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輪廻創世 アルヴァーナ  作者: ひやニキ
Chapter4 伊忌島からの凱歌 前編
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第35話 Boy met Girl

 ヒヅルの自室。

いつものように、ウォルノと言葉を交わす気力が起きない。

誰かに理解を求める気分さえ、起きてこない。


「そもそも分かる訳ないんだ」

そうつぶやき、ベッドの天井を見つめる。



髪型こそ違うけど、あれはセイラだ。

あの声、あの顔、あの眼。


筒の中から、お守りとして大切にしていた家族写真を取り出す。

そこには、笑顔を浮かべるセイラの姿が映っている。


「僕のせいだ。僕に、あの時……力さえあれば」

明かりも灯さぬ室内に、ヒヅルの言葉は虚しく溶けゆく。



「あの……ヒヅル。入るわね」

コツコツコツ、と扉を3回叩き、フィリスが足を踏み入れようとする。


が、フィリスは一瞬で戸惑いを感じた。

それもそのはずである。


彼は自分のベッドに寝そべり、暗く閉ざした窓を背にして無情な闇に身を委ねていた。


誰の目から見ても、絶望の淵に身を置く様子がありありと分かる。


ヒヅルはフィリスの方に目をやることもない。

不穏な沈黙が、ただただ部屋を支配していた。



「ヒヅル…」

もう一度フィリスが彼の名を静かに呼ぶ。


だが彼は一瞬動き、しかし彼女を見ることもない。

悲壮、その言葉が最も彼を着飾るに相応しい空間であることは変わりなかった。


「……」

「……」

ベッドから動かないヒヅル。

扉の前から動けないフィリス。

2人の間に重い沈黙が、続く。


「彼女は…セイラだった。

間違いない、間違うわけがない」

沈黙を先に破ったのは、彼の方だった。


嘆きに彩られた、色彩に欠く乾いた声がフィリスの耳に幽かに届く。


ベッドへと、一歩一歩近づく。

だが、今のフィリスにとって探せども探せども、彼の心に届く言葉を見つけることは、難しいことを無意識に感じ取っていた。




たった数歩の距離は、まるで星々の彼方のような遠い距離。

その光年の果て、彼の側に背を向けて座り込む。


「私にも」

絞り出すような、か細い少女の声。


「私にも姉がいるんだ」

フィリスは一瞬躊躇したが、言葉を続けた。



「お姉ちゃんは、私の大切な存在なの。

とても凄くて、色々な人の期待に笑顔で応えて。


頭も良くて冷静で、私がいじめられてても助けてくれる。

何でもできるそんなお姉ちゃんが、私も大好き」



(なんで私は自分の話をしてるんだろう)

ヒヅルを元気付けるためか、はたまた。



「私は何をやってもお姉ちゃんの下位互換。

周りの付き人達もそう噂してたわ。


だから私は、そのお姉ちゃんにできないことをしよう。

そしてそのことがお姉ちゃんのためになることをしようと思った」



(バレちゃいけないのに)

自分の意思と相反して、フィリスの口は身の上話を続ける。


「それは、『お姉ちゃんを守ること』

そのために、私は戦争に参加すると、決めたの」

ヒヅルはちらりと目を挙げ、フィリスの背を見る。


「どうして、そんな話を」

「さぁ、私にもわからない」

目を合わせられないのは、お互い様だ。



「私のお姉ちゃんは、私にとってすごく特別な存在で、私の理想。


でも、私はその理想に追いつくことができなかった。


そのことが私の心にいつもあるの。

だから、私も何かしらのお姉ちゃんの姿が心に残っている」



ヒヅルの方を振り返るフィリス。

その仮面の奥に隠された瞳が、どんな色の目をしているのだろうか。


「だから、あの子もきっと同じ……なんじゃあないかしら。

メアリー……いえセイラも」

何かを抑えるように小刻みに震えながら、静かにそう優しく言葉を贈る。


「彼女は、ハッキリと僕に『知らない』と言った。

敵として現れるあの子は、『まだ』セイラではないだけなのかもしれない」




ヒヅルが呟く。

「昔、セイラがいつまでも小学校から帰ってこない時があった。

いつもなら帰宅する時間なのに、その日は18時を回っても帰ってこなかった」



フィリスの初めての自己開示に、つられてヒヅルが返報する。


「父さんも母さんも心配になってさ、警察に相談してた。

でも僕には、なぜか何処にいるか分かったんだ。

『きっとセイラはここにいる』って」


「どこにいたの?」

「通学路からちょっと外れた花畑。

たまたま見つけた、見たこともない浅い緑と白の、或る花を見てたんだって。

それで」


「それで?」

震える声でフィリスが先を促す。


「それでセイラが振り返っていったんだ。

『やっぱり、来てくれたんだ。そろそろかなって思ってたよ』

って」

その言葉を聞いて、なぜかフィリスの胸がキュッとする。


「思ったんだ、その時。

どこにいても、離れても、僕たち兄妹は再び会えるって。

でも。でもこんな再会の仕方って無いよ」


今にも泣きそうなヒヅルの顔。

そんな顔を見ている彼女もまた、泣きそうな気持ちになってくる。



静かに、心の奥に湧き上がる複雑な感情と向き合いつつ言葉を返す。

「なら、また迎えに行けばいいじゃない。

忘れていても、あなたがまたいちからあの子の"希望"として時間を紡げばいいじゃない。

1人で無理なら……私達だって、協力するわ」


自分の中の葛藤と戦いつつ、少女は手を差し伸べる。



突如、堰を切ったように泣き出すヒヅルを、きゅうと優しくフィリスが抱き止める。

「ありがとう、2度も守ってくれて。

今度は、私が守る番……なのかもね」


仮面の隙間からも、一筋の光が頬を伝ってこぼれ落ちる。

それに気づくには、ヒヅルには今は精一杯であった。

【ライナーノーツ】

1 タイトル元ネタ:「BOY MEETS GIRL」 TRFの曲。

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