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パンゲア王国の異端児譚  作者: 霧ヶ原 悠
第五章  中央に広がる暗雲 射抜け、灰色の眼差しよ
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 その夜も、アッシュはカリルから連絡をもらった。

 『聞けよ、アッシュ! 裏がとれたぜ。ハミルタの『年半ばの盗人』と王都の例の空き巣は同一人物だ!』

 「! そうか。他に分かったことっていうのは、あるのか?」

 『もちろんだぜ。ハミルタの最初の被害は三年前だ。それからだいたい半年ごとに、祭の準備期間約一ヶ月の間に平均三、四件ずつ入られている。その九割が祭の関係者だってよ。たいして王都はといえば、一年半ぐらい前から二ヶ月にに一回の間隔で、ほぼ断続的に被害が出ている。全員が附属学院の下宿生だ』

 「……一年半の間、王都で被害が集中しているってことは、犯人は今王都に住んでいるということか」

 『だろうな。んで、祭の時期にハミルタへ来るんだ。祭本番前も何かとイベント多くて人が集まるし、みんな忙しいからつい防犯意識が下がっちまう。その隙をついてるわけだなー』

 「何気にあの祭、有名だからな。そんな奴、けっこういるだろ」

 『なーに。手がかりゼロに比べれば、だいぶ進歩したぜ……っと、ヤベ! 先輩が呼んでる! じゃ、とりあえず報告をまー』

 「ふっ。せわしないな、がんばれよ」

 『おう!』

 ぶつっと慌ただしく光が消える。

 「ふー……」

 息を吐き出して横になり、今まで聞いたことを整理しながら考えてみる。

 (年半ばの盗人……。なぜ半年ごとなのか? おそらく祭があるからだ。なぜ祭の時期なのか? 被害の九割が祭の関係者ということは、彼らをターゲットにしているに違いない。祭の責任者は役所の人間だが、構成される実行委員のほとんどは主婦だ。いいパートの仕事になるんだと聞いたことがある。つまり、祭の時期の実行委員宅は留守になることが多いということだ。空き巣にも入りやすいはず。鍵も窓も破壊しないなら、さほど人目を気にすることもないだろう。どうやっているかは知らんが……)

 すなわち、犯人は実行委員が誰なのか、彼らの家がどこにあるかを知っている人間ということだ。

 (これはひょっとすると、相当なスクープになりかねないんじゃないか?)

 ふっと室内の暗さが増した。イルダスもリビドーを消し、そろそろ寝るらしい。

 アッシュは横を向いて、さらに考えを進めた。

 (王都の空き巣は、なぜ一年半前からなのか? それはその頃から王都に住み始めたからだ。……いや、就職や異動は普通春だ。もしかしたら、住み始めてから空き巣に入るようになるまでは、少し期間が空いているのかもな。王都での生活に慣れてきたから、空き巣を始めたのかもしれない。ではなぜ、学院の下宿生ばかりを狙うのか? …………)

 そこで思考は止まる。さらにその先を考えるには、情報が足りなかった。

 空き巣にもっとも入りやすいのは、一人暮らしの家だ。中でも特に、学生の一人暮らしだと、留守番のアヴァターラもまずいない。ミツヤも言っていたが、学院に限らず学校の授業でアヴァターラを必要とするから、常に手元に置いておかねばならない。女子生徒の場合、いいボディーガードにもなる。

 (逆に考えよう。なぜ学院以外の学校に通う下宿生を狙わない? 下宿先が分からないからか? ではなぜ学院の生徒の下宿先は知っている?)

 そのとき、ふと別のことに気がついた。

 (待てよ。就職や異動などでこの街に来たということは、カタギの奴なら昼間は働いているはずだ。だが空き巣に入りやすい時間帯もまた昼間だ。となれば、空き巣の実行犯はもしかしてアヴァターラなのか?)

 この仮説が正しければ、侵入手口のことはさほど気にかける必要はない。そういうことができる固有能力を持つアヴァターラなのだろう。

 (物体を通り抜ける能力か。それとも、たとえば髪の毛を自在に操り、わずかな隙間から侵入して鍵を中から開けるというようなものか。だがなんにせよ、指示を出すのは人間だ。学院の生徒に何か恨みでもあるのか。たまたま学院生の下宿先の近くに住んでいて、そこの管理体勢を知れたからそこばかりを狙うのか……)

 これ以上考えても、先に進めそうにない。

 アッシュは目を閉じると、深い眠りへ落ちていった。


  ……わいわいがやがやざわざわ。

  無数の人が同じ場所で勝手に話しているせいで、何を言っているのか分からない。

  空は赤く、影が長い。夕方だった。

  人にぶつからないように、大通りをフラフラ歩く。

  開けた場所に出ると、細い紐が縦横無尽に建物と建物の間に張り巡らされていた。

  そこに下げられたたくさんの提灯が目に入る。

  祭りのときは、街中に提灯が飾られるのだ。

  色とりどりのそれは、夜になるととても綺麗だった。

  何気なく左を向く。よく見た光景なのに、妙に理解しがたい気持ちに襲われた。

  乳白色の太陽が空にあった。

  視界の右から左へ横切っている提灯を下げた紐は、なぜだろう。

  太陽を背にしている部分だけ消えていた。


 ぱちっと目を開いた。石の天井が見える。一瞬、ここがどこで、自分は何をしていたのか分からなくなった。

 一分、二分。と時が経過し、ようやくアッシュは自分が夢を見ていたのだと自覚した。

 (一体いつの夢だ、今のは……)

 ベットの上で身体をのばす。時計を確認すれば、起床時刻の十分前だった。

 (中等校時代は一度も行ってないから、少なくとも三年以上前か……。おまけに、あのことを不思議に思っていた時期となると、初等校時代じゃないか?)

 あのこと、とは、太陽を背にしている部分の紐だけが消えていたことだ。成長したアッシュは、その現象が「回折」と呼ばれるものであると知っていた。回折とは、光や音などの波が進むとき、障害物に遮られるとその背後に回り込む現象のことだ。

 (今さらなんであんな夢を……。祭の話をしていたからか?)

 


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