう思うと、自分の手が汚く穢れているような、自己嫌悪の渦に巻き込まれそうになるのも自明の理だろう。


「ともかく、君は彼と遭遇した。

そして彼は現場を偵察し、この島の情報を持ち帰った。

彼は何か言っておりませんでしたか?」

リンドウの声は、いつになく優しく深く響く。

何かを察し気遣ってくれているのかもしれない。


「え、えぇあぁ。『砂浜の終わり、崖っぷちになってるとこは監視の目が薄い』とのことです。

実際問題、その通りですが」

「ふむ、それは良かった」


意外な返答にチョウとフィリスが口を挟む。

「敵に弱点を掴まれタ、それが良かったとはどういうことネ?」

「チョウの言う通りです!

監視の目を増やし、備えるべきかと」


戦争において、わざわざ敵の攻めやすい布陣を敷くことに意味はない。

ただ徒に味方に逝ってこいと言うのだろうか。

だとしたら、この部隊長たるやなんと無慈悲なことか。


リンドウがそっと口を開く。

「監視の少ない場所は3箇所です。

この周辺の地下壕出口に、対戦車ライフル・対FS用貫通銃を多数配備してください。

その後退部に、P(パワード)S(スーツ)部隊を地下に配備しましょう」


意図がイマイチよくわからない、と言うのが『一人を除いた』一同の気持ちだ。

勿論、手薄なところを強化するという意味では正しい。

だが、それよりも未然に敵を発見・討伐のほうが良いのではないか。


「なるほど……ワシは乗ろうぞ、その計画。

なればカンナギは滑走路に配置、カンナギ隊はそれぞれ部隊を分散配置だな」

一人納得をするジェイは、軍帽のつばを掴んでにやりとする。

手練の者たちにしか描けぬ絵があるということ、か。


「次がおそらく、総力戦……見積もって約3倍の戦力差。

できる限り、最小限の被害で最大限を与えることが課題です。

FSだけではない、生身の対人戦もあり得るでしょう。


それでは、ヒヅルくん。あなたの一刻も早い回復を祈っております。

君の頑張りと才能は、作戦の要となります。一緒に頑張りましょう」


リンドウの言葉に、心が疼くようにと痛む。


「艦長、ワシとリンドウ氏の考えているプランを説明したい。

()()()()()がメインになります」

「うむ、分かった。

みんなも、万全の準備をしてくれ」


チョウとフィリスが敬礼をする。

……が。


「艦長サンよ、すまねェ。

俺はちょっとこいつと話すことがあってよお〜ォ。

先に行っててくれはしねェか」


その言葉を聞くなりジェーンも

「じゃあアタシも少し仮眠を取るかねえ。隣の部屋で休んでるさね」

と言い残しそそくさと部屋を出た。


「大丈夫だ、何かあったら艦長である私がいる」

「元気を出し給え、若人」

「また私ノ温かい料理、持ってくるネ」

「ヒヅル……」

他のみんなも、その意を汲み取り部屋にヒヅルとウォルノを残した。


「……さて、詳しく聞こうか」

「ウォルノ、さっき言ったとおりだよ。ヤツは」

「裏切り者の話じゃあ、ねェよ」


ヒヅルのベッドの際に座り、ヒヅルを真っ直ぐに指差す。

「お前自身の話、だ」

【ライナーノーツ】

1 タイトル元ネタ:「心綺楼」 東方Project「東方心綺楼」より。

2 キャラクターについて クニヒト・ミノワ→國仁=国をおもいやる(仁)って名前なのに敵に寝返った人間だったというのは皮肉ですね


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