束の間の休息
「ふーむ……」
俺、黒ジャケットこと田中伸太は拠点としているテントにブラックを警備として置き、俺自身は離れて新潟派閥と東京派閥の動向をチェックしていた。
「ハカセの言った通り、もう2日経ってるのに何の動きもねぇ……さすがハカセってとこか?」
宗太郎に鉄球を飲ませた次の日の朝、ハカセとの話し合いでは、両派閥のこれからの動きについて、今、現在の状況と全く同じものを喋っていた。
『戦争も佳境に入ってきおった。これから先、一手一手が重要になってくる。戦力の移動や作戦のために両派閥はあまり動かんじゃろう。少なくとも1週間は動かんはずじゃ……第三に言っても、さすがに警備を強化しておるじゃろう。その時のために英気を養っておけ』
(やっぱ……さすがだな……)
俺なら、焦った東京派閥が遅れを取り戻すために新潟第二防衛基地に軍を向かわせると予想していた。その考えのままに行動していたら無駄な労力を消費することになっていただろう。
「この様子じゃ、わざわざテントから離れる必要もなさそうだな……」
テントに戻ってしまおう。そう考えて踵を返した時、俺のポケットから、人間に警告を伝える電子音が鳴り響いた。
「うおっとと……電話?」
こんな時に一体誰が何の用なんだと、着信ボタンを押して耳にスマホの画面を押し当てる瞬間、心地良く、それでいて飽きず、落ち着く声が耳の中に入ってきた。
『もしもーし、元気してますかー?』
「……ああ、元気だよ」
俺が間違えるわけがない。1日中、特に戦争前の1週間ぐらいは他の人間であれば嫌になるほど聞いてきたのだ。
「お前も元気にやってるか? 袖女」
『あいあい。私は大丈夫ですよー』
――――
にしても、袖女から電話がかかってきたのは戦争中では発だ。ということは、今日に限って何かがあったに違いない。
「どうした? 何かあったか?」
俺ほどではないが、袖女もチェス隊からの裏切り者として日本に報道されている。新潟派閥側から誘いがあったので、ある程度は問題ないと思っていたが……
(まさか、通報でもされたか?)
『そんな警戒しないでくださいよ。調子はどうだって聞きにきただけです』
こちらを落ち着かせるその言葉を聞いて、締まった胸がふっと弛緩する。
「なんだよ……何かあったのかと……」
『あはは……心配しないでいいですよ。あなたと比べれば……で、そっちは大丈夫なんですか? ご飯ちゃんと食べれてますか?』
「お前はおかんか」
『愛人枠ではあります』
常に気を張り詰めなければならない戦場においては、こういった軽口の叩き合いの時間が地味にうれしい。
「飯はちゃんと食べれてるよ。大丈夫かどうかは……次の瞬間までわかんないな」
『……そうですか……ま! 今は大丈夫そうでよかったです。ブラックも元気ですか?』
「ああ……元気だよ。今はテントを警備してくれてる」
『それは良かった……ん? テント? 防衛基地じゃなくて?』
(あ、やべ)
『まさか、あなた……』
しまった。新潟派閥から抜けて単独行動しているのを袖女はしらんのだった。
「じゃー切るから! 電話サンキューな『おいちょっと待て、説明して貰おうか』……はい」
てな訳で、俺は全部を話すことになった。
最初に新潟派閥が不意打ちに失敗してしまい、それが引き金になって俺とハカセの2人で単独行動していて、第一と第二防衛基地を夜戦で単独破壊した。その全てを。
『うーん……そのハカセって言うのは……』
「ああ、伝えてなかったか……まぁ、協力者って思って貰えればそれでいい」
本当は協力者どころかの話じゃないんだが……まぁ、説明してもしょうがない。
『……そのハカセって……女の子じゃないですよね?』
何言っとんだこいつ。
「なわけねーだろ。ただのジジイだわ……何を聞いとるんだ」
『だ、だって! あなたのことだから、ハカセって男っぽい名前で女性の線もあるかなって……浮気は駄目ですからね!』
「フツメンだわ! おかんかオメーは!」
『愛人枠ではあります!』
「……っとゆーか、そっちなのかよ。基地単独破壊の方が驚かれると思ったんだが」
『そっちはあなたなんで当然です』
急に早口で否定してきた。まぁ、強さの方面で驚かれないのは、こちらに対する信頼を感じられてむしろ良い……のか?
『それに、あなたが強くてこっちも誇らしいです! そのままガンガンやっちゃってください!』
「……ああ、任せとけ」
『で、帰ってきたら……』
『またご飯、作らせてくださいね』
「……ああ、楽しみにしとく」




