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底辺男のミセカタ 〜ゴミスキルのせいで蔑まれていた俺はスキル『反射』を手に入れて憎い奴らに魅せつける〜  作者: 筋肉重太郎
第二十五章 第二防衛基地での契約

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電話

「ふう……」


 その後も他愛もない話をして、仕事の邪魔にならない程度で電話を切った。


「…………」


 私は何もしゃべれない。その場にあるのは鍋の中で煮込まれるカレーが沸騰する音だけだ。少し目を閉じてからゆっくり目を開け、少し前まで彼と過ごしていた部屋を目に入れた。


 朝の日光が窓から入り、生活感のある部屋に日の光と言う彩りが加わる。きれいに畳んだ洗濯物が全体的に柔らかい印象を与えるだけでなく、カレーの沸騰音と換気扇の音が素朴感をプラスし、理想的ではあるものの手の届かない範囲ではない魅力を感じさせる。


(はーっ……ちょっと前までどうってことない場所だったのに……)


 彼と電話して、彼の声を聞いて、彼の帰ってくる居場所を私が守っているんだと、そう考えれば考えるほどなんてことのない部屋が、美しいでも魅力があるでもなく、今までにない感情として、愛らしくなってくる。


 彼と出会ってから、完全にほだされている。何度こう思ったことだろう。


(もう今更ですけどね……)


 今回の電話をかけた理由にもなるのだが、彼の声が聞きたかったし、彼に声を聞かせてあげたかった。彼も私と同じように相手の声を聞いたら安心してくれると思ったから。


 ……それと、ちゃんと電話に出てくれて嬉しかった。


「ふふ……元気出してくれるかなー?」


 それでも、あくまで私は帰ってくる居場所だ。帰ってきて欲しいなんてそんなことは絶対に言わない。


 彼の目標も戦う理由も私は何も知らない。体も心も距離が急接近したであろう戦争前ですら何も話してくれなかった。つまり聞かれたくないことなのだろう。


 ならば聞かない。私はただの居場所だけれど、私は彼の居場所だから。黙って次の旅に向かう彼の背中を見守って、帰ってきたらいっぱい癒してあげるんだ。


「けど、ハカセってのは気になりますね……帰ってきたらもっかい聞かないと」


 彼は自分に興味のないかつプラスにならないことはほとんど本当のことを話してくれるタイプだ。なので、本当にハカセはおじいさんなのだろうが……真実と私がどう思うかを別だ。帰ってきたら、しっかりこの目でそのハカセとやらを拝んでやろうではないか。


 問題なのはその後だ。戦争で疲れた心と体を日単位で癒してあげなくては。


(帰ってきたら何してあげよっかな……そうだ。最近練習した鶏チャーシューでも振る舞って……それでお風呂にも一緒に入って、夜は……うへへへへ……)


 彼との妄想に悦に浸っていたところを、後ろからふわりと漂う焦げ臭い匂いに現実へと呼び戻された。


「あ、カレー焦げちゃう……」


 すぐにでも火を止めなくてはカレーが焦げてしまうのに、私の体はノロノロとまるでナマケモノのようにしか動かない。が、そりゃそうだろう。私と彼との繋がりが焦げついた匂い程度に負けてたまるか。


 しかし、彼は仕事をしている最中なのだから、何度も電話をかけるのは良くないな。次はラインにしようと、次の彼との時間に思いを馳せて浮き足立っている私は、何をされても気にしない状態になっていた。





 それこそ、電話から再び鳴る電子音に気付かないほどに。

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