それはとても鮮明に
俺の耳に入った言葉。姫。そう言われた途端、図星を突かれてうつむくしかなかった頭を上に向けるのには、充分過ぎる衝撃だった。
「……なぁ」
「ん? なんだ?」
俺に衝撃を与える発言をしたにもかかわらず、黒ジャケットは何もなかったかのように飄々と問いかけに答える。
(少し遠回りではある……だが、あの発言は……!)
「さっきの"姫"……あれは――――」
「当然、桃鈴才華だが?」
「――――ッ!」
やはりだ。となると1つの疑問が浮かぶ。そしてその疑問の答えによっては……あまり考えたくはない1つの可能性が浮き上がってくる。
「……なぜだ」
「あ?」
「なぜ、お前は……俺が桃鈴様の護衛をしていると知っている?」
桃鈴様を知っているのは理解できる。桃鈴様は他派閥にも名前を驚かせているし、それは我々も鼻が高い。だが、その桃鈴才華という存在を守る護衛騎士団。それは東一だけの名であり、桃鈴様ほどの知名度ではない。
それをなぜ知っている?
「俺が……いや! 俺たちがあの方の護衛であるのを知っているわけがない。それなのに……なぜお前は知っている?」
至って当然の問い。だが、黒ジャケットはまだ笑みを崩さない。
「……お前らがお前ら自身の知名度を勘違いしているだけじゃないのか? その剣、見ているだけで質の違いをビリビリ感じるぜ。それほど印象に残るスキルなんだ。だんだん覚えられてきてるんじゃないか?」
(……嘘だ)
あまりにも見えすいた嘘に、思わずこめかみにシワが現れる。我らの知名度がだんだんと上がってきただと? そんなわけはない。それだけはありえないのだ。
「……俺が本格的に任務に、戦争に参加したのもこれが初めてだ」
「……おっと」
(逃さない。絶対に)
「それなのに、なぜお前は無名であるはずの俺を知っている? それだけじゃない。黒ジャケット。お前はさっき、お前らと言ったな?」
その時初めて、フードに隠れた黒ジャケットの目が見開いたような気がした。
「お前の前にいるのは正真正銘俺だけだ! なのに……なんで! 俺だけではないことを知っていた!? お前は、もしかして……俺は……俺が、思っている以上に……」
点と点が薄く伸ばされ線となり、自分が予想だにしなかった黒ジャケットの正体に近づいていく。
黒ジャケットが初めて姿を表したのは神奈川派閥での一件だ。確かあの時に俺たちも黒ジャケットなる存在を知った。
しかし、その以前に起きた東京派閥近くでの大量殺人。あれには黒ジャケットが関わっている可能性があるという。ほぼ都市伝説に近い話ではあるが、そこで経験を身に付けて神奈川派閥へ……というのは不自然な話でもない。
さらに言うならその後東京派閥に向かい、なぜか文化祭に現れて、俺たち護衛騎士団の内の2人。騎道兄弟と戦った。話を聞いた時から少し疑問だったんだ。世間的な目線としては文化祭を襲撃することで得られるメリットなんて何もない。名声狙いという声が世間では一般的だが、すでに神奈川派閥であれだけの大犯罪をした後に知名度狙いで文化祭を襲撃するのは違和感がある。
ここまでの話をまとめると、黒ジャケットの出自には東京派閥が絡んでいる可能性があり、さらに神奈川派閥から出戻りで高校の文化祭を襲撃する理由が黒ジャケットにはあるということ。
「お前は……東一の人間なのか!?」
黒ジャケットは何も話さない。喋らない。ただ、先程までの笑みはなく、何なら少し顔を俯かせていて、不都合なことが起きていることを感じさせた。
――――つまり、図星。そう確信した瞬間、黒ジャケットの口が僅かに歪んだ気がした。
「……見事だ。今からでも探偵になれるんじゃないか?」
そして、両手でジャケットの襟を掴み、フードを……降ろした。
おそらく世界初であろう黒ジャケットがフードを降ろした姿。ぼやけてよく見えなかった目元がついに明らかになる。
血が凍る。血流が速くなる。呼吸が不安定になり、脳がその光景を拒絶する。
鮮明になったその顔を見た時、なぜ自分たちの、桃鈴様が進む道にいつも黒ジャケットがいるのか。その理由が嫌でもわからされた気がした。
「改めて……久しぶりだな。宗太郎」
田中伸太……なのか?




