第34話 Green-Eyed Monster
「誰、アナタ……私は知らない」
蛇腹剣を伸ばさず斬りかかる。
「知らない……あなたも、セイラも」
「違う、僕だ!僕だよ!!僕なんだ!!!」
ヒヅルの叫びは虚しく、ビームセイバーと蛇腹剣が鍔迫り合う音に吸い込まれる。
「お前はエムル様の、ブラダガムの敵。排除」
「もう、思い出せないのか……ッ!」
小さい頃からのセイラとの平和な日々が甦る。
アサガオを2人で育てたこと。
算数を教えてあげたこと。
家族みんなで夕飯を囲んだこと。
そして、片手だけを遺して目の前から消えた、あの日のこと。
「邪魔……消えて」
力で押し切られたアマテラスは、イゾルディアの蹴りと共にそのまま空へ吹っ飛んでいく。
「ダメ、なのか……」
ヒヅルの中で何かが折れる。
放心する中、ビスクドール2機が逃さずその背後を取る。
「やらせるかーーーーッッ!」
フィリスが、ビーム乱射をしながら、突撃する。
そのままビスクドール達を阻み、イゾルディアに回転蹴りで特攻する。
「ウザい猫」
「アナタがいるから!」
回転蹴りを剣で受け止めて、弾き返す。
「ヒヅル、しっかりして!……うああッッッ!」
バック宙をするマドゥ=クシャに、ビスクドール達が背後からまるでサッカーボールを弄ぶかの如く蹴りを入れる。
その後方、バシャンと音を立ててアマテラスは海へ沈んでいくのであった。
冷たく暗い水面の下。
セピアー色の記憶が、まるで活動写真のように脳裏に浮かんでは消えていく。
「セイラ……僕の知ってるセイラは……どこなんだ…」
虚空に手を伸ばすヒヅル。
その度にセピアー色のそれは、触れることもできず、消えていく。
嗚呼……そうか。
僕が、僕が守れなかったから。
セイラという人間はこの世にいなくなってしまった。
何も出来なかった……。
そんな兄なら君に拒絶されて殺されても……仕方ないんだ。
『太極図システム パイロット適合率 13%』
アマテラスの目が消え、より深い蒼に染まっていく。
その刹那、大きな衝撃が海上からヒヅルの元に伝わった。
「ヒヅル!いつまでアナタきゃあっ!!
助けに……来なさいよ!」
フィリスの声が、仄暗いコックピットに響く。
「私だけじゃなく、みんなが死んでもいいの!!
また、失ってもいいの!?」
!!!!
「そうだ」
一筋の光が、海底に差し込む。
ヒヅルが小声で呟く。
「ここで諦めたら」
呼応するかのように、アマテラスの目にも光が宿る。
「僕はまた、きっと後悔する!!」
『太極図システム パイロット適合率 121%』
『Genetic Code』
『Fragments “AL-VANA”』
ヒヅルの瞳が、また再び突如青竹色に輝き出した。
イゾルディアが、マドゥ=クシャの右手を切り飛ばす。
「猫じゃなくて、ダルマね」
「攻撃武装、全損……!両腕既に欠損!
もう、ダメ!ヒヅル……化けて出るわよ!」
「さよなら。ビスクドール、一斉射撃」
「了解」
その瞬間、マドゥ=クシャの目の前に水柱が飛沫をあげた。
「……また来たの」
「ヒヅル?!」
突如として、海中から飛び出したアマテラスは、そのままビームセイバーを横に薙ぐ。
その一閃がビスクドールの一体の羽根を切り裂いた。
「背後」
残ったビスクドールが、後方よりセイバーで斬りかかる。
「イゾルディアだけでも帰さなくては……ガッ……!?」
おそらくパイロットも、何が起きたか分からないまま、痛みも知覚するより早く死んだに違いない。
コックピットが一瞬で潰れ、パイロットが血飛沫と肉塊になる。
ヒヅルは、驚異的な反射で振り向くと、なんとそのままスナイパーライフルの銃床で思い切りコクピットを潰したのだ。
「銃で殴るな、という決まりはない」
そのまま念入りにライフルごと敵を真っ二つに切り裂いた。
振り向かず、背部ビーム『日照』でイゾルディアの手足を狙う。
「見えてるの?ヒヅル?」
「そこに」
すかさずビスクドール隊が入り、セイバーでビームを切り払う。
イゾルディアが、まだ動けるビスクドールを連れて撤退を始める。
「部隊半壊。撤退を優先」
「捕縛優先、取り戻さないと」
「深追いするから!」
フィリスもマドゥ=クシャの姿勢制御をしつつ、ヒヅルを止める。
着信の音とともに、ヒヅルの画面にミランダが映る。
「フィリスの言うとおりよ。
戻ってきなさい、ヒヅル」
「ですが、まだ」
ミランダが通信でヒヅルを制する。
だが想い虚しく、アマテラスのエネルギーダウン寸前を告げる警告音が鳴り響く。
「そうネー!敵は去ったヨ!
ヒヅルもアマテラスもお腹ペコペコ、帰って肉まん食べて元気出す!」
チョウの明るい声がヒヅルの脳裏に届く。
「……そうか。僕は。
一旦は島に希望をもたらしたんだね」
呼吸が浅く、汗をかきながらヒヅルは我にかえった。
それを見つめるフィリス。
ヒヅルの姿を見て驚くものの、同時に彼の力に、本当に希望たる何かを感じずにはいられなかった。
「僕は、君がセイラでもメアリーでもいい。
この戦いを終わらせて、君を……」
「そう、あなたの目には」
海の向こう、小さくなっていく影。
そこにヒヅルが何を見ているのか、フィリスには分からない。
そして何故か、その姿にフィリスは一抹の不安。
いや、不安とは違うどこか燻った何かが芽生えた気がした。
「なんなの、『メアリー』って」
_________。
「イゾルディア、帰投しました」
「収容しろ、各部点検!
ビスクドールはフライトユニットの廃棄と交換をしろ!」
作業員たちは、イゾルディアがラインハルト艦隊のドックに戻る様子を眺める。
コクピットが開き、メアリーが降りてくる。
「メアリー様、ご無事で。
……顔色が優れませんがいかがしま……ぐぅっ!」
話しかけた整備員の横っ面にメアリーの裏拳が走る。
「うるさい」
…………、その時メアリーの脳裏にヒヅルの顔が浮かぶ。
そして。
知らない記憶。
アサガオ、算数、そしてこれは、父、母……あ、に?
「あなたは……邪魔者……知らないしらないシラナイう、うああぁぁぁ!!」
急な頭痛に倒れもがくメアリー。
「早く救護室へ運べ!!
誰かメアリー様に鎮静剤を!!」
即座に近寄ってきた医療班が大量の鎮静剤を打ち込む。
「急な発作。原因は不明」
「一体なんなんですかね。この御仁は」
医療班の1人が答える。
「ただの生体パーツ、ですよ」




