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輪廻創世 アルヴァーナ  作者: ひやニキ
Chapter4 伊忌島からの凱歌 前編
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第36話 lion -レオン-

 ブラダガム帝国 海上戦艦一番艦「トライトーン」

ラインハルトが貸し与えられたこの艦に、若人の声が響く。


「ラインハルト、どういうことだ!

なぜメアリーだけを出して、俺を待機させた!

答えろ!」

エムルはその目を怒りに真っ赤に染め、艦長室のデスクを叩く。




「おぉ、これはこれは皇太子殿。

今日もご機嫌麗しゅう」

怒鳴り散らすエムルに対し、飄々とした態度のラインハルトの姿はコントラストが非常に強く映る。


「……ッッッ、

貴様ああァァ!俺を馬鹿にして楽……ッ!」

「そこまでだぜ、青二歳。

まるで盛りのついた猫みてぇじゃあねぇか」


人差し指を立ててラインハルトが制止する。

「ったく、何度言やぁわかるんだ?

アンタがどんな身分の高い野郎だろうが、所詮はガキ。


んでもって俺はここの指揮官。

いわば責任者ってぇワケよ、だからラインハルト『中将』って呼びな。

ついでに言うとちゃんと敬え、な?」

ニヤつきながら、立てた人差し指を真っ直ぐエムルに向けて会話を進める。




「父上にこのことは報告させてもらうぞ、ラインハルト中将!


そして答えろ!

俺がヤツを……ヒヅルを落とせた絶好の機会を!」


変わらず吠える青年を見つめ、キョトンとしたかと思うと、ラインハルトはガハハハと笑い飛ばした。

エムルが酷く愚弄されたと感じたことは、言うまでもない。


「何がおかしい!」

「当たり前だろ、テメェが?なんも背負ってすらいねえ奴ぁ、できるわけねえ!

俺もさせるわけにもいかねえってワケよ!」


「い、言わせておけば!!

俺が、何も背負うものがないなど馬鹿にするのか!……いや、するつもりですか!」

怒りに拳を握りつつ、ラインハルトに再度指を突きつけられて言葉を抑える。




「いや、テメエの生まれを考えりゃあ『なんも』背負ってない、っつーのは言い過ぎたと思ってらあ。


お前さんはお父上や周囲に期待されて、その重圧があるって意味じゃあ背負ってるだろうさ。

だがな?」

ここで、言葉を切りパイプをふかす。

ふぅ、と吹く間に沈黙が流れる。


「だがな、お前さんは『あるモン』って意味では戦争中に背負うものがゼロなんだよ。

分かるか?」

エムルに問いかけるラインハルトの目はニヤニヤしながら笑っていない。


「戦うための信念、とか言うつもり……ですか」

歯を食いしばり、青年は唸るような声を出す。

だが、その回答に対して老獪な策士はピクリともせず切り返す。


「違うな、そんな青臭えものを俺が重視してるように見えるか?」

「で、では大事な人や勲章」

「カーッッッッ、浅い答えだな」



パイプをエムルの方に向けてラインハルトが嘲る。

「答えはなぁ、『責任』だ。

皇太子サマよ。あんたは確かに戦闘においては強い。


最近負けるまでは連戦連勝、本国から真っすぐ東の海まで敵をなぎ倒した位だ。

戦争経験の長い俺も、アンタ程の強さはそうそう見たこたあ、ねえ」


「……ありがとうございます」




「けどよ。

それまでに死んだ部下は勿論、万が一作戦に失敗した時や、現場の重鎮を死なせた時に誰がその責任を取るんだ?


俺等は最悪、自分の命で償わなきゃならねえ。処刑ってヤツだな。

お前の場合は皇太子よ、立場上の都合で命では償えねえ。


じゃあ答えは一つ。

お前の親父さん、皇帝がその責任も背負うか、権力で握りつぶすってワケだ。


そんなお前さんを、皇帝陛下やお偉いさんはどう思う?

ましてや、部下はついてくると思うかあ?


そう甘くはねぇよなあ?

そうさね、それは責任を背負ってないで行動した者は、同時に『信用』も積み重なってねえんだよ。


信用できねえヤツってのは、大事な仕事はさせられねえし昇進もさせられねえ。


お前さんはいつまで経っても、父上が認めてくれねえと思ってるかもしれねぇな?

でもそりゃあ俺達大人の世界じゃ認められなくて当然だろ?

馬鹿だなああぁぁぁ世間知らずでガキの皇太子サマよお?」




下を向き、エムルはグッと歯を食いしばり、グルルと唸るような声しか出せない。

他方ラインハルトは椅子に座り泰然自若としている。


「俺はこの部隊の部下に……情も興味もねえ。

俺は戦争と殺しが出来ればいいからよ!


でもよ、祭りで殺しを楽しく効率的に遂行するためには、責任を果たし信用が必要だ。


その信用についてくる部下って駒を動かして俺の快楽を満たす。

シンプルな話よ」



ラインハルトは続ける。

「そーなるとだ。アンタを好き勝手させるわけにもいかねえのさ。

身分の良い馬鹿をホイホイ戦場に出してみろ?


俺は戦争を楽しめない。

なんなら俺の首が飛ぶ、そんなんは勘弁だ。

だからもっと勝てる勝算の高い時にアンタを出すだけさ」


「では、俺がヒヅルを倒すために何からすれば良い?

答えてくだ」

「教えてください、だろ?

口の聞き方に気をつけな、ヒヨッコ」

今までにない鋭き目つきで歴戦の将が若造の言葉を遮る。


「……教えてください」

「知りたいか?俺はもう答えた。

責任ある戦い方をした上で、敵の首取って信用を集めるこったな。


アンタにあのお人形さん押し付けられてんのも、アンタが部下を持って責任取れっか見られてんだろうよ。

それだけだな」


無情に冷たく言い放たれた言葉に、エムルは押し黙ることしかできなかった。

これまで彼は、おそらく浴びたことないほどの物言いを一身に受けたに違いない。



「では、失礼します」

何もできずくるりと後ろを向くと、綺麗な銀髪がなびく。

ラインハルトが、その後ろ髪を引き止める。


「おい、その前に『ありがとうございます』だろ。

お前の出身はスラム街か?」


「……ありがとうございます」

振り向きもせず、エムルは後ろ手に言い放ち部屋を出た。



「ケッ、皇帝陛下も息子があれじゃあなあ。

ちったぁ、猫から獅子に成長してくれねえとな」

部屋に残され悪態をつく。


「あんなんじゃそのヒヅルとやらに一生負けるか、最悪殺されるだろうな。

ソイツに固執してるかすら、理解してねえんだからよ。


おい、キャッフェ。

話聞いてたんだろ?」




突然に名を呼ぶと、天井の通気口より、少女が現れた。

「にゃは〜ん、バレてましたかねこの気配。

キャッフェ・ラッテ密命とあらば、あ、お聞きいたしやすぅ〜」


薄い茶色に白髪混じりのふんわりしたショートボブ。

人間と大差ない姿に見えるが、本来の位置に耳はなく、頭の上から猫の耳が生えている。


軍服の短いスカートの上から尻尾が覗く点も人からかけ離れている。


猫型亜人とヒトのハーフ、キャッフェ・ラッテが身軽に宙返りをしつつラインハルトにうやうやしくひざまづいた。



「あの男、エムルの護衛としてヤツの小隊に入りな。

あまりにも無責任な時は……構わねえ。殺せ」


「無論、承知ねこの命令。あっしにお任せを」

芝居かかった口調でキャッフェが応える。



「さて、俺も自分の責任を果たすとする、か」

おもむろに、デスクの上の写真立てを伏せて天井を見上げるのであった。

【ライナーノーツ】

1 タイトル元ネタ:「レオン」 ジャン・レノ演じるオジサンと少女の物語。ライオン=獅子。lionはフランス語読みでレオン


2 キャラクターについて:

・キャッフェ・ラッテ → カフェラテ。猫耳美少女にホロ苦く甘い名前を。


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