第33話 紅緋色のイゾルディア
ラインハルトの宣戦布告が伊忌島全土に、冷たくそして激しく響き渡る。
「俺はあんたらに恨みは無いが、興味もねぇ。
ただお上の命令でよお、その堅固な要塞を落としてこいってことよ。
幾度となく島の侵攻をしくじった前任は、キチンと俺が捌いてやった。
だから、安心しな!今までのチマチマした退屈なゲームじゃねぇぜ!
もっとド派手なゲームをしようぜ!
じゃあな!」
通信が終わると同時に、響き渡る警報。
「海上に敵部隊5機確認!約5分後にこの島に到達します!」
「先方部隊、様子見…ってことね。
ヒヅル、フィリスの両名で出撃!」
きびきびと指示を出すミランダの顔は、既に生死の覚悟が決まった表情に切り替わっていた。
軍人は誰しもそうである。
誰がいつ死ぬかわからない、ギリギリの状況下。
島に上陸してから昨日までの束の間の、柔らかな時間。
それそのものが珍しいのだ。
その優しい時間を惜しみながら、ヒヅルはコックピットに搭乗する。
「ヒヅル、敵は海上だからウォルノは出撃できない。
機体修理が完了している私達しか!」
「フィリスが前で僕が後方から援護?」
「最初から!」
先の撤退戦の経験か、阿吽の呼吸を形成しつつある。
「ヒヅル・オオミカ、アマテラス!行きます!」
「フィリス、マドゥ=クシャ出撃!」
伊忌島の滑走路から2機が勢いよく飛び立ち、空を切り裂いて翔ぶ。
リンドウから2人へ通信が入る。
「敵の目的はこちらの勢力調査……、あまり深追いせずによろしくお願いします。
もし、あまりに押されるようなら、海岸線にFSを配備しますので、射程範囲まで撤退してください」
「「了解!」」
ヒヅルとフィリスは声を揃え応答した。
水平線の彼方より、迫り来る影が矢のように現れ出でる。
「来た!空中4機、ホバー1機!」
「分かっていてよ…………!あの子は!」
瞳に映された、海を割り滑るイゾルディア。
フィリスはその姿に、セイラの姿が脳裏をよぎる。
天使のような羽根をつけたビスクドール達が上空へ散開し、2人へ鉛の雨を降らせる。
ヒヅルは即座にスナイパーライフルをイゾルディアに向ける。
「連携重視……ならあれを落とせば!」
「ダメ!あなたがあれと戦っては!」
「落とされろって!?」
「分からないの!でもッッ!」
ヒヅルが放った2発の閃光を、イゾルディアは蛇腹剣で切り裂く。
「うるさい……4人も。敵も」
背部から誘導ミサイルを大量に撃ち返す。
誘導軌道上に味方がいてもお構いなしだ。
(海にハイブ無し……スナイパーライフルと背部ビーム『日照』の乱射でも捌ききれない!どうする……!)
「できるだけこちらで!」
マドゥ=クシャが両肩の盾内ビーム砲を回転乱射、縦横無尽の弾を減らす。
「この数ならまだできる!」
「その間に私が前へ!」
「上下だッッ!!」
フィリスの上下から、ビスクドールがセイバーを抜き切りかかる。
空中でフィリスが宙返り、剣先がかする。
「理解は便利ね、互いがどう動くか!」
宙返った合間に抜いたクナイが、下方の一機の羽根へ刺さる。
羽根をもがれた天使は、そのまま太陽から遠ざかり海へ叩きつけられる。
「距離……取った」
「させるかぁぁぁぁ!」
一振りの蛇は、天使へまとわりつく猫に噛みつこうとする!
その軌道を、ヒヅルはビームセイバーで弾き返す。
「なんなの……あなた」
「お前の方こそ!」
ヒヅルは奇妙な感覚があった。
蛇腹剣の動きが、分かる。
まるで、だだをこねるかのようなその振り方に合わせて切り払える。
不思議な感覚に襲われつつ、間合いを詰める。
「とった!距離!」
「…………」
メアリーは、知っているかのようにセイバーの振りを、飛んでかわして鍔迫り合う。
「………………」
「っ!!敵からの映像通信!?」
「知ってはいけない!ヒヅル!……ああっ!」
フィリスが必死でアマテラスの方へ、手を伸ばす。
が、伸ばした手は虚しくビスクドールに切り落とされる。
(気になる……なぜ分かる!互いに手の内が!)
ゆっくりと応答に手を伸ばすと、イゾルディアの心臓が映し出される。
そこには
(ヒヅル、あなたは)
「ッッ……!嘘だ……!!
君は、君は……ッ!」
顔の半分を隠す紅い髪。
胸元から下がった"それ"は、ヒヅルの胸元の"それ"と同じ。
そして、少し成長しているが、忘れ得ない顔つき。
(知ってはもう、戦えないの!)
「セイラ、なの……か」
「……」
前髪の間からちらりと覗く冷たい目が、ヒヅルを見つめるのであった。




