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輪廻創世 アルヴァーナ  作者: ひやニキ
Chapter4 伊忌島からの凱歌 前編
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第39話 道化師が笑う頃に 後編

 「これはこれは。

開発者様自ら敵のど真ん中へお越しくださるとは」

シードルは驚きと警戒を交えながらも、うやうやしくシキに頭を下げた。

その動作は丁寧さと、懐疑的な紳士的な態度を見せた。


「アプフェル、お客様を丁重にもてなしてあげたまえ」



その一言に、突然の出来事にどうして良いか分からぬ部下が動揺を見せる。

「よろしいのですか、この男は、つ、つまりは敵であるのでしょう!?

すぐに拘束・尋問をすべきでは」


手のひらをピシッと見せるシードル。

「構いません。紅茶を淹れ、すぐに下がりなさい。

2人きりにしたまえ。そして私に何かあったときは、即座にこの男を射殺してくれ」


アプフェルがすぐに部屋を出る。




「おや、人払いですか。

僕と2人でお話ししたいことでもあるのですか?」


「当然でしょう。

まず、なぜあなたがここに来たのか?

それすら私は明かされてません」

シードルがメガネを掛け直し、冷たい声で問いただす。


一瞬の沈黙の後、言葉を選びながらシキは答えた。

「簡単なことです。

九重共和国よりも、あなた方の方が私の技術者としての腕を買ってくれると見込んでのことです」



地球儀がキィと音を立てる。

「ここまでバレずに潜入してよく言う。

対価は?」

とシードルが冷笑を浮かべ、瞳の奥は氷のようだった。


「対価として、あなたが先ほどまで知りたがっていたことをお教えします」

「足りる、とでも?」

「そう……来ますか」


シキが少しばかり、数回ばかりこするような指パッチンをする。

「わかりました、ではもう一つ。

アップデートしたシステム自体を組み上げ、提供することも約束しましょう」

「ふむ」




ここで扉がコンコン、と鳴る。

アプフェルの手には紅茶のポットとカップ。

表情は変わらずに同様に震えた、オドオドとした様子だ。


「いいところに戻ってきました。

彼に特別な部屋を与えてください。

明日より特別技術開発部を設立、彼主導のもと動いてもらいます」

「は……はぁ」

「分かったら、直ちに用意を」


突然の命令に、彼は円卓に紅茶を置いて慌ただしく部屋を出た。

威圧感と貼り付けた笑顔により、再び部屋には策士だけが残った。



「では早速ですが、ゼロワンとヒヅルとやらの差を教えてもらいましょう」

「あぁ、それは簡単なことです」

シキが部屋をゆっくり歩き、円卓に置かれた近づいて自分のカップに紅茶を注いだ。



「ヒヅルに渡した太極図システムは発掘されたロスト・プライムの技術に、全くの手を加えず組み込んだオリジナルです。


ですが、それでは万人が扱いきれない。

そこで、ある程度誰でも扱えるようダウングレードしました。


そもそも太極図システムの最たる有用性は、直感的な機械操作の実現、そして神経組織との接続により考えたことを実現する思考操作です。


これにより、練度の低いパイロットはおろか民間人すらFSを乗りこなせます。


しかし同時に弊害も発生しました」



ここで少しばかりシキが紅茶をすする。

「ふむ、香りの良いアールグレイ。

この地域は軟水なのですね。


さて、その弊害とはパイロットの潜在能力と真価を引き出せないことです。


スペックの低いハードウェアでは、どれだけ優秀なソフトウェアでも扱いきれないのと同じです。


代わりに、暴走を防ぐことにも役立ってますが」



シードルは後ろ手を組んだまま、質問を投げかける。

「つまり、発掘されたままのオリジナルを組み上げられれば、覚醒した兵士も現れる、と。

ですが、オリジナルを扱える”鍵”について、あなたは何も触れていませんね?」


「ほう、痛いところを突いてきますねえ。

……と言いたいところですが。

それはアナタがよく知っているのでは?」



シードルの眉がピクリ、動く。

「僕と同じくアナタも、なんでしょう?

アナタも同じ」

「そう……でしたか」


メガネのフロントを指で支え、少々俯きながらシードルが言葉を遮る。

「その天才的な頭脳……私と同じ”女神の祝福”を受けた、選ばれた民でしたか」



「図星、というところですか。お人が悪いですねぇ、最高司令官補佐様。

答えを分かっていて質問をするとは」

シキがニヤリと口だけで笑う。


「なら私が話せることはここまでです。

では、明日より開発に取り掛からせていただきます。

あぁ、あと。

やたらとカンナギ隊に精通したアナタはご存知かと思いますが」

シードルの肩がピクリと動く。


部屋を出る直前、シキはシードルに背中を向け一言放った。

「ヒヅルは、強いですよ。

まだ羽化しきってはいませんが。

いずれ、アナタとも相まみえるでしょう。それでは」


パタンと閉じる音が、広い部屋に乾いた音を立てて響く。




「フッ、シキ・ヤサカ。

『そこまで』知っていたとは……今回は勝ちを譲りましょう。

ですが、最後に笑うのは私の方です」


シードルがゆっくりと顔をあげる。

その瞳には、数刻前よりも輝々煌々とランプの火が照らし出されていた。

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